苦しみよ、永遠にさようなら
俺は天才かもしれない。なんてたって2度と苦しみを味あわない方法を思いついちまった。
もちろん俺はそれを実行する、今からだ。
この方法はとても用意周到にしなきゃいけない。だから実はもう2ヶ月も前から計画して準備してたんだ。
本当はこの方法を思いついた時点ですぐ実行したかったんだが、失敗は許されないもんでな。
そんでこの方法に重要なのはロケーションだ。場所が十割と言っても過言じゃあない。南国の島? アルプスの頂上? いいや違う。
確かに少しばかり景色がいい場所かも知れないがそういうことじゃない。とりあえず今登ってる階段をあと10分も登れば着くさ。
本当はエレベーターを使いたかったんだがな、早朝も早朝だからまだ使えないんだよ。節電ご苦労なこった。
おかげでもう随分階段を登ったぜ、きっとこれは俺が味わう最後の苦しみだな。
そう思うとこのアホったらしく長い階段も感慨深いもんだ。
それに、今まで受けてきた苦しみに比べれば屁みたいなレベルだ。いじめに親の離婚、おまけに就職難。んでやっと就職出来たと思ったらクビよ、クビ。
恋人? 友人? おいおい、都市伝説を間に受けちゃいけねぇ。
きっと、持って生まれたもんが悪かったんだろうが真っ当な人間はそれを言い訳としか取ってくれないだろうな。
みんなが当たり前に持ってて、俺がどんなに渇望しても手に入らなかったもの。
普通とか常識とか、もっと言うと愛情とか友情とか成長とか、そんな言葉にはヘドが出る。
みんな持ってて当たり前だから人に求めるのも当たり前の様に言ってきやがる。一つも持ってない人間だっているんだぜ? ここにな。
そう、俺には何もない。生きがいも愛する人も友人もなにもかもだ。あるのは食べて寝るだけの灰色の生活。働いてた時はそこに罵倒もプラスだ。
俺はなんだかそんな社会に疲れちまった。もうどうでもいいんだよ、なにもかもな。だってアホらしいだろ? 苦痛だけの生活だなんて。
だから俺は今日この階段を登ってるのさ、これが唯一の救いで抵抗だからな。
おっと、そろそろ終点だぜ。この扉の先に救いはある。鍵がかかってるが問題ない、そんなのは準備済みさ。
ほう、アルプスの頂上には及ばないが中々いい景色じゃないか、この街で1番高いビルを選んだだけあったぜ。
とりあえず一服だ、ちょうどラスト一本。計画性はバッチリだな。
屋上で吸うタバコってのは何だか美味いな、苦しみから解放される期待のせいかも分からんが。
さてと、一張羅のスーツに着替えるか。せっかくだし正装でいないと。作業着のままじゃなんだかしまらないからな。
スーツを着るのも随分久しぶりだな、クリーニングでも出そうかと思ったけど金がなくてシワついたまんまだ。
ま、俺にはお似合いだぜ。
準備完了だ、計画を実行するとしようか。
まず金網を乗り越える。
前を向けば朝日がきらめいてる、目にしみるぜ。
そろそろみんな出勤時間みたいだな、下に見える人間がアリみたいだ。
当たらんように気をつけろよ。
息を大きく吸い込んで、目を閉じる。
んで、最期にこう言いながら一歩前にでるのさ。
「苦しみよ、永遠にさようなら」
AM3:27の喫煙所 ゲブ @geb
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。AM3:27の喫煙所の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます