第2話【祈李乃(キリノ)の覚醒】
☆☆☆☆☆ シーン1 『カケルの憂鬱』
── 2310年9月5日午後、下校中の生徒達 ──
久し振りにカケル、キリノ、ユイカの3人で下校する帰り道……。
大きく溜め息をつくカケル
「はぁぁ~……。」
キリノが顔を覗き込んで
「どうしたの? そんなに大きい溜め息ついちゃって。」
「デビュー曲のレッスンがついていけなくて、辛かったりするの?」
憂鬱そうな顔で俯いたまま応えるカケル
「うーん……。」
心ここにあらずの様子だ
そんなカケルを庇うような口調でユイカが話す
「カケルくんって凄く歌が上手だし、ついていけないってこと無いよ。」
急にユイカの前に立ち止まり、真直ぐその目を見て口を開くカケル
「唱喚曲が聞こえてこないんだ……、ユ…ユイちゃんの時はどうだった?」
急に声を掛けられ驚きながら応えるユイカ
「えっ?! わ、わたしの時は、覚醒した後には聞こえてきたけど…」
再び俯いて呟くカケル
「そう…だよね……」
「やっぱり…オレには難しいのかなぁ……」
そんなカケルの背中をポンポンと軽く叩きながらキリノが言う
「個人差があるんだってよ。半年以上聞こえてこなかった人もいるみたいだし……」
「それに、覚醒後直ぐに聞こえてるユイちゃんは特別なの!」
そんなことないとでも言いたげに横にブンブンと首を振り、顔の前で手を横に振るユイカ。
今度はキリノの方へ向き直り、少し熱く語るカケル
「でも、唱喚曲が聞こえないと浄化はできないだろ?! オレ早く浄化ライブしたいんだよ!
少しでもたくさん浄化してディヴァディが出てくるのを止めないと!」
熱くなっているカケルの両肩に手をあててキリノが応える
「気持ち分かるよ。でも、焦っても何も起きないし、何もできないよ?!」
「きっとその時が来たらイヤでも聞こえてくるはず。だから、その時の為に今出来ることを一所懸命ガンバる。それが大事! でしょ?」
カケル
「リノ……。」
キリノ
「それに、そんな事言われると、覚醒してないボクからするとちょっと妬けちゃうかな?」
「ユイちゃんだけじゃなく、カケルにまで先越されちゃってさ。」
そう言いながらカケルから少し離れ、少し複雑そうな表情をカケルに見せまいと背中を見せる。
カケル
「リ、リノ……。ごめん、オレ…自分のことばかりで…。」
二人の様子を見ていたユイカが一歩前に出て、二人に向って口を開く
「本当に仲良しさん、ですね!」
カケルとキリノ口を揃えて
「な!? そんなこと…」
照れて少し頬を赤らめた二人の手を取って話すユイカ
「覚醒した後の活動をずっと助けてくれてありがとうリノちゃん。」
「そしてカケル君はファンとして支えてくれていて、わたしのライブを守る為にあの日覚醒したんでしょ? ありがとうね。」
「二人とも大事な大事な、わたしの友達! 二人とも大好き!」
そこまで話すと、カケルの手を両手で握り直して話しを続けるユイカ
「だから、落ち込まないでね。カケル君!」
いよいよ顔面を真っ赤にして応えるカケル
「あ…あぁ! そうだな……。」
顔だけをカケルとユイカの方に向け複雑な表情で二人を見ているキリノ……。
そんなキリノのデバイスに、メッセンジャーが通知を発する。
目の前の空間にホロ画像のバーチャルスクリーンが浮かぶ。
スクリーンに映し出されたリョウジがメッセージを伝える
「キリちゃん、頼まれていたデュアルスターズライブの席が確保できたよ。」
「カケル君達とオフィスにおいで。それと嬉しい知らせもあるんだ。」
嬉しそうに応えるキリノ
「…! 本当?! やったぁ! ありがとリョウさん!」
「丁度、カケルとユイちゃんと一緒だから、これから行くね!」
リョウジ
「あぁ、待ってるよ。」
そう言うとメッセンジャーが終了し、スクリーンも消える
ユイカとカケルの方に向き直り話すキリノ
「ユイちゃん、カケル、今日はボクも一緒にオフィスに行くよ!」
不思議そうな表情のカケル
「リョウさんから…? ライブの席とかって??」
すっかり落ち込んでいた様子から立ち直った表情のカケルとユイの手を取り、浮かれ気味にキリノが叫ぶ
「いいから、いいからっ! さぁ行こう!」
そんなキリノを見ながら微笑むユイカ
「ふふふ…。」
キリノの勢いに戸惑った様子のカケル
「お、おい… 腕をひっぱんなよぉ。」
リョウジがいるオフィスへと向う3人……。
☆☆☆☆☆ シーン2 『唱喚歌手振興協会オフィスにて』
唱喚歌手である唱喚師が所属するオフィスへやってきた3人。
街中にある未来的な建物の入口には唱喚歌手振興協会を示す【
この協会は、唱喚歌手活動のマネージメントは勿論の事、唱喚師の出動要請などの管理も行なっている。唱喚能力を覚醒したものは、須くこの組織に所属することになる。
カケルとユイカも唱喚覚醒後に使者が訪れ、協会に所属した。協会からレッスンや曲のレコーディング、ライブなどの活動計画といった活動全般の支援を受けている。当然担当マネージャーもいて、さながら芸能事務所の様相でもある。
入口を越え1階ロビーに入るとリョウジが待っている。
キリノが話すのを制するかのように口を開くリョウジ
「おじちゃんじゃないぞ、キリちゃん!」
それを受けてキリノ
「わかってるよぉ、リョウさん。」
「今日は、ホント、ありがとね!」
そう言って腕に抱きつこうとするキリノを振りほどきながら、
カケルとユイカに話をするリョウジ
「二人とも、今日のレッスンの前にちょっといいかな?」
カケルとユイカ揃って
「はい。」
二人の返事を聞いて、ニコニコの笑顔でリョウジの隣で、後ろ手を組んで立つキリノ。
軽く咳を払い話し始めるリョウジ
「コホン!」
「まず一つめ、ユイカちゃんがデュアルスターズのライブにゲスト出演することが決まった!」
驚くカケルとユイカ、今度も揃って
「ええっ!」
続けてユイカ
「嬉しい! わたしガンバります!」
それに続けてカケル
「おめでとう! ライブ楽しみだね!」
そんなカケルに向って声を掛けるリョウジ
「次のお知らせ。カケル君のことだが、関係者席でそのライブの観覧をして貰うよ!」
「君の為にも、今後の参考になるライブだと思う。」
驚くカケル
「えっ!」
そして隣のキリノに視線を向ける。笑顔のまま頷くキリノ。
察したかのよう頷き返すカケル。
リョウジへ視線を戻し礼を言うカケル
「リョウジさん。ありがとうございます。」
うんうんと頷くリョウジ。
明るくなった表情で一礼をした後に話すカケル
「じゃぁ、オレはレッスンに行きますので。」
そう言って、再びキリノに視線を送り声を出さずに
「ありがとうリノ」と口パクするカケル
「どういたしまして」
同じく口パクのみで応えるキリノ
「わたしもレッスンに行きます。」
とユイカ
それに応えてリョウジ
「あぁ、ユイカちゃんは詳細をマネージャーさんに聞くといい。」
「はい!」
とユイカ
「じゃぁ、レッスン頑張ってね二人とも。」
見送るキリノ
手を振りながらそれぞれのレッスン場ヘ向うカケルとユイカ……。
二人の姿が見えなくなって、リョウジに話しかけるキリノ
「っと、ボクはママたちのとこに寄ってくね。」
「今日はどっちですか? ディレクターさん?」
リョウジ
「大レッスン場ですので、その控室にご案内しましょう、お嬢様。」
そう言い、手を差し出すリョウジ。
差し出された手を取り、キリノが応える
「お願いしますわ。」「ふふふふ。」
リョウジもこらえ切れずに笑う
「はははは…。」
笑顔のあとに表情が微かに曇るリョウジ。
キリノの母、ミサキのレッスン場へ向う二人……。
☆☆☆☆☆ シーン3 『唱喚デュアルスターズライブ開演前』
── 2310年11月6日朝、唱喚デュアルスターズライブ会場 ──
関係者控え室で朝一番に入ったADが、デバイスのメッセンジャーで誰かと連絡を取り合っている。
ヴァーチャルスクリーンに映し出された文章には、ユイカを確保するように告げられている。ヴァーチャルスクリーンにタッチしてメッセージボードにバーチャルキーボードを使い了解した旨を打ち込む。
メッセージ送信後、別なアプリを起動する。スクリーンには五芳星を逆さまにしたエンブレムが浮かび、起動プログラムと思われるプログラムが走り始める。最終行には『ELOIM ESSAIM FRUGATIVI ET APPELAVI』と記されている……。
── 同日16:00 ──
唱喚デュアルスターズ会場のコンサートホールへ到着したカケルとキリノ。関係者通用口を通り、ディレクタールームへ入る。
進行表を確認しているリョウジに近寄り挨拶をするキリノ
「おじ…じゃなかった… リョウさんお疲れ!」
続けてすかさずカケル
「お疲れさまです。リョウジさん。今日はありがとうございます。」
言った後に軽く礼をする
少々はっとしつつ2人の方に向き直り、口を開くリョウジ
「なんか言いかけたねぇ…、キリちゃん。」
「いらっしゃい! カケル君。」
悪戯な笑みを浮かべているキリノが話す
「ボクたち、ユイちゃんの様子を見に行っても良い?」
応えてリョウジ
「あぁ。きっと緊張しているんじゃないかな……。2人を見たら少しはリラックスすると思うから、行って顔を見せてやるといい。」
カケルとキリノ、口を揃えて
「ハイ!」
通路に出て楽屋に向う2人。
途中すれ違うADに違和感を感じ急に立ち止まるキリノ。
見られていることに気付き、顔を隠すような仕草で足早に通り過ぎていくAD。
遠ざかるADを訝る様に目で追う。
呟き声で独り言ちるキリノ
「あのヒト……なんか…怖い…かも?」
数歩先に進んでしまってから、立ち止まっているキリノに気付き、キリノを呼ぶカケル
「リノ! どうした。何かあったかい?」
はっとして向き直り、応えるキリノ
「今、なんか違和感っていうか、なんだろう……圧迫される感じがして……」
「……でも、気のせいだったみたい……。」
カケル
「ふーん……。後でリョウジさんにでも話した方がいいかもな。リノのそういうの、気になるから。」
キリノ
「!? 気にしてくれてるの? ありがとカケル!」
少し照れながらカケルが応える
「い いや……。それより早く行こうぜ。」
ユイカの楽屋前に到着した2人。そこには、別部屋のはずの唱喚デュアルスターズの2人がいる。
「キリノちゃん、今日は私たちのライブを観てくれるのよね。ディレクターから聞いてるわ。私たちの思いを受け取って貰えると嬉しいんだけれど……。」
「そうそう、自己紹介まだだったわね。私は唱喚デュアルスターズの
そう言うと、隣の男性に手のひらを向けるホナミ
「同じく唱喚デュアルスターズの
そう言うと右手をカケルの前に差し出すシンジ
咄嗟に出された手を握り口を開くカケル
「あ! ハイ。」
次にキリノとも同様に握手を交わすシンジ。
後を追うようにホナミも2人と握手を交わす。
握手が終わるか終わらないかという時に急に話しだすカケル
「あ、あの! オレ…僕たちも自己紹介というか名前を……」
「自分、
カケルが言うと少しかぶせ気味にキリノも声を出す
「私は、
少しきつめの口調のキリノにカケルがひじを当てながら
「お おいキリノ、何でそんな言い方…」
カケルの台詞を征するようにホナミが言う
「いいんですよ……。」
「大友様は有名ですからね。後継者としてのキリノちゃんの事は知ってても変じゃないでしょ。ふふ、おばあさまとのことも、ね……。」
それ以上言うなという様なそぶりでホナミの台詞を止めてシンジが話す
「そろそろ時間なので、これで失礼するよ。じゃぁ、また後で……。」
一礼をして立ち去っていく2人。
キリノ内心で
(おばあちゃんとボクのことを知ってるの? なんで?)
厳しい顔をしているキリノにカケルが声をかける
「リノ! おいリノってば!」
「いいからユイちゃんのとこに行こうぜ!」
はっとしたキリノ
「あっ! うん…。」
部屋に入った2人は、緊張気味のユイカにいつもの調子で話しかけ、おしゃべりをしていると……ユイカの新任のマネージャーがやってきて最終打ち合わせの時間を告げる。
2人と離れミーティングに向うユイカ。カケルとキリノは観客席へ向う。
別れ際にユイカ
「リノちゃん、カケル君。ありがと! 緊張…ほぐれたよ! フフ。」
キリノ
「うん! 客席で応援してるからね!」
カケル
「全力でライブ楽しんで、ユイちゃん。…オレも楽しむから!」
「じゃぁね!」と言って、それぞれの場所へ向う3人。
☆☆☆☆☆ シーン4 『ライブ開演~惨劇の始まり』
── 同日18:00 ライブスタート ──
浄化ライブ用の結界が会場を包み、いよいよライブがスタートする。
暗くなったステージに男女2人のシルエットが映し出されると、前奏が流れ始める。
同時に台詞も聞こえてくる。
シンジ「聖なる光とともに歌う この歌が異形を討つ!」
ホナミ「聖なる炎の歌が響く この歌が邪を祓う!」
2人「我ら唱喚デュアルスターズ!」
決まりの台詞の後、姿を見せる唱喚デュアルスターズ。
オープニング曲を披露。一気に盛り上がっていく会場。
カケルとキリノも自然にテンションが上がる。
その盛り上がりのまま、続けざまに3曲歌い、熱気に包まれた会場のオーディエンスも自然に興奮とともにヴォルテージが上がっていく。ステージと一体となる充実感、そして心身ともに癒されていく。
ここで2人のMCを挟んで、ゲストのユイカを紹介するデュアルスターズ。曲紹介が終わり前奏が流れ始めると袖に下がる2人。替わりにセリでステージに登場するユイカ。
拍手でユイカを迎える会場。更に盛り上がりを見せるステージ。
オーディエンスの声援に併せてカケルも声援を贈る。
「…!? あれっ? あのヒト…?」
キリノがステージの直ぐ下にいる人影を見つけるとカケルに呟きかける
「あのヒト、あれ、おかしいよ!」
キリノが言うが早いか、その人影が持つデバイスから禍々しい影が出現。黒い光が瞬く間に会場を包み込む。
カケルが呟く
「え?! 異界化? ディヴァディなのか?」
会場が異界に包まれた後、件のデバイスを持つオトコを中心に影が集まり実体化する。
その姿を見て口を開くキリノ
「ゴエティア級?!…ディヴァディ……ガープ!」
「ユイが危ない!」
そう言うとステージに向って走っていくキリノ
「えぇ?! おい! リノっ! 待って!」
後を追うカケル
キリノがステージ前に駆け寄った刹那、ディヴァディ ガープから触手のような影が四方へ伸びる。
逃げ惑う観客を、伸びた影が貫くとその身体がはじけ消失していく。ディヴァディの攻撃によりその魂ごと身体が喰らわれるのだ。
触手の一つがキリノ目掛け伸びてくる。と、その時カケルに唱喚曲が聞こえてきた。頭に直接響く声、周りの景色がストップモーションになる。
♪蒼き閃光 清き風を呼び 闇を切り裂く破魔の矢となれ♪
五芒星が出現し、四神の一柱【青龍】が顕現する。同時に防壁が展開しガープの攻撃を無効化する。
ガープの触手攻撃に構わずステージに駆け上がるキリノ……。
そこへ唱喚デュアルスターズが登壇する。
ユイカに話しかけるホナミ
「次元結界内を異界化するなんて姑息なヤツ。許さない!」
「唱喚するわよ!」
続けざまにシンジも
「準備はいいかい?」
ユイカ
「ハイ!」
唱喚曲が流れ、ステージに玄武、朱雀、白虎が現れた。
☆☆☆☆☆ シーン5 『キリノの歌』
「ユイちゃん……あいつ唯一の歌を狙って……。」
ステージに上がり叫ぶキリノ
そこへ黒く光るエネルギー弾が襲いかかる。が、唱喚された白虎が弾をはじき飛ばす。
「リノちゃん! 危ないよ。わたしたちの後ろへ! 早く!」
叫ぶユイカ
「違うの! ダメなんだよ…ユイちゃんが前にいちゃ!」
だんだん悲痛になる声で訴えるキリノ
そんなキリノとユイカの前に出て、ガープへ攻撃を仕掛けるデュアルスターズ。
その攻撃にも怯まず、ステージに向かってくるガープ。
「させるかよ! 青龍!」
カケルが叫び、続いて歌のテンションを上げる。
応えた青龍が光の矢を放つ。が、いとも簡単に黒いエネルギー弾で相殺し、続けた攻撃で青龍とカケルをはじき飛ばすガープ。
「カケル君!」
ホナミ、シンジ、ユイカがほぼ同時に声に出す。
「カケル、引いてて! まだムリだよ!」
叫ぶキリノ
続けて呟くキリノ
「ボク……ボクがやらなきゃ…でも…」
何やら躊躇している様子だ。
目標を確保せんとステージに上がるガープ。
「ユイツノウタ ハ 確保サセテモラウ。」
「ジャマスルヤツハ 消エテモラウ ト シヨウ」
そう言うと闇のエネルギー球を作り、デュアルスターズへ放つガープ
吹き飛ばされ倒れるシンジとホナミ。朱雀と玄武の力で、辛うじて命には影響は無いがダメージは深刻だ。
そこへカケルが走り込んできて、立ちはだかる。再度、青龍を喚びガープへ攻撃を仕掛ける。
「ダメだよ! カケル! 逃げて!」
叫ぶキリノ
キリノを見ながら叫ぶカケル
「オレだけが逃げられるかよ!」
そして、更に歌い続けるカケル。青龍がガープに攻撃を仕掛ける。だが、ガープの強力な反撃により青龍諸共飛ばされるカケル。ダメージが大きく、意識はあるが起きることができない。
隙をみて、ユイカがキリノの前に出て歌のテンションを上げる。白虎のエネルギー弾がガープに当たる。が、ダメージを与えるには至らない。ガープが作り出した黒い球がユイカへ目掛け放たれる。
瞬間、叫ぶキリノ
「ダメ! ユイちゃん!」
ユイカを庇おうとするが、間に合わない。黒球に包まれるユイカ、捉えられ身動きがとれない。
更に、ユイカとキリノに近づくガープ。触手を広げて今にも攻撃せんと構えている。
「唯一の歌はお前たちに渡さない!」
キリノがユイカの前に、大の字に構えて立ちはだかる
その瞳が、群青色に輝く!
「リノぉぉぉー 早く逃げて!」
悲痛に叫ぶユイカ
「邪魔ヲ スルナラ オマエモ 消エテモラオウ!」
そう言うと、全ての触手をキリノに向けて放つガープ。
「いやぁぁぁ! リノぉぉぉー!」
触手に身体を貫かれるキリノを目前にし、泣き叫ぶユイカ
(……大丈夫だよ!)
頭に直接聞こえてきたその声にはっとするユイカ。
改めてキリノを見ると、顔だけをユイカに向けて微笑んでいる。
貫いたように見える触手は砕け、消失していく。
呟くユイカ
「え?! リノ……、あなた…?」
前に向き直りながらキリノ、応えるように
「ゴメン! ユイちゃん……。ボクは……。」
そこまで言うと、唱喚の神々しい曲が響いてくる。
神官とも巫女ともとれる姿の、光に包まれた透けた人影がキリノと重なるのが見える。
♪清き聖なる輝きよ 御心の祈りを宿し 邪なる闇を滅し 大地に光を♪
キリノの力強く輝かしい歌声にのせて、セラフィム級のディヴァディ【ミカエル】が顕現する。
瞳は蒼く光り輝き、髪も青白い光を放ち、全身の輝きでまるで白い服を纏っているかのようなキリノが高らかに歌い上げていく。
呼応するミカエルが究極のエネルギーをガープへと放つ。
「ナン ダ ト?! ウォマエハ アノ プ…リ…エイ…………」
最後までは言えずに滅せられるガープ。
ガープ消失後、異界化も解けていく。
ミカエルは消え、周りを見渡すキリノ……。
デュアルスターズ、ユイカ、カケルを含め、傷付き倒れている人々が多数いるのを認めると、ミカエル唱喚とは別の歌を歌い始める。
♪白き輝き 聖なる無垢な祈り 癒やしの光となれ♪
清々しい旋律に乗せた天使のように気高く美しく力強い歌声が広がる。
今度は、キリノの頭上で祈りを捧げる癒やしの女神エイルが顕現し、光の輪が広がっていく。
光に包まれた人々の傷が治り、癒されていく。
生き残った全ての人々が癒されたのを認めて、エイルは消えていく。
悲惨な事件は、こうしてキリノの唱喚の能力により解決した……。
キリノに近寄るカケルとユイカ。
側に寄り、話すカケル
「リノ……。覚醒してたなんて……。」
首を横に振り、ゆったりと噛み締める様に応えて話すキリノ
「ううん……。違うよ。ボクは覚醒…してない…。これは…プリヤ…おばあ…ちゃん…の……。」
話ながら気を失い倒れ込むキリノ……。
「リノ! そんな! おい! リノぉぉぉー!」
慌てて抱きかかえ叫ぶカケル……
☆☆☆☆☆ シーン6 『惨劇の後で』
── ガープ事件の翌朝、キリノの家 ──
昨日のガープ事件後に気を失ったキリノを運び、キリノの両親に事件を伝えたのはカケルだった。そこでキリノの両親から、キリノの出生には世界の命運を握る秘密がある事、キリノがある人に会う時が来るまで何に替えてでもキリノを守り抜かなければならない事が告げられた。
カケルは、アスモダイ暴走事件後から元々隣同士だったキリノの家に世話になっている。
この日は、いつもキリノに起こされているカケルの方が先に起きてリビングに来た。
リビングでは、アイランド型のキッチンで朝食の用意をしているキリノの父リュウイチと、その手前で歌詞の確認をしているミサキがいる。
そのミサキを見て昨夜の会話を思い返すカケル……
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「…世界の命運だなんて……」
微かに涙を浮かべて呟くカケル
そんなカケルにミサキから
「きっと私たち以上にキリノ自身が自分の運命を知っている筈です。ある事件の時にあの人と魂が通じたみたいですから。」
「詳しい事は、その時が来たらあなたにも話すでしょう……それまで待ってあげてね。そして、私たちと一緒にあの娘を守って……。」
「うん! オレまだまだだけど、出来る限りの事をするよ! ミサキ母さん。」
「あいつと、一緒にサモンアイドルになって世界を救うって約束したから!」
自分に言い聞かせるように話すカケル
そのカケルの言葉を聞き、微笑みながらミサキは頷いたのだった。
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……そんな昨夜の会話を思い返してまた、瞳を潤ませていたところへ、
「おはよぉ。ふぁぁあ…。」
いつになく大きな欠伸をしながらキリノがリビングに入ってくる
カケルを見つけると
「あっ。カ…ケ…ル……。今日は早いね。お…おはよぉ……」
と、いつもより低いテンションでキリノが話しかける
続けてキリノ、はにかむような口調で
「ゴメン ね… ボ…ボク……。あの、黙って…て……。」
その様子を見て、キリノの顔を覗き込むようにしつつ口元に人さし指を立てるカケル。
無理に話さなくて良いとでも言いたげに頷いてカケルが口を開く
「おはよう! キリノ!」
「それにしても、昨日は精神力を使い切っちまってぶっ倒れちゃうから、オレ焦って家まで連れてきてやったんだぜ!」
「今日は、もう大丈夫かい?」
頷きながら応えるキリノ
「う…ん…。もう、大丈夫…だと…思う。」
「ありがとうね。カケル…」
そこへ、リュウイチが話しかける
「さぁ! 朝ご飯出来たぞ! 美味しく食べて今日も元気よくスタートしようか?」
「! ハイ!」
カケルとキリノが声を揃えて応える
少し遅れて
「ハ?! ハイ!」
窓際でデバイスを操作していたリョウジも応える
少しあきれ顔でリュウイチ
「って、リョウまで……」
「ウフフフ……」
その様子を見て微笑むミサキ
こうしてキリノの家族とカケルは朝食の団欒を過ごす……
(ボクがホントウの覚醒をしたらカケルとユイちゃんにも話さなきゃ……でも……)
(おばあちゃん……ボク…は……)
(大丈夫だよ! ウタの魂も唯一の歌も分かってくれる筈よ…)
……キリノは心の中で誰かと会話をしていた……
☆☆☆☆☆ シーン7 『ミサキのライブ当日~リョウジの異変』
── 日が進み、2310年12月3日 ──
8月、11月と短いスパンで起きたディヴァディ事件で危機感を募らせている
はミサキのライブでは細心の注意の元、厳戒態勢で挑む事にした。
厳重な結界を展開しディヴァディ進入を断固阻止する構えだ。
リョウジの控室で鏡を見ながらほくそ笑むリョウジ
「いくら厳重にしても無駄だがね…」
鏡に写るその顔は邪悪に歪んだ笑みを浮かべている
「15歳になる今日…。仕込みは上々…唯一の歌を確保出来なかったのが心残りだが…まぁ良しとするか。ククククッ。」
実体のリョウジは恐怖に引きつった顔で、目は潤んでいる
「こんなこと、キリちゃんを喰らうなんて僕は望んじゃいないぞ!」
応える鏡の中のリョウジ
「ほう?! ヒトのオトコとして、オンナになったキリノを欲しいと願ったのじゃなかったのかね?」
実体リョウジ
「……そうだ…僕は望んでしまった…禁断の……もう後戻り出来ない…のか?」
鏡中のリョウジ
「恐れるな! あの娘を自分の物に出来るんだぞ! 望みが叶うのだ、叶うのだぞ!」
そう言われると、リョウジはデバイスが喚びだした影に向き直る。
その影が更に話し続ける
「さぁ、躊躇せずに実行するぞ!」
応えるリョウジ
「そうだな。やるしかないな… の……望みが…叶う…の…だか…ら……キリちゃん……愛おしい…よ…」
その瞳は潤んでいる…。
☆☆☆☆☆ シーン8 『ライブ会場に感嘆するカケル』
── 同日 午後 ライブ会場 ──
キリノと共に観覧にやってきたカケル。会場のドーム型スポーツスタジアムの規模に感嘆の声をあげる
「凄いねぇ! オレ、スタジアム初めてだよ!」
その姿を見ながら微笑むキリノ
「ふふふ。ボクは何度か来てるけどねぇ!」
その2人を見つけて叫びながら手を振っている人がいる。リョウジだ。
2人に近づきながら叫ぶリョウジ
「おーい! キリちゃん、カケル君! 遅い遅い。」
「最終リハ始まっちゃうよ!」
カケル
「リョウジさん。お待たせしました。」
そう言うと礼儀正しく一礼をするカケル。
それを見てリョウジ
「いや、まぁ良い良い。」
「それより、控室に寄っていくだろう!」
カケルとキリノ揃って
「はい!」
カケルが少し興奮気味に話す
「それにしても、凄い規模の施設でライブするんですねぇ! 感動!」
それを聞いて、リョウジ
「施設の規模というのもあるが、スポーツ会場は定期的に浄化する必要があるからね…」
それは知っているという顔でカケルが応える
「はい。こと勝った負けたという試合だと、嫉妬や嫉みっていう負の感情、イヴィル精神波が発生しやすいからですよね。」
カケルの言葉を受けてリョウジ
「そうそう。どうしても負けると悔しい、悔しさからの嫉みってのは人間としてはどうしても抱いてしまう感情だからね。」
「その嫉みにつけ込んで取り憑くディヴァディが後を絶たない。まだ小さなうちは、そう強力なヤツも来にくいが、放っておいてイヴィル精神波エネルギーが溜まって大きくなると、手がつけられないくらいのアイデル値をもった強力なヤツが現出してこないとも限らない…」
続けるようにカケル
「だから浄化ライブでイヴィル精神波エネルギーを中和させる必要があるんですよね!」
応えてリョウジ
「その通り!
