美味しい魔法

「ねぇ、おばあちゃん」

 冬、また家族が集まった。

「どうしたの?」

 皆が泊まって、翌朝のこと。高校生になる葵の娘が1番に起きてきた。

「私ね、高校を卒業したら、お菓子を作る道に進もうと思うんだ」

「あら、いいんじゃない?葵───貴女のお母さんは、料理が上手だけど、お菓子作りも上手だから、色々聞くといいわ」

 葵には大学生と高校生の娘が一人ずついる。昔はよく、お姉ちゃんの方がお菓子やケーキを作ってくれていた。

「うん、お母さんの味も好きなんだけどね。私は、おばあちゃんとか優美さんみたいな優しくて美味しい味がするお菓子を作りたいんだ」

 ほんの少し、味が違うと言われてドキッとした。

「お母さんのは、違う?」

「なんとなく、だけど……」

 葵には料理を教えられなかった。そのせいだろうか。

「そっか。……作るコツはね、誰かのために作ることよ」

 娘たちが小さいうちに、おまじないと言っていつも誰かのために作りなさいと教えてきた。葵には教えられなかったけれど……この子には教えよう。

「え?」

 キョトンとする孫娘。昔の娘たちをみているみたい。

「誰かを想って作ると、その気持ちが優しくお菓子を包み込むのよ」

「そして、自分も楽しいと思えること。暗い気持ちで作ったら、味にも出ちゃうから」

 それは、自分が心がけていること。

「気持ち……」

「自慢じゃないけどうちの家系は皆手作りが上手いのよ。よかったら、皆に聞いてみなさい。大丈夫、皆相談にのってくれるから」

「うん」

 頷く孫娘の表情は重い。まだ、皆に遠慮しているらしい。

「自分の生きたい道を楽しみなさい。いつかきっと、わかるから」

 私に出来るのはこれくらいだから。そっと背中を押してあげる。

「………うん!ありがとう、おばあちゃん!」


 その後、孫娘は専門学校に行った。

 そして、幾年か経った頃、葵が雑誌を持ってきた。

「見て!みどりが雑誌に載ったの!」

 そこには、笑顔でお菓子について語る孫娘が綺麗に写っていた。

「本当ねぇ~。笑顔が可愛いわ」

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手作りの~幸せは永久に~ 如月李緒 @empty_moon556

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