第5話「カップル成立記念パーティー」

 結果的には笹原圭一とカナちゃんはめでたくカップル成立となりました。


 カナちゃんの誠意あるしゃもじモノボケには笹原の至高にフィーリングせず、一度は終了、残念賞と告白は失敗に終わっていたのだが、去り際に言い放った捨て台詞の『ブス』には至高の可能性が秘められていたみたいで、その後圭一が追いかけ逆告白に至ったらしい。


 そして本日の放課後、つまり今現在なのだがとてもめんどくさいイベントが執り行われようとしている。



「センパイッ、早くしてください。本当にどんくさいですね。いつもこんなようなら別れますよッ」


 HR終了後、一年の教室から我が物顔で我がクラスに突入してきたカナちゃんの第一声がこれだった。


 どうも逆告白を受けた際のポイントとなった『ブス』のことで、笹原にMッ気があると勘違いしたみたいだ。


 カナちゃんが急かしているのは勿論今から始まるイベントの事なのだが、その内容がまた厄介でカナちゃん自身が企画したカップル成立記念パーティー(第1部)をやりたいとの事らしい。


 普通こういうのやらねえし、仮にやるとしても友達がセッティングするもんじゃねえの?


 招待されたのは俺と、高野姉弟、そして航平である。


 招待客に俺たちをチョイスした笹原も当初、特に乗り気ではなかったはずなのだが、『新しい何かを始めるのは、新たな笑いが見つかる最高の機会だ』と訳が解らない承諾をしていた。


 おいおい、お前大丈夫か?パーティー第2部は後輩の友達グループで行われるらしいぞ!完全に見世物じゃねえか。


 ちなみに俺以外の参加者はとりあえず笹原に今日の放課後に予定を空けておいてくれと言われていただけなので、いまいち要領を得ないまま教室を出ていく笹原&カナちゃんカップルの後に連なってパーティー会場へと足を運ぶ。



 到着したのはまさかの生徒会室。


「失礼しますねー」


「なんだ!なんだなんだッ、討ち入りかッ!?」


 ノックもせず豪快に不在中のマークが掛かった扉を開けて突入したカナちゃんに、流石の津野会長も身構えている。


 うすうす感じてはいたが、カナちゃんはかなりヤバい子だった。


「あ、会長も副会長も是非参加してくださいねー」


 カナちゃんはそう言って、生徒会室に積み上げられている段ボールから様々な菓子を取り出しテーブルに配置していく。


 とてもナチュラルな行動なのだが、その菓子は生徒会の私物であってカナちゃんの所有物ではない。


 地元の菓子工場である多胡中央製菓が悲運にも食品トラブル(異物混入か何かだったと記憶する)に見舞われた時、社長にその解決策を丸投げされた津野会長が、ブツクサ言いながらも収拾させた一件で毎月生徒会大量の菓子が送られてくるのである。


「一応、学校行事というていなので遠慮なく使わせてもらいますねー」


 そんな超個人的な学校行事なんて聞いたことないがな。


 そして、いい感じにテーブル上にお菓子が散りばめられ、副会長が人数分のお茶を並べてくれたところでこれまで沈黙を保っていた高野さんの美咲姉さんが口を開いた。


「で、一体これは何の茶番なのかしら?」


 一般生徒なら間違いなく失禁ものであろう、高野姉さんの睨みに津野会長は『俺は知らん、何も知らんぞ!』といの一番に無罪を主張していた。


 しかし、そのおっかない口調とは裏腹に、隣に座る対熊戦闘要員の高野(弟)に『これはダメ、これならイイかも』と防腐剤や着色料の種類を見ては菓子を取り分けているので何とも言えない感じである。


「実はですねぇ、この間、笹原センパイに告白されちゃいまして、そのご報告と言いますかねー。まあそんな感じです」


 高野姉さんのダークアイに怯むことなく本日の内容を言い放ったカナちゃんは、自分が先に告白したという経緯を既に無かったことにしていた。


「ふうん、圭一がねえ……とうとう彼女をねぇ」


 俺と同じく笹原には多分恋人は出来ないだろうと思っていた高野姉さんは少し驚きの顔を見せていた。


「それが何か俺に関係があるのだろうか……」


 途轍もなく無関係なことに巻き込まれた津野会長が不憫で仕方がない。


「おい、津野ー。炭酸は無いのか?ポテチ食ってんだから炭酸だせよー」


「炭酸はダメよ、祐樹には天然果汁のジュースを頂戴」


 遠慮もクソもない航平には流石に一言言ってやろうと思った矢先、高野姉さんが更にハードルを上げてきた。


 天然果汁て、今から搾れと仰るか!?


「頼むからお前達、帰ってくれはしないだろうか……」


 そう愚痴るも、津野会長に目配せされた副会長は冷蔵庫から1.5ℓペットボトルの炭酸ジュースと紙コップを持ってきて、更にはリンゴやバナナなどの果物と牛乳を取り出していた。


 ミックスジュースを作る気らしい。



 そんなこんなで、チューはもうしたのか?とか笹原は既に尻に敷かれているだの、カップル中心の話で多少は盛り上がったパーティーも締めに入ろうとしていた。


「と、言うことで皆さんこれからも色々あるかと思いますが、よろしくお願いしますねー」


 カナちゃんの言葉を皮切りにさて帰るかーと皆席を立ち始めた様子を見て津野会長は安堵の表情を見せていた。



 が、第2部があるのをまだ知らない津野会長がマジで不憫ッス。


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