第3話 一言の威力











彼は一生懸命に走って逃げていた。

すでに父母とはぐれ、周囲はおそろしい形相をした見知らぬ大人ばかり。

知っている近所の人たちもいない。


――それは数時間前のことだった。

彼の住む街の大通りを、国軍兵士が必死の形相をして馬で駆け抜ける。

「どけ、どいてくれ! 緊急事態だ、通らせてくれ!!」

魔法で拡張された大音声で怒鳴りながら、駐屯地まで駆け抜ける。


市民たちも迷惑そうな顔をしながらも、道を空けて通す。

「なんだ、あれ」

「まさか、魔獣でもでたか」「おお、こわ」

「軍の出動があるのか? チャンスだな、おおい、在庫を急いで確認しろ!」

わいわいがやがやと好き勝手な憶測を放しながらも緊張感なく日常をすごす住民たち。

兵士が大通りを駆け抜けた数十分後。

「魔獣警報、魔獣警報、避難行動発令! すぐに要塞都市へ逃げろ、いそげぇええ!」

今度は数十名の広報官たちが避難命令を叫びながら町中をくるったように走りまわる。

「な、避難行動だって」「おいおい、まさか。冗談だろ」「でも、あいつらとても冗談にはみえんぞ」

市民たちに理解が及んだ時、大騒ぎになった。

辺境とはいえ、防備が整えられた街である。

ここは国の研究施設があるため、自警団ではなく国軍が駐留している中規模くらいの街だ。

後方の要塞都市への避難警報が発令されるのは、数十年毎にあるといわれる大襲来ぐらいしか考えられない。

「いそげ! すでに三十キロ先で先遣が確認されている! はやければ一時間後にはくるぞっ!!!」



「ねぇ、なあに? なんでみんな騒いでいるの?」

八歳の男の子がそんな言葉を理解できるはずもなく、両親に連れられて逃げ出していた。


踏み固められた街道をみな急ぎ足で避難していく。

街道脇には、国軍の兵士たちが先頭の準備をしていた。


「馬車を倒せ! 遮蔽物にしろ!」「投槍は地面に突き刺しておけ! すぐに使えるように!」「弩の弦をはれ!」「車止めはしっかりしろよ、後ろに吹っ飛ぶぞ!」

「柵はとりあえず突きたてて置けばいい! とにかく数をたてろ!!」「ばかやろう、鉄条網は最後だ! まだ避難民がいるだろうが!」

罵声をあげながら兵士たちが防護陣地を築き、避難民たちがぞろぞろと後方へと進んでいく。

市民が引く大量の馬車や荷車が通るが、中には徴発されるものもあった。

「ちょっと! なんでうちのものを取り上げるのよ! それがなきゃ移動できないじゃない!」

「これが全財産なんだ、これを失うわけには――」「こっちだって柵や遮蔽物のぜんぜん足りないんだ! わかってくれ、命あってのモノだねだろうが!!」「うるせぇ、これは俺のだよ! 絶対渡すものか!!」

走り出す馬車に停止命令を出し、従わないとみると馬を射殺した。

「ちくしょう! 一生恨んでやる!」引きずり下ろされて取り押さえられた男が喚き散らし、兵士たちは黙々と馬車を解体して運んでいく。

両親とはぐれて泣きわめく子どもや、子を探す母親、妻に怒鳴り散らす中年男、邪魔だと蹴り倒される年寄、淡々とひたすら急ぐ夫婦……

悲喜交々を混ぜ込んで避難していく。

遥か後方で悲鳴が上がった。それと同時に散発的な銃声。

伝令が馬で掛けながら大声で伝えていく。

「走れ! 後方に魔獣が追いついた! 走れ、急げ!!!」

悲鳴をあげながら避難民たちが駈けだしていく。

「どけ、ガキ!」

避難民の列から蹴りだされて地面に這いつくばる。我先に逃げていく市民たちは手を差し伸べることすらないで、もうあるけないと泣き喚く子供を引っ張り、大荷物を背負った男がぬかるみに脚を取られて倒れても誰一人助けようともせず、誰も彼も血走った目でただひたすら前へと進んでいく