被せてカケル
「人々のココロを癒す!」
やられたという顔でリョウジ
「おぅ! う…うん。」
続けて咳払いするリョウジ
「コホン。」「そう。その通り…分かってるじゃないか!?」
そんな2人のやり取りを、ずっとニコニコと笑顔で眺めているキリノ
「そろそろリハじゃないんですか? 控室へ案内してくださるかしら? ディレクターさん。」
キリノに促されはっとして応えるリョウジ
「おぅ! そうだった。こちらへどうぞお二人さん…。」
3人笑いながら控室へと向う。
途中でリョウジが口を開き
「控えはこの向こう…。大きく書いてあるからすぐ分かる筈だよ。」
「ボクは召喚士との次元結界展開の打ち合わせをしてくるから先に行っててくれ。」
受けてキリノ
「ハイ! ディレクター様。」
言って、ピッ!と敬礼して笑う。
その笑顔に微笑み返して別の方へ向うリョウジ……キリノに背を向けたところで表情は曇り目は潤む……。
☆☆☆☆☆ シーン9 『リョウジの失踪』
時間が経過し、リハ開始の時間を過ぎても姿を見せないリョウジに不安の色が濃くなり始めている控室。
リュウイチが口を開く
「リョウが連絡もなく来ないなんて……。」
キリノ
「リョウさんのデバイス追跡してるけど、この施設内にいる事しか分からないの。どの部屋とか細かいところは全然出てこない…」
リュウイチ
「時間がないな…最終リハはディレクターなしでもどうにかなるか…打ち合わせ通りにやるぞ。」
キリノ
「あれ? そう言えば、ボク達ここに来る時に別れたけど、リョウさん結界の打ち合わせって言ってたっけ……」
「でも、パパはここにいるじゃない?!」
リュウイチ
「ん? 結界の打ち合わせは最終リハ後にやって、それからスタンバイに入る予定だが…」
キリノ
「えっ?! じゃぁ…ホントにどこに行っちゃたのカナ? …リョウ……おにいちゃん…。」
☆☆☆☆☆ シーン10 『スタジアム地下~後悔の思い出』
控室でリョウジの失踪に蒼然となっている頃。スタジアム地下倉庫にリョウジの姿があった。ここはかつて控室として使われていたが、スタジアム拡張に伴いより広い部屋に控室が移された為に倉庫に転用されている場所だ。ミサキがファーストライブを行なった時の控室でもある。
独り言つリョウジ
「ミサキさん……16でデビュー…ファーストライブ…そして18で結婚と出産。急なことに世間も驚いていたな…」
「その後も子育てをしながら、浄化ライブやディヴァディ滅殺の唱喚師の活動を止めないでいる…」
「そして…キリちゃん……どれだけ特別なのか……僕にとっては、初めてのときから特別だったミサキさんのその子供だから、何より特別な娘だよ。キリちゃんは。」
そう言うと、若き頃の回想をするリョウジ
…………
安倍の姓を持って生まれてきた僕達は、子供の頃から精神力が高かった。特に兄さんは伝説の先祖の再来とまで言われていたな。
僕はそんな兄さんに憧れてたし、兄さんは僕の誇りで自慢でもあった。
ファイブスター中等部卒業までには、デバイスを使わなくてもディヴァディを呼び出して、昔々で云う【式神】の様に使役していたな。
兄さんより精神力で劣る僕は、どんなに頑張ってもデバイス無しで召喚出来るのは小物ばかりだった……。
召喚士は諦めようと、別の道を探しながらもどこか諦めきれずに高等部に進んだんだ。
高等部に進んで、運命の女性(ひと)に出会ったんだ。
それが
大友といえばあの召喚士の始祖と云われている【
なんでも、ディヴァディとの戦いで両親を失って、古来より関係の深い安倍家に身を寄せることになった、とからしい。
よりによって16歳の若いオトコの家に、急にとてつもなく美しくて優しい17歳の女性がやってきたんだよ! 平常心でいられる訳がない。
一目惚れだったよ……進む道に迷っていた僕は、ミサキさんに出逢って心が決まった! ディレクターになろう! ってね…そして一生をミサキさんのライブ活動の為に生きようと誓ったんだ…だった…のに…
そう、本当は分かってたんだ…。ミサキさんを支えるのは近くで一緒に戦える召喚士がよりふさわしいって! 家にきたのだってそれが目的…兄さん…一流の召喚士の
当然のように結婚することになって、そのことを聞かされた時は哀しくも、でも、祝福したよ…心からね。
傷心ではあったけど、ミサキさんとはこれで義理とはいえ晴れて姉弟になれたんだ、もう他人ではなく正式に家族なんだ! って割り切ったよ。……割り切った筈だったんだ……もっと衝撃的な出逢が訪れるなんて思わずにいたのさ…
結婚からほどなくミサキさんが身籠もった事を知った。衝撃ではあったが、もう割り切ったつもりでいた僕は祝福の言葉を素直に贈ったものだよ。そして生まれてきた天使と出逢ったんだ。……なんてことだ?! 天使は天使を生むなんて誰が知ってるもんか?
その天使は光に包まれて生まれてきたという。周りをエンジェル級ディヴァディが舞い祝福したんだそうだ。本当かどうかは分からないけどね。あの、ウタの子孫で古来の陰陽術士の家系の兄の血も受け継ぐ子だよ! いったい世界は何をこの子に求めるというのだろうか?
