だいがわり
小択出新都
だいがわり
【さいしょ】
いったいなんなのだ。わけがわからないのだ。
「どうしたの、アライさん。むずかしい顔しちゃって」
アライさんは『アライさん』なのだ。
『ヤツ』がいうにはそうらしいのだ。
アライグマのフレンズというやつで、この前、この島で生まれたのだ。
『ヤツ』というのはヤツのことなのだ。
ほら、いまもすぐ後ろをついてきている。
きつね色の髪をしていて、大きな耳が特徴の。
たしか名前は……えっと……。
わ、わすれたのだ……!
「お、おい、お前……」
「んーどうしたのー? アライさん」
「な、な、名前……!」
「ん? また名前忘れたの? ちゃんと覚えてよ~。フェネックだよー。フェネック~」
そう!フェネックという『ヤツ』なのだ。
こいつったらアライさんが生まれてから、ずっとアライさんのあとをついてきてるのだ。
ブキミでしかたないのだ!
生まれたときもすぐにそばにいたし、顔を合わせたばかりなのにアライさんアライさんってなれなれしく呼んでくる。
なによりついてくるなって言ったのについてくる。
本当にわけがわからないヤツなのだ。
「おいお前、フェネック、ついてくるなといったのだ! なんでついてくるのだ!」
「それはアライさんについてこいって言われたからだよ」
「はあ!? そんなこと言った覚えないのだ! 嘘なのだ!」
「嘘じゃないよ。アライさんとちゃんと約束したよ」
「だから、わたしはずっとアライさんについていくよ」
「ぐぬぬぬ!」
いっても聞かないやつなのだ!
こうなったらアライさんのスピードで突き放してやるのだ。ついてこれるなら、ついてこいなのだ!
「ああ、アライさーん。あんまり走っちゃだめだよ~。生まれたばかりなんだから危ないよー」
ぎゃあああ!沼なのだ!
溺れる!溺れるのだぁ!
「もう、アライさんってばしょうがないなー」
結局、フェネックってヤツに引き上げられたのだ。
「ここらへんは沼が多いから走っちゃだめだってー」
屈辱なのだぁー!
【しばらく】
山を進んでたら、分かれ道があったのだ。
「フェネック、どっちいったらいいと思うのだ?」
「うーん、どっちもそんなにかわらなそうだね。アライさんの好きなほうでいいよ。ついてくから」
「なんでお前はそんなに主体性がないのだ!」
「そんなことないよー。ちゃんと自分の意思でアライさんについてってるよ」
あれからしばらく経ったのだ。
いい加減、フェネックがついてくるのも慣れたのだ。
フェネックってば本当に仕方のないやつなのだ。アライさんが先導してやらないと何もできないのだ。
「仕方ない右に行くのだ! アライさんの野生の勘がそう告げてるのだ!」
「あいよー。じゃあ茂みには気をつけてね。ここの森には、ヘビがいるらしいから。噛まれたら痛いよー」
「ぐぬぬぬ! 脅かすなのだ! フェネック!」
「脅かしてなんかないよー。心配してるんだよ、アライさーん」
「とにかく行くのだフェネック! しっかりついてくるのだ!」
「うん、ちゃんとついてくよー」
まったくしょうがないやつなのだ、フェネックは。
【そして】
「よし、今日もお宝をさがしにいくのだ! フェネック!」
「うん、わかったよー。今日はどこいくの?」
「あの山が怪しいのだ」
「あの山、この前も行ったばかりだけど」
「まだまだ探したりないのだ!」
そういえば、フェネックと出会ってもう何年も経ったのだ。
最初はずっとついてくるのに驚いたけど、今はすっかり慣れたし、気分も悪くない。
今はアライさんとフェネックですっごいお宝をみつけてパークの人気者になるのが目標なのだ。
「それじゃあ、しゅっぱつなのだ!」
手をあげて走り出したら、フェネックがいつものように返事してついてくるはずだった。
でも今日は聞きなれた足音はなく、後ろでドサッと鈍い音がした。
振り返ったら倒れたフェネックがいた。