「走れ、走れ! 魔獣が近づいている! とにかく走って要塞都市までいけ!」

逃げていく市民たちの横で兵士たちが叫びながら、逆走していく。

前方から剣や槍を構えている兵士たちが奔ってくる。

避難する民の後方からは散発的に銃声や、手りゅう弾か小さな爆発音が聞こえる。それはあまりにも数が少ない。

「おい、ぼうず! はやくはしれ、はしれ! 急いで逃げろ!」

つんのめってたおれ、列から蹴りだされた黒髪の男の子が泣きそうな顔をして顔をあげる。

銃を構えた兵士が怒鳴る。一発撃つ。再装填している間は、弓を持った同僚が射る。

「泣くな、坊主! そんな暇があったらとにかくはしれ、邪魔だ! はやくはし――」

ばっしゃっ! 緋色の液体をまき散らして、兵士の上半身が吹きとぶ。

伸びてきた異形の巨大な掌が平手で潰した。

撒き散らされた鉄の匂いがする液体に塗れて、ぼうぜんとみあげる男の子。


遠くで狼の顔をした巨大な熊のような獣が腕をのばしていた。

「くそっ!!!! 撃て、撃てっ!」

構えた銃や弓矢が放たれるが、中型魔獣の体表面で弾かれて効果がない。その獣はにぃとわらうように口角をあげ、咢を大きく開き――咆哮。

背後から跳びだした、幾十もの異形――魔獣。

決まったカタチのない、あらゆる生物のカタチをした、強大無比な獣、人類の天敵。

話し合いなどできない、ただ殺し殺されるだけの、敵。

魔獣が地を駈けぬけ、最前にいた兵士たちを血祭りにあげる。

必死に応戦する兵士たちをいともたやすく食い殺すと、逃げ切れていない市民たちを無差別に殺戮し食らいはじめた。

男の子は惨劇を呆然とみているしかなかった。かたかたと全身がふるえている。

食いでがない男の子は、魔獣たちお目には入っていなかった。

だが、その大型魔獣だけは違った。それは、嗤うように三日月形に口をゆがめて、ずしんずしんと歩いてくる。

それは、恐怖――死そのもののカタチ。

しんじゃう――ただそうおもった。


魔獣が、巨大な手をかかげて、揮――


どしゃあああああっ!!!!

轟音とともに彼の眼前に突如真っ白な壁が突き立ちって吹き飛ばされた。

ごろごろと転がってべしゃりと地面に叩きつけられる。男の子は何が起きたかわからない。口の中と目が土にまみれて何も見えない。

ふぃいいいいいいいいんっ!

甲高い轟音吸排気音と、いくつもの甲高い空裂音高出力レーザー掃射

まぶたをつらぬいて激しく明滅する朱い光、顔が熱くなるほどの熱がたびたび降り注ぎ、土が詰まった鼻を貫く金臭いにおいイオン臭


涙を流しながら眼をこすり、しきりに唾を吐きだしてようやくおちつき、そして前をみると


――たくさんの魔獣が、みんないなくなっていた。


なにか真っ黒焦げのものがたくさんと、まっすぐに抉られて白煙をあげる痕がたくさんある大地。

そして、絶望的な死魔獣が、べしゃりと巨大な槍ピンヒールに潰されている

白い壁とおもったのが、実はおおきな脚だった。巨大すぎて彼にはわからなかったのだ


ふぃんふぃんふぃん――


不思議な甲高い音吸排気タービン音を出しているそれ――白と朱色の巨人。

男の子はそれがなんだか知っている。ときどき街に来るおおきなおおきな騎士さま。


「もーたーめいでん……」


双刀を腰に佩いた人類最強の力。

その場で一歩も動かずに肩や頭から朱色の光の線を煌めかせながら、魔獣たちを大地ごと焼き払っていく。


宝石みたいにぴかぴかな白と朱色の巨人を目に焼き付けながら、彼の意識は闇に落ちた――




 ☆☆☆



「こんなにモーターメイデンが!」


巨大な半地下式の門を入った彼は思わず声をあげた。

バーミンガム学園カレッジ モーターメイデンサイロ格納庫

モーターメイデンがいくつも立ち並ぶそこはは、彼が見た巨大な屋敷の地下に広がる巨大埋設施設であった。。MMがそのまま外に出れる半地下式の巨大な出入口は三方に屋敷が立っており、敷地の外から見えないようになっており彼も気が付けなかったのだ。

