日曜日:『愛の雨』
靴ひもをきゅっ結んで、深呼吸をしてから家のドアを開けます。外に出ると、太陽の光が、よろめきそうになるくらい光輝いています。
もう、週末です。真っ青な空が広がる日曜日ですが、今日も相変わらず雨は降り続けています。
こんなにも、大好きであふれています。
■
少しだけ、昔話をさせてください。
たぶん、まだ小学校に入る前だったと思います。私は台所で椅子に座って、ぼーっと窓の外を見つめていました。毎日毎日雨は降り続けているのに、いつも日曜日だけ、太陽がまぶしく私たちを照らしているのがどうしても不思議だったのです。
そしてその疑問を、お母さんにぶつけてみました。
「ねえ、お母さん」
「なに?」
「どうして、日曜日になると何も降らなくなっちゃうの?」
「んー」
お母さんはしばらく考えていました。当時から、このお母さんの考える様子は見慣れた光景だった気がします。そして少し考えた後、お母さんはいつも答えてくれるのです。
「しずく、何も降っていないように見えるけど、ちゃんと降ってるよ。雨。」
「?」
「『愛』が、たくさん降ってるよ」
この時、返答に困ったのをよく覚えています。
「……アイ?」
「そう、『愛』。誰かが誰かを、大好きだーって思う気持ち。それが愛」
素直に、難しいなと思いました。言葉で言われてもピンと来なくて、ずっと首をかしげていたような気がします。考えても考えても、どういうことなのか分かりませんでした。
だから、次に言ったお母さんの言葉を聞いて、すぐ納得できたことに、すごく変な気持ちになったのです。同時に、私のお母さんはすごいなと、思い知りました。
「しずく。私ね、しずくのことが大好きなの。これが、『愛』」
「……私も、お母さんのこと、大好きだよ」
「じゃあそれも、『愛』ね」
お母さんは、笑っていました。その笑顔は、太陽の光の中に包まれて、すごくきれいであったかかった。きっと、お母さんには知らないことがなくて、いつだって私に、いろんなことを教えてくれる。そんなお母さんがお母さんで良かったと、この時初めて思いました。
■
二羽の雀が、仲良く空を飛び回っています。今日は、とてもあったかくて、キラキラしています。まるで、花の雨が降る日のように。この間の木曜日のように。星たちが輝く、金曜日のように。
天気は、心に似ています。もしかしたら神様は、自分の心を天気で表そうとしているのかも。
明日は、服も靴も濡れちゃって、いつもよりちょっぴり暗くて元気が出ない、そんなユーウツなはずの月曜日。
でも、私としぐれ君なら、なんてことのない月曜日です。
しぐれ君の家に行くはずだったのに、道端でばったりしぐれ君と会ってしまいました。ちょっと戸惑ってしまいましたが、気を取り直してプレゼントを渡します。大好きなしぐれ君に、私の思いと一緒に。
私の顔は、きっと真っ赤だったと思います。
しぐれ君は、いつも通りのふわふわ笑顔でした。いつも通りの顔で、いつも通りじゃないことを言うとは、思っていなかったけど……。
「明日は、相合傘、しようね……」
「……え」
昔、お母さんが教えてくれた、相合傘。水の雨の日にしかできない、特別なこと。そういえば、この間高校生カップルがしていたような……。
急に、恥ずかしくなってきましたが、心は嬉しさでいっぱいでした。
明日は、私としぐれ君の特別な月曜日。
私たちの間には、前よりちょっとだけ、あったかいものが増えた気がします。
また、新しい一週間が始まります。
この世界を虹と呼ぶ またたびわさび @takazoo13
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