まだ赤子のその子に会った時には本当に輝いているように思えたが、その宿命を考えると胸が締めつけられる思いだった……祈李乃ちゃん……その名前に込められた祈りは何を示すのだろう?……そんなことを思うと、姪だからというだけでなく愛おしく思えたのさ。
僕はこの娘を守らなくちゃと何故か漠然とそういう想いが頬をつたうものと一緒に溢れてきて止まらなかった……。兄さんもミサキさんも忙しい日々を過ごしていたからね、当然手が空いている時には僕も育児を手伝ったよ。あのころは『リョウにい』『おにいちゃん』ってとっても懐いて…慕ってくれて…ミサキさんのライブには小さい頃から観に来てたよね…兄さんやミサキさん、そして僕の仕事ぶりを見てくれてた。
いろんな、いろんな楽しい思い出もいっぱいあった。キリちゃんが初等部の頃は……。
あの時、キリちゃんが中等部に進んだあの日までは……。あの日もライブの準備だったよね……僕はいつものように、会場にきたキミが声を掛けてくれたことも分からず忙しくしてたんだよね……後ろにいたキミに気付かず後ろに降った腕が柔らかい膨らみに当たったんだ…それが女性特有の膨らみだと直ぐに分かった。ただ、それがキリちゃんだった事に驚きそしてとまどってしまった……少し痛そうな声と一緒に、キミはそんな僕をみて哀しそうな表情をしてたね…ぶつかった時の痛みからかな? 少し瞳が潤んでいたように見えた……僕は絶句してキミが何か言ったことも覚えていない…ただそれからキリちゃんが僕を「おにいちゃん」と呼んでくれなくなったのは確かな事実なんだ…。
そして、もう止められない想いが僕の心を侵食し始めたのもこの時からだった。キリちゃんを意識し始めてしまったんだ。オトコとして、オンナとしての君を求め始めてしまった。実の姪に抱いてはいけない感情だとは分かってた……でもどうにも抑えられない……この葛藤に悩まされ、苦しめられる日々をおくっていたんだ……そんな時デバイスを受けとったのさ! この……ディヴァディ召喚プログラムがインストールされている……デバイスを。望むものを手に入れたいのなら、そのプログラムを起動するようにと。悩みがあるなら、そのプログラムで喚び出されるディヴァディに身を任せれば楽になると言われ、受け取ったデバイス……日々の苦しみに呵まれていた僕は躊躇せず受け取り……起動してしまったんだよ……
その後は、もう……僕の心は……もう僕の物か……どうか……分からない……今にも…意識が消えそうな……使役してるはず……の……アメイ……モ……ン……に……意識が…………乗っ……取られ……
リョウジの思考が事切れ、リョウジの頭上に浮かぶ影が語り始める
リョウジには表情がなくなり、瞳には光が無い……
「フン! 最後マデ抵抗シテクルトハ 流石ハ安倍トイッタトコロカナ。」
「サテ ソロソロ始マルナ コチラモ準備ヲ スルトシヨウカ」
☆☆☆☆☆ シーン11 『異界化した地下倉庫~アメイモンの思惑』
何度かこのスタジアムに来た事があるキリノは、リョウジから聞いた事のある話しを思い出す。母ミサキのライブデビューがこのスタジアムで、その頃は控えは地下にあった事、思い出が沢山あるその場所が今は倉庫になっていて寂しいと言っていた事も……。
「パパ。ボク、リョウさんがいそうな所を思い出したんだ。ちょっと行ってみるね!」
そう言うと早足で向きを替える
応えるキリノの父リュウイチ
「そうか。じゃあ頼む! もう結界を展開するから気を付けるんだぞ。」
「カケル君も手伝ってくれるかい?」
そう言うとカケルの方を見る。
応えてカケル
「ハイ。 モチロン!」
そしてキリノに向って
「気をつけてな! リョウジさん見っけたら早く戻ってこいよぉ。」
キリノ
「うん! 分かってる……」
そして、カケルとすれ違いざまに小声で囁くキリノ
「何だか胸騒ぎがするの……あの時みたい……」
その囁きを受けてカケル
「! えっ?」
少し驚いた後、小走りで駆けていくキリノの背中を見ながら思うカケル
(よし、後で行ってみよう…地下室だな?)
そう思いながらキリノの向う場所が瞬時に理解できた事に疑問を感じながらも何故か確信を持つ。
程なく召喚士達の次元結界が展開する。
これで結界外からのディヴァディの侵入を許さない。小物であれば行動する事がままならなくなるだろう。
地下の倉庫に向う途中、結界の展開を確認しながら足早に進むキリノ。
(パパ達の結界が張られたな……。パパの結界ならあの時みたいに簡単にディヴァディの侵入はできないよね……。)
そう思いながら、倉庫へと続くドアを開けてその違和感に驚く。
「え! 何? この異様な空間は? ……異界化してる。 どうして?」
直ぐ目の前の、ある筈の無いドアの向こうから聞こえる声に聞き覚えがある……
「ちゃん……キリちゃんかい?」
「来てくれたんだね? 嬉しいよ。やっぱり分かってくれてるんだねぇ。」
「こっちへ来てくれないかなぁ……」
その声は明らかにリョウジのそれだ。
キリノが少し戸惑い気味に語りかける
「リョウさん! そっちに居るって言うの? ここ異界化してるよ?!」
「そっちにはディヴァディが居るんじゃないの?」
あまりにも強い気を感じてそのドアを開けるのを躊躇している。
リョウジの声が語る
「そうさ。ディヴァディに囚われてしまって動けないんだ!」
「このままだと喰らわれてしまう…キリちゃん……助けて……くれ!」
その言葉で突き動かされドアを開けてしまうキリノ
「おにいちゃん!」
ドアを開けて、そこにいるものに驚愕の声をあげるキリノ
「えっ?! い! いやぁー!」
そこにいたのはリョウジの身体に纏う漆黒で禍々しいディヴァディとその触角の様な影だ!