「ここは発掘された超古代の施設をそのまま利用した我が学園のMM格納庫です。開発・製造・調整といったMMに関するすべてがここだけで行なえます」

「凄いですね! 」

いくつもある整備寝台メンテナンスベッドには製造途中と思しき内骨格が剥きだしのままのMMに何人もの作業服姿の男女が作業をしている。


また奥には天井から吊り下げられた上半身のみのMMもあり、それらが音を立てて腕や頭部を動かして試験を行っている。

「あなたはMM整備開発にどうかと推薦をもらっていますので、まずはこちらの方で仕事をしてもらおうかと思っています」

「はい、ぜひお願いします!」

「それでは――工場長!」

整備寝台メンテナンスベッドの前で打ち合わせをしていた集団に大声で声をかけると、不可思議な模様が入った作業着を着た大柄な人が振り返った。工業用安全眼鏡をつけたいかにも職人といった感じの、驚いたことに女性だった。

「おう、なんだっ! ってレオ嬢ちゃんか」

「嬢ちゃんはいい加減やめてくださいよ、もういい歳――」

突如くずおれる金髪の美人侍女。手をついて四つん這いになりがっくりとうなだれる。

「ふふ、そうね、もうお嬢ちゃんという年ではないのよね」

ぶつぶつとつぶやく。自分の言葉がクリティカルヒット。

「あ、あれ、ホイットワースミス・ホイットワースさん? どうしたんですか?」「ふふ、ホイットワースミズ・ホイットワースさんだって、そうね、もうオールドミスになってしまうのよね、わたくし未婚イカズゴケなのよね……」

ふふふふと不気味な哂い声をあげる美人侍女学園長にドン引きしているオスカーの肩にぽんと置かれた太い手。安全眼鏡を持ち上げてニッと笑っているのは工場長と呼ばれた大柄な女性だった。日に焼けている安全眼鏡の下の蒼い瞳とくすんだ金髪の持ち主は、初老の、ドキッとするくらいの美貌だった


