最終 マイナス1話 最後の出撃
読んでる人も少ないし、別に好き勝手書いているだけなので、描きたい場面だけ先行して書くことにしました。
なので、壮絶ネタバレあり・いきなり最終回のノリです。そういうのが嫌な方は読むのをやめた方が良いことを警告します。
警告しましたよ? いいですね?
【前回までのあらすじ】
なんだかんだあって新型モーターメイデン――駆逐型MMが完成した。
ピーキーな調整が施された新型騎を自在に乗りこなすリーア、ならばとさらにピーキーに調整していくオスカーという構図により、もはや信じられないレベルの機動性・運動性をもつにいたったそれの完成報告は上層部を喜ばせた。
それと同時期に蠢動する各国の不穏の影。
アーデを失うという痛手と共に新型機奪取未遂事件を乗り越えた学園だが、それを口実に連邦王国の軍政計画に本格的に組み込まれていく。もともと独立性の高い学園といえども連合王国の機関であることには変わらないのだ。
連邦議会はひとつの重大な決定を下した。
作戦名”オーバーロード”――魔獣の巣”オーバルネスト”への大侵攻作戦。
数十年前に行なわれた魔獣掃討大遠征”グランドクロス”作戦において、ついに突き止めた魔獣たちの大規模な巣。発掘戦艦4隻護衛艦艇12隻 総参加人数6万6千人強という連邦史上最大の規模で行われた大作戦は、報告・連絡のために戻ってきた連絡小隊数十名を除き未帰還者99%超という多大な犠牲を支払って失敗した。最後の連絡は”これより魔獣の巣へと突入する”という音声連絡と、巣までの距離と方角。
それらの貴重な情報をもとに参謀本部で研究されていた大遠征計画だったが、あまりにも多大な犠牲により低下した国力の回復と、世論が許すまで数十年の時を必要としたのだ。
その間着々と増強されてきた戦力。
古代超文明が遺した超大型発掘戦艦を旗艦とする陸上戦艦八隻と護衛艦八隻の大艦隊。
そして新造なった新型モーターメイデン24騎と従来型モータメイデン24騎という連合王国が所有するモーターメイデンの実に30%を投入する大遠征計画。
それには、当然のように新型騎の第一人者である学園生たちも組み込まれた。彼女たちとて実戦経験者であり、なによりも軍所属の特務大隊でもあったのだ。
かくして始まる大遠征。
進む先の魔獣のことごとく掃討し、古代から伝わる地形図の照合をしながら往く旅路は順調だったが、突如として大量発生した魔獣の群れによって護衛艦艇の一部が撃破され、モーターメイデン数騎を失う。
その後も昼夜を問わない魔獣の襲撃に艦隊は疲労していき、これ以上の進行は危険と判断した提督が「
だが、時すでに遅し。既に魔獣の大群に取り囲まれていたのだ。
――かくして、総力戦となった。
昼夜を問わずに攻め寄せる魔獣たち。
艦隊のの主砲が咆哮し、銃座は絶え間なく銃撃を続ける。見る見るうちに減っていく燃料弾薬。
一時は艦隊旗艦の際まで攻め寄せられ、
ついに一隻の護衛艦が機関異常が発生して擱座し、群がる魔獣たちに乗組員がことごとく惨殺された。
関節の異常加熱で動けなくなったモーターメイデンもまた群がる魔獣たちの前に倒れ伏す。
一騎、また一騎と減っていく戦力。ろくに休めない乗組員たちの疲労も限界に近くなり、そして――
絶え間なく続く銃撃と砲声が轟いている。
砲火の衝撃波が艦の内外を叩く中、ひときわ大きく鳴り響く警告ブザー
ビービービー!
『モーターメイデン着艦、モーターメイデン着艦! 上部甲板注意! 上部甲板注意!』
艦の内外で黄色い警告回転灯が明滅し、艦外拡声器の大きな警告が流れた直後――
ずっどぉんっ!
地表から大跳躍をしてきた巨人が轟音を立てて衝撃吸収甲板に着艦する。
『リーア少尉騎着艦! リーア少尉騎着艦! 甲板員以外は退避! 甲板員以外は退避!』
「防護服無しは退避っ!! 防護服無しは退避っ!! 死ぬぞっ!」気密頭部保護具をかぶりながら甲板員が怒鳴る。
『酸素減少予告! 酸素減少予告! 10秒後に冷却剤放出!』
空気救急ホースをつないだ革製防護服の整備員たちが冷却剤散布ホースを抱えて走ってくる。
『冷却剤放出開始! 放出開始!』
冷却剤が高圧放出される。
関節部を中心に撒かれた冷却剤が爆発的に蒸発して一瞬視界を覆いつくし、超大型送風機で拡散される。
『冷却剤散布終了、蒸気拡散中、蒸気拡散中、接近禁止解除まであと十秒!』
いまだ高温でゆらぐ周囲大気のなか、巨人の胸部装甲が気密開放音と共に開いていく。
「急いで補給お願いっ!
少女の甲高い声が中から聞こえてくる。
「判りました、伝えます。三番整備床に移動してください、補給準備しています!」
ひょいひょいと身軽に操縦室までよじ登った女性連絡員が背負ったカバンから濡れタオルを取り出しながら無線機で伝達する。
『三番整備床に移動するわ、みんな足元から離れてっ!』
『ロックアーム移動中! 頭上注意!ロックアーム移動中! 頭上注意!』
天井の巨大な爪を持ったオーバーヘッドクレーンが動いて肩基部吊下金具を掴んで固定。
『係止索つなげぇ!』『肩部固定よし!』『脚部固定よし』『椀部固定よし』……
「全固定索よし! モーターメイデン主動力炉停止!」
『主動力炉停止します! 各関節動力伝達が切れるよ、注意して!』
モーターメイデンが奏でていた動作音が急速に減少していく。
各関節が緩み、固定索やクレーンが荷重に軋みをあげる。
「補給作業開始! 10分で終わらせるぞっ!」整備主任が怒鳴る。一斉に動き始める整備員たち。
『
オーバーヘッドクレーンが警告音とともに動きだし、車両や整備員が群がって予備装備に換装していく。
ピーッ、ピーッ! 「補充装備車通ります! 頭上注意! 頭上注意!」「冷却水抽入ホース接続はまだか!」「脚部の
警告笛とブザーと走り回る人員の足音、整備車両の移動警告音、誘導員や整備員の声で騒然している整備庫内。
巨大な格納庫を満たす怒号と喧騒を巨人の操縦槽の中で訊きながら、躁騎士たる銀髪の少女は拘束帯を外して濡れたタオルで操縦服ごと身体を拭く。本当ならシャワーでも浴びたいが、そんな時間も惜しい。
「リーアっ!」
巨人の胸部にせり出した移動通路橋を駆けて、黒髪の少年が操縦槽に飛び込んでくる。
「ちょっやだ、オスカー! 入ってこないでよっ!」
汗やなにやらで汚れた姿を見せたくない彼女は怒鳴った。しかも、ほとんど裸みたいな薄い
「ごめん、設定を変えさせてっ!」彼女の恰好なんか目にも入っていないかのように整備蓋を開け、|
「なにやってのよ、こっちは急いでるのっ! もうみんな限界なの! はやく戦線に戻らないと――」
「わかってるっ。でも、これはしないといけないっ!」
手に持った整備用透明水晶板に表示される古代文字が高速で上に流れていく。その全てを読み取り、必要なところで止めて文字を書き換えていく。
「ねぇってばっ!! 時間が無いのっ!」「わかってる、あと十秒で終わるっ!」
指先がかすむほどの打鍵が、巨人の機能中枢たる
「
整備蓋を閉じながら彼は説明する。
その内容を即座に理解する少女。
「――全力で動けるのね?」
「そう」
彼はそれをしたくなかった。戦場での破損は致命的で、少しでも安全にするための制限だ。それを外したということは、安全を無視するということ。彼女を危険にさらしてしまうということ。だがそれが必要なほど事態が切迫していた。
彼らの母艦である発掘戦艦”HMSクィーン・ヴィクトリアⅧ”は、
浮遊機関が停止しているため、