リョウジの顔は血の気を失い、瞳には輝きもなく瞳孔は開いたままになっている。所謂死人の形相だ。
そのリョウジが語りだす
「手遅れだったねぇキリちゃん……もう僕は僕ではなくなってるんだよ……もっと素晴しい存在になってるんだ……」
「そして……キリちゃんと……キミとも一つになりたい……キミと一つになれば…もっと…素晴しい力を手に入れられる…」
「この次元世界を壊して……素晴しいワタシたちの世界に……できるのだよ!」
「ワタシト ヒトツ ニ ナロウ……ソレガ コノ モノ ノ 最後ノ願イ デモアッタノ ダカラネェ……」
そのモノが語りかけると同時に軽い眩暈を起こしたキリノ。
瞳を一瞬閉じた後に再び開いた時には、微かに群青色に輝きだした。
「お前は、アブラメリン級ディヴァディ……アメイモン!」
「リョウさんに取り憑いたのか? ゆ、許せない!」
キリノの言葉を聞き、返答するアメイモン
「憑イタノデハナイ! 喚バレタノサ! コイツハ チカラヲ 望ンダンダ! オ前ヲ手ニ入レル為ノ チカラヲ ネ!」
「ソシテ コイツ ノ 望ミノママニ 一ツニ ナッタノサ」
「前々カラ オマエヲ 欲シガッテイタノデネ コノ オトコ ハ オンナ トシテノ オマエヲ ネェ!」
「ソノ 成リノ小娘トイエド オトコガ オンナヲ 欲スルトハ ドウイウ事カ 分カルノダロウ ニンゲン?」
「ワタシハ ソウイウ ニンゲン ノ 欲望ヲ 手助ケシテヤッテル ノサ」
呟くキリノ
「色欲の悪魔!」
そう言うと下唇を噛む。
瞳は潤んで蒼く光る。
更に続けるアメイモン
「一ツニナレバ 全テノ苦シミ カラ 開放サレル ダロウ ソレハソレハ 気持チ ヨクナルゾ!」
「リョウジ ハ ソレヲ 選ンダンダ! 心ノ苦痛カラ ノ 開放ヲ!」
「オマエモ 快楽ニ身ヲ任セテシマエヨ ソレコソ リョウジ ガ 望ンダコトサ」
キリノ怒りながら
「そんな事…リョウさんが…本当に望むわけ…無い!」
そのキリノの叫びを聞くとアメイモンが変身していく…死人の様相のリョウジが動き出し口を開く
「酷いなぁキリちゃん! ボクがどれだけキミを愛していたか分かってくれてると思ってたのに…」
その姿をみて叫ぶキリノ
「リョウさん?!」
リョウジの姿のそのモノが語る
「そうだよ、ボクだよ! さぁ、こっちへおいで。小さい頃のように、また楽しく一緒に遊ぼう! キリノちゃん。」
キリノが問い掛けるように話す。
「どうして、こんなこと……。ボク、リョウさん……のこと大好きだよ、笑い合っているあの時間が……。掛け替えない大切な時間だったよ……。いっつも支えてくれて、ボクの我儘も聞いてくれて……大切な…大切な…ボ…ク……ボクの……。」
そう言いながら、瞳に溜まっているものが溢れ出し、視界を妨げる。
その時、音を立てず、気付かれずに伸ばされた触手に、易々と捉えられてしまうキリノ。触手に巻き付かれ身動きがとれない。
「う ぐっ。」
苦しみに呻き声を発するキリノ
☆☆☆☆☆ シーン12 『カケルの戦い』
「クッ。放してリョウさん! こんな……止め……て。」
苦痛で声がうわずりながら話すキリノ
キリノを捉えたリョウジの姿のモノが、捉えたキリノに話しかける
「そう言えばあの時 ここに触れてシマッタンダッタナ…グググフ」
「ニンゲン ノ オンナノ 膨ラミニ…」
そう言うと触手をキリノの胸に当てるリョウジの姿のモノ。
「うぐっ んふっ……あの時の事、覚えて…いるの?…リョウさん……あの時は…ボク…びっくりしちゃって……。でも、お仕事の邪魔しちゃったなと思って、ゴメンなさいって言ったけど声にならなかったの…男の人の手が胸に当たったのがちょっとショックだったんだ…ぶつかるの…初めて…だったから……それからおにいちゃんって…呼べなくなっちゃった…おじちゃんって言って…距離を置きだしたのはボク……ゴメンね……おにいちゃん……」
触手の締めつけの苦しみに堪えながら話すキリノ
「…………?!」
無言のリョウジの姿のモノ。触手の締めつけが緩む。
「青龍!」
叫び声と共に異界内に飛び込んできた人影。カケルだ!
「なんだこれは?」
「リョウジさん…なの…か?!」
「ディヴァディ憑きか!」
そう言うと歌のテンションを上げる。呼応してキリノを締めつけている触手を青龍が攻撃する。
開放されたキリノを抱えるカケル
「リノ! 大丈夫か?!」
抱えられた後、しっかりと自分で立ち直り応えるキリノ
「ボクは大丈夫!」
そのキリノに問掛けるようにカケル
「リョウジさんがディヴァディに憑かれてしまってるなんて……」
カケルを制する様に返すキリノ
「違うの、ディヴァディ憑きともちょっと違うみたいなの、喚ばれてから一つになったって。」
カケル、はっとして
「召喚してからの合体?……まさか、憑依合体?!」
「…に近いものだと思う。ディヴァディなんだから、出来ても不思議じゃないでしょ?」
頬を濡らすものが留まらずに話すキリノ
そんなキリノの両肩に手を当ててから立ち上がり、リョウジの姿のモノに向き直るカケル
「だとしたら、もうリョウジさんは助からないよ!」
「早く楽にしてあげよう……」
そう言うと、歌いだすカケル。青龍が攻撃準備に入るその時、キリノの心に響いてくる声が!
(リちゃん…キリちゃん……)
リョウジの声だ。本人の声に違いない。
青龍がいよいよ攻撃を繰り出そうとする時…
「ダメ! 待って!」
走り寄り、リョウジの姿のモノの前に立ちはだかり叫ぶキリノ
「な?!」
驚き、攻撃を中止するカケル
リョウジの姿のモノがカタチを変えアメイモンの禍々しい姿となる。触手が再びキリノに伸びてくる。
「! 青龍!」
キリノに伸びた触手を弾く青龍
「リノどけるんだ! もうアイツはリョウジさんじゃないよ! 倒さないと…キミが…」
叫ぶカケル
「まだ生きてる! リョウにいの意識はまだ生きてる。ボク、おにいちゃんの声が聞こえたもん!」
悲痛に言葉を放つキリノ
そのまま向き直りアメイモンを凝視して叫ぶ……
「リョウにい!」
構わずに次の攻撃をしようと複数の触手を束ねて振り上げるアメイモン。
「止めて! 聞こえたよ! ボクの声、届いてよー! ……おにいーちゃぁぁぁん!」
必死の叫びをするキリノ……
☆☆☆☆☆ シーン13 『悲しい会話』
アメイモンの動きが止まった。
心に響いてくるリョウジの声
(キリちゃん……ゴメン……本当に…)
(チカラの誘惑に抗えず……分かってたのに…このプログラムが危険なものだということ…)
(大好きなキリちゃん、憧れの兄さんとミサキさんの大事な宝物……)
(まだ小さかったキミと過ごした日々は本当に幸せだった。)
(でも、キミに科せられている宿命その運命。世界の命運を背負っているという…そんな祈りを込められて生まれてきたという出生の秘密を知った時……どうしようもなく愛おしく思えた……微力だがボクが守らなきゃって思った……)
(…この身体の命尽きるとも、永劫に守るとそう誓ったものだよ…)
(キミに異性を意識してしまったあの時から、その想いが歪みだしてしまった。愛のカタチが変わってしまったんだ……男女のそれに成ってしまった……思えばそれも仕組まれていたのかもな……アメイモン…色欲の悪魔…)
(気付いてももう手遅れだったのさ…ボクは誘われるまま悪魔のプログラムを受け取り、起動し、この悪魔を喚んでしまった…身体と意識を乗取られるとも知らずに…)
キリノが心で応える
(リョウにいは優し過ぎるんだよ……ずっとそう。リョウにいが愛してくれていたの知ってたよ。ボク嬉しかった、その想いを知ってて甘えていたのはボクの方……そんなに苦しんでいたなんて知らなかったの…ゴメンなさい……)
リョウジの心
(キリちゃんが謝る事は無いさ。キミは何も悪くない……僕はニンゲンの心の弱さを知ったよ……もう間違わない……迷わない……償いの時が来たんだ…)
(この身体の僕の意識はもうすぐ無くなる、この肉体の中の僕は死んでる…死んでるのに、精神が……魂が縛られてる…)
(キリちゃん! アメイモンを倒してくれないか! アメイモンを倒して僕の魂を開放して欲しい……)
(この心まで喰らわれてしまう前に!)