「あー、まぁ、ちょっとほっとけ。この嬢ちゃんは、最近ちょっと年齢でナーバスになっててな、そういう話になると激怒するか、こうなるからちょっと気を付けろや」

「あ、はい」

工場長がぐいぐいと肩を押して距離をとる。

「ふふふ、そうよ、わたしはわるくないのよ、魔獣が悪いのよ、魔獣シすべし――」

まだぶつぶついっている金髪の美人侍女を皆は放っておく。

「で、お前さんがここの見習い志望だというやつか?」

「はい、そうです! オスカー・ミッドランドといいます!」

「おう、ここの責任者をやってるダイアン・イシゴニスだ。工場長とよべ」

その名前に聞き覚えがあるオスカーはびっくりして

「へ? も、もしかしてMM設計者モーターメイデン・デザイナーの、あのイシゴニスドクター・イシゴニス博士ですかっ!?」

「おう、そう呼ばれることもあるなぁ。どっちかといえば職人なんだが」

豪快な笑い声をあげる。

「こ、光栄です! お会いできて光栄です!」

「おう、そういうのは嫌いだから即刻ヤメろ。工場長と呼べ」

オスカーの頭をわしゃわしゃとかきまわす。

「は、はい、工場長」

「それでいい。ここでは身分の上下はないが、役立たずには厳しいぞ、心しろ!」

「はいっ!」

「いい返事だ。よし、リーア嬢ちゃんがぶっこわしたMMで修理のミーティングをしてるから、三課白」

「あ、さっきの銀色の――。あれ、もしかして工場長の新型フレームだったんですかっ!?」

「あー、ちょっと違うな。基本設計ベースプランはわたしだが、改造を若手中心にやらせているんだ」

眼を輝かせるオスカーにディーは苦笑をする。

「若手中心ということは、もしかして僕の意見をいってもいいんですか!?」

「そうだな、否定誰でも自由に意見をいってもいいことにしている。まぁ採用されるかは別だがな」

「いいえ、話を聞くだけでも楽しいです!」

「おー、やる気がありそうだな。おーい、この小僧も同席させてくれ」

黒い板の前で意見を言い合っている集団に声をかけると

「あっ!」

銀髪の小柄な少女が小さな声をあげて、さっと女性作業員の後ろに隠れる。

「あ、ドーモドーモ」オスカーは内心首を傾げながら軽く頭を下げる。

「なんだ、そりゃ」不思議な言葉とうごきにディーが首をかしげると、オスカーはあっという顔をして

「あ、すみません。よろしくお願いしますという、東方のあいさつ、らしいです」

「なんで伝聞なんだ?」「世話になっていた師匠の口癖で――」

どうでもいい会話をする脇で、黒髪を後ろで縛っている美人な女性作業員が背に隠れた銀髪の少女――リーアの隠れる様な態度を不思議に思って聞く

「どうしたんですか、リーアさん」

「さっきみられた」作業服の裾をぎゅっとつかむ。

「? なにを?」

「半脱ぎの操縦服バニー姿」

「あー」「あー」「あー」

リーアのその説明だけでだいたい想像がついたらしく、金茶黒の髪をもつ女性作業員たちが一斉にうなづくと同時にぶるんとふるえるお胸さま。

「リーアさんってば隙だらけだから」「リーアさんがそんな普通の女の子みたいな反応をするなんて」「リーアさんってば女の子の自覚あんまりなかったのに……成長したのねぇ」

そしてどこからかきれいなハンカチをとりだして目元をぬぐい、リーアの一部を見ながら。

「「「胸はまだみたいだけど」」」

「ひ、ひっっどーいっ! 自分たちはでかいからって! もぐわよっ!」

「おほほほほ、胸の大きさは女の器よ」「ほーれほーれ、くやしかったらでかくなってみせなさいな」「ふふふ、巨乳は正義! 大きければモテモテよ~」

「ううううううっ!!!」

豊満な乳を両手で寄せながら三人でリーアをぐいぐいとおしまくる。

小柄なリーアは六つの乳に埋もれて涙目になる。

MMに搭乗していない時のリーアは周囲への注意力が散漫で、しょっちゅう女の子としては大問題な行動をおこしまくるため女子作業員たちはいつもフォローで大変なので、機会があればからかうことにしているのだ。

なおこのとき男性陣は横をむいて目をそらしている。彼らが思うことはひとつ。


――こいつらだけは『彼女』にしたくねぇ


この美人過ぎる巨乳整備部員たちは、性格やなんやらにいろいろあって一ヶ月以内に必ず破局する三美人として有名だった。それでもひっかかる男は絶えたことはない。

しょせん男はバカである。いくつになっても母たるチチには抗えないのだ。

「おい、遊ぶのはその辺にしておけ。話が進まん」

「いえす、まむー」「のーぷろぶれむ」「おっけー」「うううううう」

三人はそろってびしっと敬礼をする。もがくリーアを絶妙な動きで爆乳でうずめながら。

ディーはため息をつきながら一言

「リーア嬢ちゃんも、ちったぁ慣れろ。そういう反応が面白いからからかわれてんだけだって」

「あ、はぃ、うぶぶぶぶっ!」

巨大な質量ちちにぐにゅーと押し潰されながらぐぬぬとふんばってなんとか脱出しようとしているが、三美人は絶妙に息をあわせて抜け出させない。

もちろん本気を出せば乳獄を脱出することなど容易いが、一般人に手をあげるのは自制しているのだ。

うぬぬぬぬ、ぐにゅうううと奇妙な声をあげながらじたばたしているリーアをとりあえず無視することにきめたディー工場長がぱんっと手を打って注目をあつめる。

「よし、今日から見習いで入ってもらう小僧だ。ほれ、自己紹介」

「はい! オスカー・ミッドラントです! モータメイデンにはやく触れるようにがんばります!」

「覗き魔のくせにー」諦めたのが、爆乳に潰されながらリーアがぼそっとつぶやく。

「え? のぞかれたの? なにを」きゃーなんかかわいらしいという内心をぐっとおさえながらたずねる。

「だいじなところ」リーアが小さく応える。

「え、それは大問題ね。いつのことかしら?」きゃーかわいい抱きしめたい。とりえあずぶっころしましょうか、女の敵はという内心を押し隠してさらにたずねる。冤罪とて犯罪、断罪。痴漢シすべし。

「さっき。演習場で」

「「「……」」」無言で離れる三人。

「あ、あれ?」

「いつものやっちゃったのね」「あれはやめなさいっていつも云ってるのに」「わたしたちがいくまではハッチを開けちゃダメっていってるのに」

三人がため息をつきながら呆れる。リーアがいつものように服のすそをめくったのだと気が付いたのだ。

「だ、だって暑いんだもんっ!! そ、それにわわわたしの、大事なところみられたもんっ!」

「見てないよっ!」

突如ぐわしと頭を掴まれ、オスカーの身体が持ち上がる。

ぎぎぎと顔を捻じ曲げられた先にはきれいなお姉さん女性作業員

一瞬で、その影さえみせずに作業員のお姉さま方が捕獲したのだ。

「弁明を聞こうかしら、少年。有罪だけど」「そうね、なかなかかわいらしい少年だけど、女の敵は有罪よ」「有罪。痴漢シすべし」

三人娘の極上のほほえみ。ただし眼はわらっていない。

「不可抗力ですっ!! 操縦室から出てきて、いきなり服をぱたぱたするなんて予想できるわけないじゃないですかっ!!」

「やっぱりみてたじゃんっ!!」リーアがない胸をはって正義ハ我ニアリ叫ぶ。

「あーれーはーリーアが悪いんじゃないかしら~いつものやっただけだし~おなかみえただけだし~」

オスカーを擁護するのほほんとした声。いつのまにか銀髪の巨乳――アーデがいた。

「「「……」」」

どうする?有罪にしちゃう?もいじゃう? 目線だけで高速会話。

超即決痴漢制裁裁判終了、判決――

オスカーを降ろすと

「ごめんなさいね――リーアさんが」「わるかったわね――リーアさんが」「ほんと悪かったわね――リーアさんが」

三人娘は責任を押し付けてそそくさと撤退する。

「ちょ、なんでっ! ボクのおなかみたんだよっ、この覗き魔!!」

「まぁ、リーアさんだから」「リーアさんだし」「リーアさんだもの」「リーアだし~」

「リーア嬢ちゃんだからな」「どうせみるなら、AAアーデさんのほうが」

「リーア嬢ちゃんはしょっちゅう下着付けてないといううわさが」「汗が気持ち悪いからって」「でも今日は付けてたんでしょう」「お子様体型だしなぁ」

そこで皆の声が揃う。

「「「でも色気ないから~」」」

「ひっどーいっ! ボクだって頑張れば――」 んしょんしょと頑張って寄せあげようとするが、絶望的に肉が足りない。と云うか色気といえば胸と云うのは短絡過ぎじゃないか?

「あー、そろそろいい加減にしろや、お前ら」

ディーがぼりぼりと頭をかきながら忠告する。すこしぐらいの悪ふざけはガス抜きとして良いので目をつぶるが、えんえんとやられてもたまらない。

「リーア嬢ちゃんもからかわれてんだから、うけながせ。乳をネタにされてすぐさまくらいつくなんて、色気がないといわれる元だぞ」

「う……そ、それはともかく、覗かれたのは解決してないよっ!?」

「覗いたのか?」ディーがまっすぐにオスカーをみてたずねる。

「いえ、不可抗力です!」「そうか。リーア嬢ちゃん脱衣ヒロインは何かあれば脱いだり脱げたりするからな、そういうわけだから気を付けろ」「わ、わかりました、注意します!」「よろしい」

それで終わ――

「いや、よろしくないよっ!?」

リーアがわたわたと抗議する。

「リーア嬢ちゃん」

「は、はい」

「不可抗力だ、お前が気を付けろ。だいたいハッチは安全のためにも降機のときか、座席についているときしか開けてはならんといってるだろ?緊急時以外は」

ディーが真面目な顔をして諭す。

「う、あ、いや、でも、ボクたち騎士ならそんなの大丈夫――」

「あ゛あ゛ん? 安全規則なめんなよ、小娘――」

「いえす、まむっ! まもります、自分の身の安全のためにっ!」

やぶにらみでリーアを見下ろす女偉丈夫に、リーアはぴんと背筋を伸ばして敬礼する。あしがかたかた震えている。全員がびしっとカカトをそろえ、右の掌を肩の高さにし、一斉に唱和。

「「「「ご安全に!」」」」」

よくわからないノリにオスカーは眼を白黒させる。

「よろしい。では打ち合わせをつづけろ、小僧も何か思いついたら云え。観てるだけでもかまわんぞ」

そこからはひたすらブレインストリーミングが続く。

「装甲は、椀部に払い避けの盾兼用で――」「――材質の再検討を」「――を鋳込んでみたら」「――魔導炉の排気を再利用することにより」「紋章回路の伝導効率を――」「それより、こう配置することにより軽量化が――」「膝下重量の軽減に――」「それだと歩行時の揺れが許容範囲を超え――」「積層筋肉――」