機関部員たちが必死の点検整備と修理を行っているが、作動原理すらよくわかっていないものを無理矢理使っていたのだ、修理が完了する望みは薄い。
周囲は無限とも思える繁殖力の小型魔獣に十重二十重と囲まれ、遠方には指揮型魔獣も確認されている。まだ確認されていないが、大型魔獣や光魔法射出型魔獣もいるだろう。現在、残存艦艇で輪形陣を組み十字砲火による防衛線を構築、さらに全モーターメイデンが出撃してようやく一進一退を繰り返している。
モーターメイデンの大火力をもってしても、ばらばらに散った魔獣をまとめて葬れず、単体射撃戦を行っているのだ。そうなるとMMの広域火力が意味が無くなり、せいぜい護衛艦一隻分の火力でしかない。また相応の演算が必要な射撃戦では躁騎士の疲労が幾何級数的に増大・蓄積されていく。
そういった制約が多少少ない高機動・近接格闘向けに調整された駆逐型MMはわずか六騎しかいなく、それらもかなりの無茶をしていた。武装の消耗が激しいのだ。通常配備の二本では不足するため、急きょ背面の武装背嚢に剣帯を増設してまとめて六本装着できるようにしているにもかかわらず数時間で破損してしまう。
武装を使い尽くしたリーアが補給のために帰艦している今この瞬間も残りの五騎が獅子奮迅の働きで戦線を支えているのだ。
艦隊もまた運航要員まで投入して総力の防衛戦を行っている。
だというのに防衛線はじりじりと圧迫され、突破は時間の問題でさえあった。
底なしの体力を誇る整備班でさえも、疲労が蓄積されて動きが鈍っている。三交替制はとっくの昔に崩れ、乗組員たちは昼夜を問わず防衛戦闘を繰り返しており、このままでは全滅の二文字が見えてきている。
補給品も底が見え始めてきている。好転の兆しはない。
ここが艦隊の墓標となるだろう。
――だから、これは彼が彼女に贈れる最後のもの。きっと次はない。
「リーア、俺が送れる最高のプレゼントだ。受け取ってくれ」
「なんてわざとらしい気障さ」「たまには、かっこつけさせろよ」
二人ともわざと軽口をたたき合う。
狭くて汚れた操縦槽の中で、薄着の少女とやぼったい整備服の少年が、薄汚れた顔で。
『あと二分で補給と武装搭載完了! 機関始動準備に入りますっ!』
有線通話器から整備員の声。
リーアはすとんとおしりから座席に落ちて、
オスカーは操縦環を上から降ろし、彼女の小柄な身体を覆い隠す。少女は少し身体を動かしながら密着するように操縦環の装着位置を微調整。いつもの手慣れた出撃準備は、ものの数十秒で終わる。二人とも言葉がないまま。
『武装交換および増槽接続完了! 機関始動準備をお願いしますっ!』
それを合図とするようにオスカーはするりと操縦槽出入口を抜けて、移動整備橋に降り立つ。
そうして、彼女は
「それじゃ行ってくるね」「行って来い」
彼も
「移動整備橋、動かしますっ!!」整備員の掛け声。そうしてブザー音とともにゆっくりと動き出す。
触れ合う視線が動き、閉じていく胸部装甲によって彼女の顔が見えなくなる。
もう二度と会えないだろうと二人とも思っていた。――それでもいつものように彼女と彼は別れた。
『クサナギ騎、発進準備に入ります!』
「電纜接続よろし!」「電源車まわせー!!!!」「発電機点火三秒前! 3,2,1、点火!」
ごがんっっ! 火薬が起爆し、電源車の発電用石炭油機関のクランクを回して起動させる。ばつんばつんと黒煙をあげながら回転し始める機関、回転が安定し始めると、捜査員が電源車配電盤のメーターを睨みながら回路スイッチをばちばちと切り替えて電圧を安定させていく。
「高圧電源チェック!」「出力安定、
「モーターメイデン補助電源、入力!」
ガキンと電源レバーが倒され、高圧電源車両から一気に電力が流入。
低い呻り声をあげてモーターメイデンの補助動力炉が始動。
『補助動力出力安定、
