第4話「笹原圭一は笑いこそが全て」
昼休みにアカン子で毎度おなじみ木田航平と、我がクラスでとても残念な一面を持つ
ちなみに、同じく共にジャッジメントとして駆り出されたのは熊殺しの守護神を弟に持つ高野(姉)であるが、夕飯の献立を考えていたところを邪魔されたみたいでかなり不機嫌である。
「相棒、恐らく共に逃げ切るのは不可能の様だな」
意外にも様になっている笹原。
「ジャック、ここは俺が囮になるからお前だけでも逃げてくれ!」
同じく意外とそこそこノれているじゃないか、航平も。
彼らの演じるワンシーンは銃を持った敵に包囲され追撃を振り切れないといったシチュエーションらしい。
「俺がフェアじゃないのが嫌いなのは知っているだろう?ここは一つこのコインで決めようじゃないか」
「OKジャック、恨みっこナシだな。……俺は表に賭ける、賭けたほうが出れば俺が囮になる」
航平の身振り手振りがいちいちオーバーアクションなのにムカつく。
「了解だ相棒、裏が出たら俺が囮だ文句はないな。……いくぞ」
「ちょっと待てッ、今すり替えたのはジャックがいつもイカサマで使用している両面コイン―――」
なんともベッタベタな内容に隣の姉さんもイライラが増長してきている。
「ここで止めるのはナンセンスだぜ相棒ッ!ピィーン……パシンッ!!……表だ」
まさかの表かよ。相棒囮にする気満々じゃねえか。
そもそも、ジャッジもなにも評価基準は何なんだよ!!
「そこは考えてなかったなぁ」
航平の考え無しは何時ものことだ。
「え?笑いが評価基準じゃなかったのか?」
おぉい笹原、映画のワンシーンを笑いで評価させんなや。
「……こんな映画見る価値ないわ」
ご立腹である美咲姉さんは、実に端的で的確な感想述べ去っていった。
審判用に準備された椅子を蹴り飛ばして。
と、まあ冒頭で紹介した笹原圭一の残念な一面とは常に彼の行動原理が『そこに笑いがあるかどうか』だという部分である。
実に悔やまれるのが、彼がイケメンで頭も良く、運動神経抜群というトリプルクラウンの持ち主だというのに、『至高の笑い』という特殊嗜好のおかげで一流シェフの作った最高級のフランス料理に味噌を加えてしまったが為に全てが台無しになったというような男であるところだ。
更に彼の『至高の笑い』はいかんせん独自性が強いが為に、中々他人と笑いの波長が合わないというか、周囲から受け入れられていないというか、つまりは大してウケていないのだ。
実に勿体ない。
なんだかんだ馬鹿げたことをしているうちに昼休みは終わり真理子ティーチャーの受け持つ5時限目の現国がはじまる。
「出席とるぞー、合田~いるなー、加納…は、ガムを噛むな、今すぐ口から出せよー。笹原~、笹原? 笹原!?」
「はい?」
「何故Tシャツ一丁なんだ!?っつーか、するめってなんだ!?」
ティーチャーのツッコミに笹原の方をみるが、本当に上半身が半T一丁だった。
黒地のTシャツに大きく毛筆体で書かれた白字の『するめ』が醸し出す何とも言えないシュールさが今の彼の至高なのだろう。きっと。
「ま、まぁいい。風邪ひくなよ、笹原」
妙なところで大らかな担任なのだが、さすがに気疲れしたのか横に置いてあるパイプ椅子にドカッと座―――
「ふぇあッ!!」
座ろうとしたが、パイプ椅子の座位部がマイナス10度に曲がり下がっていた為、座り込んだ勢いでそのまま前のめりにダイブしてしまい胸部を床に打ち付けてしまう担任。
ハイ先生、犯人は高野(姉)です!!昼休みにその椅子を蹴り飛ばしていたところを僕は目撃しました!!
とは言わない。隣人(姉)の狂気な瞳がそれを言わせてくれなかった。
「ステファニー!!平気かいステファニー!?」
「ステファニーって誰だ!?」
心配そうに担任を見る笹原と、誰だソレと突っ込む担任。
本当に誰だよ?ステファニー。
「もちろんさっき強打した、先生の保有する左の子に決まっているじゃないですかッ!!」
乳か!?お前は担任の左乳に名前を付ける猛者だったのか!?
真理子ティーチャーは胸を手で覆い顔を真っ赤にして小刻みに震えていた。かなりヤバい感じである。
「き、貴様は自分の担任になんとセクシャルな発言をっ。……ちなみに聞くが、右は……?」
「ん?右?……んー、右の子は………よし子?」
まさかの異国間コラボに真理子ティーチャーはブチ切れ、授業はひっちゃかめっちゃかになってしまった。
ちなみに航平と祐樹は授業中終始、ドラゴンへの有効打の与え方について意見交換をしていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「はい、みんな解散」
本日のHRは5時限目に半狂乱になってしまった担任が帰って来ず実施されなかったため、我がクラスの委員長である高野姉さんが解散の音頭をとった。
帰宅部の俺は即座に帰り支度して教室を出たのだが、その廊下で恐らくは一年の子だろうと思われる一人の美少女に呼び止められた。
「あ、あの、私
また笹原か。
俺が奴を呼んでやると、加奈ちゃんとやらは「ここではなんなので…」とか言って笹原を連れて行った。
間違いなく告白だろう。笹原の容姿・知力・体力の三冠に騙されて泣きを見る女の子は再々出現するので慣れてしまった。
今回の被害者はカナちゃんらしい。
もちろん俺は追跡する。何故なら、2年の教室まで呼び出しにくる勇気あるとても可愛い女の子が玉砕した後フォローしなければならないからだ。
そして傷ついた心に付け込んで、あわよくば俺が頂戴できるかもしれないという打算があるからだ。
校舎裏で対峙する二人を物陰から伺う。
「わ、私、笹原センパイのことを一目見た時から憧れていましたッ!!」
「んー、もしかして、俺と付き合いたいとかそんな感じの用件?」
いや、お前そこは黙って最後まで聞いてやるのが男だろう?笹原はなんとも性急でいかん。
それでも勇気ある加奈ちゃんは顔を真っ赤にして俯きながらも「はい」と答えていた。
「ああそう。じゃ、ハイ」
笹原!?何故しゃもじを渡す!?
「え?え?しゃもじ?え?」
勇敢ガールのカナちゃんも流石に動揺している。
「ん。いいから早く、これで何か面白いことやってよ」
なんという無茶振りだろう。
普通ならここで試合終了であるが、カナちゃんはこの場から逃げ出したりしない。とてもとても勇敢な女の子だった。
顔をリンゴのように紅潮させ、たどたどしくも一生懸命何かをしようとしている。
「……し、視力検査ッ」
お、俺的には満点ですッ!!
溢れ出さんばかりの恥じらいとそれに負けじと健気に頑張るその姿が愛くるしくて堪りません。
しかし、問題は笹原の反応だ……
「去ねッ!!この小娘がッ!!」
笹原的にはアウトだったらしい。
「ひ、酷い。センパイのひとでなしッ!……このブスッ!!」
ぶ、ブスて…
カナちゃんは勇敢な上に強い子だった。
スンマセン、僕強い子は要りません。
俺は去っていくカナちゃんを眺めて心底思う。
笹原が笑いの波長を恋人の選定基準にしているうちは生涯独り身ではないだろうか?
「『このブス』はちょっと面白かったかもしれない」
そうでもなかった。
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