あとがき

 ようやく「あとがき」を書けるまでに至りました。長かったです。日々の生活と小説を並行して書くのは、こんなにも難しいことだったのかと痛感することが多々ありました。何もなければ一年で終わらせる自信はあったのですが、結局二年半かかってしまいました。

 この物語の主人公、水島あおいはわたしです。

 生き方とか経験してきたことが同じわけでは決してないですが、彼女はわたしと似た部分の多いキャラクターでした。彼女を描く時はいつも、鏡に映った自分と対話しているような、深く昏い井戸の底に映る満月のゆらめきを見ているような感覚でした。わたしの中にいる、もうひとりのわたしといっても過言ではないです。感情描写を極力省いた描き方をしていますが、行間や言葉の節々から感情が滲むような、浮かび上がるような印象があればいいと思っていました。自分の分身ともいえる彼女を描けてよかったです。

 他のキャラクターたちも、とても楽しみながら書きました。難しかったキャラクター、変な愛着を覚えてしまったキャラクターなど、語るときりがありません。それぞれの生き様を描きながら、にわか物書きとしても、ひとりの人間としてもいろいろ学んだ気がしています。

 作中に登場する画文集は東山魁夷氏の『四季めぐりあい 冬』(講談社刊)で、引用させていただいた絵は「湖岸」と「白馬の森」です。図書館でこの本と初めて出会った時、当時まだぼやけていた物語の輪郭がはっきりと浮かび上がってきました。この本との出会いがあったからこそ書けた物語でもありました。個人的な創作活動ではありますが、東山魁夷氏への感謝と敬意をここに書き添えさせていただきます。

 この物語は、生きていく上で何かを失った人たちの人間模様です。生きているものだったり気持ちだったり、失ったものはそれぞれに違うけれど、それを取り戻したり、また失ったり、代わりの何かを得たり、失ったまま歩いていったりと、何かを失いながらも生きることと真摯に向き合う人たちの生き様を描いてみました。

 読んでくださった皆様が、何か少しでも感じ取ってくれたり、心に触れる何かがあったなら、書き手としてそれ以上の喜びはありません。長く長い物語を見守り続けてくださり、本当にありがとうございました。皆様なくして、決してここまでは辿り着けませんでした。今はもう、感謝の言葉しか浮かびません。

 小説を書いていてよく思うのが、創作はわたしにとって一番の自己表現だということです。わたしの人となりを知りたい人には、スピーチみたく言葉で自己紹介するよりも、小説を読んでもらったほうが早いとすら思えてしまうほど。この作品もわたしにとって、名刺代わりのような存在になりました。この物語を描けたこと、とても誇りに思います。また次の作品でお目にかかれることを祈って、地道にこつこつと精進いたします。

 最後に、この物語はフィクションです。登場する人物、場所、団体などは、実在のものとは一切関係ありません。

 読んでくださって、ありがとうございました。



咲原 かなみ


二〇一〇年三月二十七日

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