みんなで食べよう

 夏、そろそろ娘が孫をつれて帰ってくる。

 みんな、夏には必ず帰ってきてくれるから、毎年楽しみだ。


「ゆっちゃん、おかえりなさい」

 車から降りてきた娘を出迎える。

「母さん、ただいま」

「ゆっちゃん、元気にしてた?」

「もちろん」

 今年も変わりないようで一安心。やけに静かだなぁと後ろの座席を見ると、小6と小4の孫たちがスヤスヤと寝息をたてて眠っている。

「姉さんと美緒は?」

「葵は今回一人よ。葵の娘たちは夏休みは忙しいって」

 夏は皆で予定を合わせて帰ってきてくれる娘たち。でも、成長してきた孫たちの予定が合わないらしく、徐々に難しくなってきた。

「え、今年はちょっと寂しいね」

 去年はかろうじて皆集まれたのだけれど。

「そうね。でも、美緒は茜ちゃんっていうお友達を連れてきたわよ」

 末っ子の美緒は我が家の三姉妹で唯一の独身者だった。交友関係も、女の子の割合がとても多い。

「……あれ?もうついたの??」

 不意に声がした。そこではまだ少し眠いのか、右目をこすりながら優美の家の長男坊がこちらを見ていた。

「カイおはよ」

 母の言葉に、カイ───海人かいとは隣で眠る弟を起こそうと試みる。

「うん。……ほら、陸人りくと、ついたって」

「ん~……?」

 しかし、弟の陸人はまだ眠りたいらしく、起きようとはしない。

「カイ、いいよ。リクはもう少し寝かせておきなさい」


「うわー、海人くんも陸人くんも大きくなったねー」

 それから少しして、陸人も目覚め、家に上がる。茶の間では美緒が茜と共にテレビをみていた。

「みーちゃんだー!」

 海人が美緒に駆け寄ると、陸人は少しキョトンとしていた。

「みーちゃん………?」

 それでも眺めていて思い出したのか、「あ、ノートのおばさんだ!」と言って美緒に駆け寄った。

 去年、美緒は二人にノートをプレゼントしていた。どうやら、寝ぼける陸人の中で、美緒とその記憶が結び付いたらしい。

「美緒ちゃん、おじいちゃんが呼んで………あ、優美ちゃん、久しぶり」

 そこに、葵がやって来て、おじいさん以外の今日集まる予定だった全員がそこに揃った。



「さぁ~、出来たわよ」

 夜。少し遅めの夕飯の時間。

 目の前には1日では食べられないんじゃないかという量の料理たち。

「あ、みんな、食べ過ぎないでね?今回、私たちはデザート作ってきたんだから」

 美緒の言葉に、隣の子ども用テーブルから「はーい!」という元気な返事が2つ響いた。


 夕飯は楽しく進んでいく。

 美緒が餃子に手を伸ばすと、葵が「あ」と声をあげた。

「それ、皮から作ったんだよ」

「へー、さすが葵さんだね」

 美緒は葵のことを"葵さん"と呼ぶ。それは、葵とは父親が違っており、引き合わされてから10年も経っていないからだ。葵の存在すらも知らなかった美緒は未だに距離をはかりかねているのかもしれない。

「まぁ、親が料理できない人だったからね」

 父親に、男手ひとつで育てられた葵だったが、そんな父親も離婚後一度も再婚することなく亡くなってしまった。そんな元旦那の死を知って「帰ってらっしゃい」と声をかけたのだ。

「母さんは、そこそこ上手だよね」

 優美に言われ、「私は葵のお父さんが料理にうるさい人だったから、こんなにうまくなったのよ」と言うと、葵と目があって二人で笑い出す。

「作れないくせに口うるさかったもんね」

「その点お父さんは楽よ」

 葵の言葉に、黙々と食事を続けていたおじいさんのことを言って見せると「ん?」とおじいさんが顔をあげた。

「何作っても美味しいってほめてくれたもの」

 にっこりと笑うとおじいさんは「旨いからな」と言って食事に戻った。

「お母さーん」

「なぁに?」

 不意に、隣のテーブルから海人が呼ぶ。優美が様子を見ると、二人ともカラアゲが気に入ったらしく、もうほとんど残っていない。

「カラアゲもうないの?」

 海人の質問に答えたのは葵だった。

「あるよ。待っててね」

 葵は立ち上がり、キッチンへと消えて行く……。


 楽しい時間は続き、子どもたちとゲームをしたり、この1年間の近況報告をしたりと、夜遅くまで電気が消えることはなかった。


 ───やっぱり、みんなで食べるのは格別ね。いつも二人で食べるより美味しく感じるわ。ね、お父さん。

 また、来年も……今度はみんなで、集まれたらいいのだけど。

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