それは魔導炉からフレームの配置まで多岐にわたる討議。


だが――


「だから嬢ちゃんは、もっと扱いを考えろっ!! MMの関節は無茶すりゃ簡単に焼きつくんだよっ! なんども云ってんだろうが!!」

「えー、そんなのなんとかしてよ。だいたいボクの動きについてこれないのが悪いんだよー、ちゃんとうごくの作ってよー」

「おいこら、わたしらの仕事がどんだけ大変なのか解れとは云わんが、ちったぁ考えろや!」

「考えるのきらい。体動かす方が楽しいもん」「リーアは脳筋ですものね~」「えへへ~照れちゃうなぁ」「褒めてませんわよ~?」「え、ほめてないの!? てか、これじゃま」

アーデに後ろから抱きかかえられて、あたまにのしかかっている乳袋をぐいぐいとおすが、彼女はにこにこと笑っていてびくともしない。

「おいこら、騎士ってのはバカには務まらんぞ。精密砲撃は演算能力が必須だと叩き込まれるだろ」

「ボク砲撃苦手なの。教官からも『お前は撃つな。自分のケツを撃つアホウに大砲は任せられん』って云われちゃってるし」

「嬢ちゃん、そりゃつまり落第だろうが、どあほう!」

「えーでも、MM格闘戦は教官にも勝てるよ?」

「だから、MMで格闘戦をすんなっていってんだろう! いいか、関節機構てのは歩くだけでも負荷高めなんだ、格闘なんぞしたら歪んで全交換だぞ、おい。どんだけ手間と費用がかかると思ってやがんだ!!」

「そこをなんとかするのが、工場ちょーたちのお仕事じゃない。ボク動かす人、工場ちょーたち治す人。なんとかしてよ」

あっけらかんとリーアがいうと、ディーから表情がすとん抜け――

「リーア嬢ちゃん」

「はへっ?」ぐわしとリーアの顔をわしづかむ。

「こっちにも我慢の限界点ってものがあってだな」

「みょん?」「あーれー」

抱えていたアーデから引っこ抜かれてリーアが吊り上げられる。

みしみしと軋む頭蓋骨。

「いたたたた、いたっ、いたいよ、ディーおばちゃんっ!! アイアンクローはやめてぇええええっ!」

整備部名物”工場長のアイアンクロー”である。必死にディーの太い腕をタップするリーアだが、ディーは微動だにしない。泣き言はきかんといわんばかりに。

「なぁ、わたしらがどんだけ整備に心血注いでいるか、わかってるのか?」

「いだだだぁあああっ! わ、わかってるよ、おばちゃんたちいないとまともに動かせないってーーー!」

みききっ!

「おう、それがわかっててなおさっきの言葉か? ん、そこんとこどう考えてんだい?」

「いたたたっ! もれる、もれちゃうよ! なんかもれちゃう~!」

「嬢ちゃん、実はまだ余裕だなぁ?」

腕の筋肉がもきょりと音をたててもりあがる。ぎしぎしぎしっ!

「いだだだだっ! いや、ほんともれちゃうってば! 人としてアレなのが~! もれちゃうぅううう!」

頭がい骨がミシミシ鳴っているリーアは、ぎゃあぎゃぁ喚きながらディーのぶっとい腕をとにかく必死にタップする。

はた目から見えればいたいけな少女を嬲り殺そうとしている壮絶な笑顔をした初老の女が、じたばたとあばれるリーアの言動

「リーア嬢はアレがなければなぁ」「顔はいいのに」「でもあれで本人はウブなんだよね~マジ天然」

「「「まぁ、身体は将来に期待だけどな」」」

「おらー! そこの整備たち、ぶっコロすよ!」

「余裕だな、その前にわたしがとどめさしたろか、あああんっ!?」「ぎゃーやぶへびー! ぎぶぎぶぎぶへるぷみーとらすとぽっぽ!!」

なんか変形し始めているリーアの顔


オスカーはおろおろするが、周りは苦笑しながら適当なことを云ってはやしたてているだけだった。

「あ、あれ止めなくていいんですかね」

「いいのよ~いつものことだから~」

「放っておけばいいのです。騎士はあれくらいではびくともしません」

ようやく復活した美人メイドがさらっとヒドイ事を云う。

しばらくリーアをぶんぶんとふりまわして気が済んだのか、ディーがぽいっと放り投げて開放した。

床の上にぺたんと座り込みながら、ふらふらする頭を押さえてぼやく。

「もー頭が変形した気がする……お嫁にいけなくなっちゃうよ」

「あーん? そんなのは恋人つくってからほざけや、ガキどもが――あ」「あ」

どさりとくずおれた音。金髪の美人侍女が再び地面に手orzをついていた。

「ふふふ、恋人いないわたし……ふふふ、仕事が悪いのよ、仕事が。いいのよ、仕事が恋人なのよ、仕事が恋人、わたしはメイド、お料理掃除洗濯子作りなんでもできるわ~……」るーるーるー