リーアの声と共に低いうなりから急速に高周波音へとあがっていき、さらに
『
アイドリングからミリタリーパワーへ、モーターメイデン特有の動作音の唸りが高まっていく。
頭部の双眼に光が灯り、格子模様が描かれた正面壁へと向けられる。
『
『固定索外せー! モーターメイデンが出るぞっ!』
誘導員が指示して、全身に取り付けられていた固定索がガキンガキンと音をたてて次々と外されていく。
『リーア・クサナギ
外部拡声器から少女騎士の警告
動力音を響かせながら、降着姿勢からゆっくりと立ちあがる、巨大な剣を背負った白銀の巨人騎士。
そして上腕部、手首、肩関節、指先がそれぞれ滑らかに動いて動作確認。
『各関節動作確認 良好! これより甲板に移動する! 誘導お願いっ!』
誘導員の指示に従って、移動を開始した。
……地響きとともに離れていく、彼女のモーターメイデン。
巨大な鉄塊の双子を背負った白銀の騎士。
それをただ見送ることしかできない、自分。
なぜ自分には戦う力がないのかと呪いたくなる。だが、それをつぶやくことは許されない。
だって、それは戦いに赴く彼女を侮辱するのと同じだから。自分と彼女の戦場は異なっているだけなのだから。
彼女は皆を助けようと無茶をするのだろう。きっと自分の命をかえりみずに。
声も、姿も知らぬ、見知らぬ誰かのために、戦う――それが、
常人を遥かに超える力をもち、戦略級兵器を任されて戦う者たち。
彼女/彼らは名誉と資産を与えられるが、反面人としての権利は制限される。
血筋は厳密に管理され、綿密に計算された出産計画により子が生まれる。
生まれた子の教育は
女性騎士がメイドとして、男性騎士が従僕として教育されるのも、常人に従属すべきモノだと
彼女/彼らは、生きた兵器。常人とは別の生き物と思われていて、常人の恋愛感情や愛情が入ることなどまずない。
人類の
――しかし、騎士たちを人として心配しない者がいないわけではないのだ。
オスカーはその一人だった。
その圧倒的な力を知りながらも怖れなかった――それ以上の恐怖を知っていたから。
むちゃな要求や思いもつかない無茶なことばかりする彼女にも苦笑するだけだった。――それ以上にむちゃくちゃな者を知っていたから。
なによりも、どこか懐かしい感じがする彼女に魅かれていたのだ。昔の記憶はないはずなのに……
とても大切に思える彼女を、洗浄に送りだしている。
間違いなく無茶をするだろう彼女。皆で造った
なによりも二度と会えない可能性が高い。
どれほどの幸運があれば、自分も彼女も共に無事に帰れるかなんて、考えることすら無意味な確率。
未来は見通せない。幸運の女神はきっと微笑まない。既に未来は
この最悪の状況はもっともっと最悪になっていく。そうと判っていた。それでも抗い続けている。
誰も彼もが必死/決死で戦い続けている。
ここで倒れても後に続く者たちのために。それはきっと後方の家族のために。それは仲間のために。
そうだと信じられるから死へと抗えるのだ。
彼だって、必死に抗う。少しでも出来ることをして。だから、禁忌のリミッター解除を行ったのだ。
彼女が、少しでも生き延びられるように。
すこしでも納得のできる戦いが出来るように。
少しでも――納得の出来る死に方が出来るように、と。
――自分がしてあげられる禁忌にして
打てる手はすべて打った。もう自分が、彼女にしてあげられることはもうなにもなくて。
だからせめて――
「無事に帰ってこい、リーア」
轟音を立てて甲板へと移動するモーターメイデンが巨大な扉をくぐる直前
突如右腕を伸ばし――握りこぶしから親指をびっと立てた。
まるで彼の独り言が聞こえたかのように――
――行ってきます。
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