☆☆☆☆☆ シーン14 『キリノ哀しみの覚醒』
「うん……おにいちゃん! 分かったよ!」
そう言うと瞼を閉じ決意をしたように頷き、目を開くキリノ
その瞳が再び蒼い輝きを放っている…
(おばあちゃん……待って! ボクがやらなきゃダメなんだ!)
(……いいのかい?)
キリノの心でおばあちゃんと呼んでいる存在と会話した後、瞳の輝きが収まる。
アメイモンは動く事が出来ないままだ
「コイツ 最後ニ コンナ 抵抗ヲ シヤガッテ」
「動キヲ封ジテクルナンテ……」
キリノの頭に直接語りかけてくる声がキリノに問う。
「力を欲するならこの歌を歌うがよい!」
キリノの額・両手・両足を光の軌跡が走る。大きな五芳星が輝く。神々しい光が溢れ、旋律が流れる。
「来た! ボクの唱喚曲! これがボクの覚醒。響かせる! いのりの歌!」
♪救いの歌 いのりの歌 大地に空に 山に海に河に 世界に響け聖なる旋律 奇跡をここに 救いの光で闇を照らそう♪
歌いながら頭上に凛と真直ぐに両手を伸ばすキリノ。
その仕草に合わせるように魔方陣のような光の輪が天上から降りてくる。
光の輪から現れたのはセラフィム級ディヴァディ【ガブリエル】だ。
☆☆☆☆☆ シーン15 『アメイモン滅殺~訣別』
キリノの真の覚醒により喚ばれたガブリエルが聖なる光弾をアメイモンめがけて放つ。
光に包まれその収束とともに空間に消え去っていく。
異界化が解かれていく。
光の輪とともにガブリエルも消える。
カケルが驚きの声を発する
「まだだ! あれを!」
カケルが指を差した方には人影が残っている…リョウジの姿のモノが居たところだ……その影が顔を上げる。
が、オールバックではあるが髪は輝く金色で瞳は銀色…顔つきはリョウジのようであってリョウジではないようでもある……。
そのモノが口を開き話しだす。
「ありがとう。いのりの心とウタの魂よ。やっと開放されたよ。」
キリノが問掛ける
「だれ?! リョウにい?」
そのモノが応える
「リョウにいか…此の岸での名だね…それも悪くはない。その身体での記憶も思い出も間違いなく私のものだ。」
「詳しい話しはまた会う時に残しておこう。今は名乗りだけにしておくよ。」
「彼の岸での名に因んで……ルキ…、ルキ・ファエルとでもしておこう…。」
ルキ・ファエルと名乗ったその者の姿を目にし、彼が口にした『いのりの心とウタの魂』を耳にしたとき、カケルはフラッシュバックの様な感覚に襲われ眩暈を感じた
「何だ? これは? オレはアレを知ってる?」
ほどなく眩暈は治まる。
まばゆい金色の光に包まれる『ルキ・ファエル』と名乗ったモノ。
集まった光が翼のように羽ばたき、その後方に異様な空間の裂け目が現れる。
カケルが口を開き
「あれは……次元の亀裂?」
立ち去ろうとするルキ・ファエルへ手を伸ばし叫ぶキリノ
「アナタは?! 待って!」
そして精一杯に叫ぶキリノ
「待ってよ! 話したい事、たくさん有るの! ……おにいちゃん!」
涙がほとばしるキリノ。
部屋にそのこだまを残し、裂け目を通って消えて行く。
消える間際にキリノを見て
「また会えるよ。キリちゃん。」
と囁くその声はリョウジのように聞こえた
空間の裂け目が消えた後に手を伸ばしたままのキリノが呟く
「また…会いたいよ……お…にい…ちゃん。」
その瞳と頬は濡れていた……
カケルは独り言ちる
「……アレは…似ている……あの時の……光の大天使……明けの…明星……。」
☆☆☆☆☆ シーン16 『キリノの決意、祈り、そして誓い』
全てが終わり、放心状態のキリノを、後ろから両肩を抱いてカケルが話す
「リノ…辛いかもだけど……オレのあの時と同じ……オレ達の唱喚で…その歌で…救える命も魂もあるんだ。」
「オレ……こんな思いをする人を少しでも減らしたい……よ…。」
その声を聞き、気を取り直したキリノ。
瞼を閉じ、決意したように頷いてから話し出す
「ボクの歌が世界を救うのなら、この歌を世界中に広げたい……ボクは、ボクの歌をみんなのココロに届けなくちゃいけない!」
「歌に祈りを込めて、世界を……救いたい! ご先祖様と、プリエイヤ アル アキュストリミアの名に誓って!!」
キリノがその決意と誓いを掲げる
誓いを掲げた【プリエイヤ アル アキュストリミア】その名を聞いたカケルに再びフラッシュバックが起こり眩暈を起こす。
と、同時に頭の中に声が聞こえる。
「我が魂が転生し身体よ。私は大友詠龍。プリヤの魂とその化身たるその者を護るのだ…世界を救う為に!」
その声を聴き、暫く考えてから呟くカケル
「詠龍の魂…プリヤの化身……」
「そうか! 分かった!」
そして、キリノに向かい
「それじゃ、オレも自分の宿命に従い、その名に於て君の祈りを、一緒に世界に届けよう!
「えっ?! カケル……ウタの名 って……?」
カケルの言葉に驚き、その顔を見るキリノ
「あぁ、声が聞こえた!」
そう言うと大きく頷き、キリノの両肩に手をあて直すカケル
「……ウタの魂」
涙ぐみながらも微笑みながら頷くキリノ
少し間を置いてから、深刻な表情になったカケルが話す
「あの人…リョウジさんだったヤツ…ルキ・ファエルと名乗ったアイツにはまた会うよ。そんな気がする……また訪れる危機の時に…」
応えるキリノ
「そう…だね。ディヴァディ召喚を悪用する厄介な者たちがいる事も分かった。」
「世界を救う歌を歌う為に、頑張らないとだね!」
カケル
「あぁ! 人々を救える歌を歌えるように!」
キリノ
「うん!」
── 運命と云うものがあるのなら、なんと酷な道をこの若者達に歩ませるのか……
翻弄されながらも、運命を恨まずに真摯に自分たちの進むべき道をしっかりと見据えて、その祈りを届けようとする若き唱喚師たちの物語がここから始まる。 ──
その数奇な運命、世界の命運を掛けた活動のお話は、この後のエピソードで綴っていくことにしよう……。
☆☆☆☆☆
唱喚師シリーズ:
次元壁崩壊後のとんでも世界で、歌で異形召喚し世界を救う!
『
終話
☆☆☆☆☆
……この物語を、志半ばで彼の岸へ旅立った我が親友『KazZ』氏へ捧げる……
次元壁崩壊後のとんでも世界で、歌で異形を召喚し世界を救う! 『救世唱喚師(サモンアイドル)』エピソード0[覚醒編] 不和 龍志 @fuwa-lyushi
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