あちゃーとリーアとディーは天を仰ぐ。この二人、べつに血縁でもないのにしぐさがよく似ている。

「どうするのよ、おばちゃん」「ありゃほっとくしかないだろ」「でも立ち直らせないとしばらくうっとおしいよ?」「そっちのほうがめんどくさい。てか、ああいうところがイイ男から敬遠されるってのがわかんないかね」

めんどくさい女は男も嫌に決まってるだろと肩をすくめる。

「さてほっておくとして、そろそろまとめをするかね。そうだなぁ、今回はメモをとっていたミッドラントにまとめてもらおうか」

「え?」オスカーがびっくりして顔をあげる。

「サブリーダーのモブ1-2-3でもいいんだが――」

「ディー工場長ひどいすー」「どいスー」「すー」平凡顔の男性作業員名前考えるのめんどいがてきとーに抗議の声をあげるがまるっと無視して

「今回は新入りのミッドラントがやってみろ。設計者MMデザイナー整備匠MMメンテナーを目指すなら討議まとめの経験は重要だかんな」

当代最高のMM設計者デザイナーの言は重い。


「えっと、じゃぁまずは……」

ざっと会議用黒板に要点を書き出していく。

その意見のほとんどが高速機動性に関する提言ばかりだということがわかり、それを実現するためのアイデアを書きだし、意見を聞きながら現在は実現不可能なものを削っていく。

そうして書き出された目指すべきMMの姿は

「超高機動型MM……」

装甲を廃しているのは原型と同じ。

不格好なまでに極大化した高耐久性関節機構、末端モーメントをおさえるためにほとんどフレームしかない細身の四肢末端。関節と銅帯の直径がほとんど同じという不格好としか言いようがない外見。

「あんまりかっこよくない……」おおまかな想像図を見てリーアが落胆したようにぼそっとつぶやく

「かっこよくないのは今後の課題としまして、まずは今日の模擬選データから推測される高耐久性の関節機構を考慮していくと、このようになるはずです。」

「そこは昔からの課題だからなぁ。実際にやれることはほぼ出尽くしているんだよな。わたしがやった最高の無茶は”砲身”素材を元にして作ったスライドレール関節だな。あれは唯一無二といってもいい」

「トップエースのMM”Jクーパー”ですね」

この国の国民ならば誰もが知るもっとも有名な双眼と濃緑色の装甲をもつMM。

仕様方法不明な発掘兵器リニアレールガンの残骸を数年がかりで加工して制作した長大な弧状レールスライド関節を四肢にもった特徴的なモーターメイデンである。その最高速度は音速を超えるとまで喧伝されている。

「”Jクーパー”は装甲の継ぎ目処理に苦労したんですよね」「スライダー関節は工場長と筆頭宮廷鍛冶師が連日なぐりあって作ってましたね」「フレームの強度計算で地獄をみた……」

当時スタッフだったサブリーダーたちが滂沱の涙を流しながら回想する


「すっごくきれいですよね、”Jクーパー”! 一日中見てても飽きないです!」

「まぁな、あれはいまのところ最高傑作だ。量産できないのが悔しいがな」

眼をキラキラさせるオスカーにディーがまんざらでもないように頭をかきながらながらぼやく。

「一回乗ってみたいんだけど、許可降りないのよね」

「あたりまでしょー。リーアは乗ればたいていどこか壊しちゃうんだから~」

「それは耐久性に問題あるという証明――」

「余計な力が入っているからです。巧者ほど負荷の少ない操縦をするものです」

「う……」レオノーラの指摘にリーアはしょぼんとする

「さらにいえば、修理費用は誰が出すと思っているんです?」

「経費じゃないの?」なんで当然のことを訊くのだろうとリーアはきょとんとする。

「その経費は国民の税金からですよ。たとえばあなたの食事、服、装備――」

「……」

「MMの修繕費用! ぜんぶ国民の血税です。壊すなとは云いませんが、ちゃんと考えて乗りなさいっていつも云ってるでしょう」

「……」

説教されているリーアを放っておき、オスカーと整備員たちは議論を進めていく。

「つまり、新型関節を開発すると」「ええ、このスライダー関節技術が限界だというのならば、次のための技術研究を考えるべきじゃないかと」

「知っているかはわからんが、MM関節というのは様々な研究がされてきている。その中でスライダー関節が反応速度・加速度・停止性能諸々が性能も効率も良い。それはもはや常識だ、そうですね、ディー先生」

「そうだな、わたしもいろいろと実験や研究を重ねてきたが、いまだに過去の産物を使用した”Jクーパー”を越えられていない。現代技術・・・・では、あれが一つの頂点だな。」

「ありがとうございます、先生。聞いた通り。ディー先生ですら超えられていない壁だ。新型関節の研究と云っても、すでに研究されつくしているといってもいい分野だ、そこにいまさら参入するといっても無駄になるかもしれない」

「技術開発というのはそういうものではないのですか?」

「残念ながら予算の問題がある。今までにない画期的なアイデアなら研究開発するのもよいが」

「アイデアはあるんです」

「なに?」

「前から思っていたんです。モーターメイデンに限らず、関節や回転機構って必ずどこかに接触していますよね」

「動力伝達機構だからな」

「接触しているということは摩擦が起きて、熱が発生するし抵抗も大きくなっていく。だから大型化して熱容量と放熱性を高めていくわけですが、同時に抵抗も大きくなっていってます」

「そうだ。巨大な放熱器や魔導力強制冷却機構などはほとんどそのためにある。速さと放熱性を両立させるためのベストサイズは常に模索されているが、ほぼ決まってきている。間違っていませんよね、ディー先生」

「ああ、その通りだ。材質やサイズなどによる関節稼働設計式はほぼ確定している。先人たちの莫大な試行錯誤の結果、材質の改良や設計などはここ数十年はほとんど進歩していない。”Jクーパー”とてその延長だ、素材が現代よりも数段上と云うだけでな」

「ディー先生が云われるように、関節機構は、ほぼ改良の余地はないといってもいい。それらをふまえて、新しいアイデアがあるというのか?」

「はい、あります」

「それはいったいなんだ?」

「関節摺動部を浮かせましょう」

さらりと爆弾発言をする。

何を云ってんだこいつは?

まず全員が思った。そして内容を理解した時、研究整備員たちは怒涛のごとく討議を始める

「浮かす?」「どうやって」「いや、まて。どうやってかは置いておくにしても熱の大半は摺動部からのものだ、浮かせた場合は熱の発生源が大幅に減る」「だけど駆動は?」「従来通りシリンダーの配置をこう変えてやれば――」「いっそのこと、この収縮展張性可塑合金を大幅に量を増やして――」「大衝撃を受けたときの対策は――」「クラッチをいれて――」

喧々囂々と議論が進む中で不自然に議論に加わっていないディーが不意に声をかける。

「おい、ミッドラント」

「はい?」

ディーは鋭く睨むように彼をねめつけながら、低い声で訊く。


「――おまえ、剣聖機シルエットを見たことがあるな?」













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冒頭 舞台裏(それとなく設定バレ)



「――交戦規定充足を確認、ほにゃらら条約規定なんとか条のなんちゃら項による出動許可しんせー、許可おっけ~出動ー」

きゅぃいいいいんしゅばっ! どっしゃーん(ぐちゃっ)←超光速移動による出現、着地

「自動判定掃射モード、殺人衝動性個体群への掃討行動、オートスタート」しゅばばばばばっ! ズビズバー! ←対物/対人レーザー自動掃射。パルスレーザーマク○ス立ち一斉射撃に拠る個体狙撃、コンティニュアス目からプロトンビームレーザーによる薙ぎ払いをおりまぜて殲滅。

「掃討かんりょう~生命体反応確認、あれ、なに、この生命体反応、やばっ、現生汎人類種が生き残ってた!? しょ、しょうこいんめt、あー行動記録さされちゃってるぅ!? うーん、うーん、どうしよ!? うーんうーん……」(注:目撃されない隠密行動が基本)

「あー考えてもしょうがない! お持ち帰りするかぁ……」


だいたいこんな感じ








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