「ど、どうしたのだフェネック! だいじょうぶなのだ?!」
「うん、だいじょうぶだよ……アライさん……」
そんなわけないのだ。フェネックはとても苦しそうな表情をしていたのだ。
近くのフレンズたちに頼んで休めそうな場所に、一緒にフェネックを運んでもらったのだ。
フェネックはずっと寝たまま、起き上がれないのだ……。
「フェネック、しっかりするのだ! ほら、じゃぱりまんを食べて元気になるのだ! アライさんの分もあげるのだ! そしたらまた一緒に冒険するのだ! お宝を見つけて一緒にパークの人気者になるのだ」
「あはは……ごめん苦しいよ……アライさん……」
じゃぱりまんを食べさせようとしたけど、フェネックは食べなくて、弱々しく首を振るだけだった……。
「元気になるのだ、フェネック! 一緒に冒険するのだ! 約束したって言ったのだ! アライさんについてくるって……! 破るなんて許さないのだ……!」
「だいじょうぶだよ……約束……ちゃんと守るから……」
「じゃ、じゃあ、元気になるのだな!?」
「わたし…ちゃんとついてくから……」
「フェネックぅ、元気になるって言うのだぁ!」
「ずっと……ずっと……アライさんに……ついてくよ……」
「だから……安心してね……」
【最初】
目をあけてすぐ映ったのは、独特の模様だった。
上から、灰色、白、黒、白の四段重ねの前髪。それから小さな耳。
起きたばかりのわたしの前で、小柄な、わたしと同じくらいの大きさのその人が、腕を組んで、自信満々の表情でいった。
「ようやく起きたのか、フェネック。まったくお前はねぼすけなのだ!」
「フェネック……?」
わたしはその言葉に首をかしげる。
何の話か分からない。
ちょっと困惑したわたしに、その人は指をつきつけていった。
「フェネックはお前の名前なのだ! お前はフェネックなのだ」
「はあ…」
まあ、そうらしい。
特に否定する根拠はない。
微妙な表情で頷いたわたしに、目の前の人は胸をどんと叩いてみせた。
「生まれたばかりで不安だろうが安心するのだ! このアライさんがしっかりとお前を導いてやるのだ! アライさんに任せておけばすべて安心なのだ!」
別に不安に思ったわけじゃないけど…。
どうやら目の前の人はアライさんっていうらしい。
なんか、やたらと自信満々だけど、こう空回りしてそうな、いろいろと失敗しそうなそんな雰囲気がする。
「じゃあ、早速出発なのだ! ついてこいなのだ、フェネック!」
そういうとその人は急に走り出してしまった。
わたしはあっけにとられて、そのまま置いてかれてしまう。小さな背中がもう見えなくなった。これじゃあ、追いかけようがない。
それから10分ぐらい経って、ぜえぜえはあはあ言いながら、その人がもどってきた。
「こら! ちゃんとついてくるのだ! フェネック!」
「あなたが急に走り出すから……」
「む、アライさんのことはアライさんと呼ぶといいのだ」
「んー……アライさんが急に走り出すから」
まったく強引な人だなあ。
「しょうがない慣れるまでゆっくり先導してやるのだ。だから、お前もちゃんとアライさんについてくるって約束するのだ!」
「約束? それってしなきゃだめなの?」
首をかしげるわたしにその人は頷いた。
「当たり前なのだ!」
正直、まだわけがわからない。目の前の人、アライさんは強引だし、説明はめちゃくちゃだし、行動はちょっとお間抜けだ。
でも、ふしぎと悪い気分じゃない。
だからわたしは頷いた。
「うん、わかった。とりあえずアライさんについてくよ」
「とりあえずじゃない。ずっとなのだ!」
「うん、ずっとね」
そうしてわたしはゆっくり走るアライさんの後ろを歩きはじめた。
だいがわり 小択出新都 @otaku_de_neet
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