第1話【翔行(カケル)の覚醒】

☆☆☆☆☆ シーン1 『その日の朝』


さて、召喚士、唱喚師共に相応な精神力を要すると共に、精神の練度が重要となる為に専門の育成機関が組織された。

その中心となっているのが、唱喚始祖五星との関わりも深い『祈詠五星学院(通称ファイブスター)』だ。

例の『唱喚デュアルスターズ』もこのファイブスターの高等部に席を置いている。


そして、この物語の主人公達も……



── 2310年8月5日朝、登校中の生徒達 ──


制服の襟には五線の上に乗った五芒星が輝いていた。輝く星の中心には“中”の文字がある。祈詠五星学院中等部の生徒だ。


登校する生徒達の中に、少しはしゃぎながら歩く『山背 翔行ヤマシロ カケル』の姿があった。

なにか鼻歌を口ずさみながらスキップ気味に歩くその背中に声を掛ける少女がいる。


「おはよぉ! カケル。」

「ユイちゃんのライブに行くからって、はしゃぎすぎじゃないの?」

声を掛けたのは、カケルの幼馴染み『大友 祈李乃オオトモ キリノ』の声だ。


話しに出ている『ユイちゃん』とは、キリノとカケルの同級生で、史上最年少で唱喚能力を覚醒した少女『村主 唯一歌スグリ ユイカ』のことだ。

この日は、覚醒したユイカのファーストライブの日なのだ。


「うぉ?! わぁ、なんだ、リノか。驚かすなよぉ! って、アレ? ユイちゃんは……朝からライブの準備?」

驚き声のカケル。


そのカケルの問いに応えるキリノ。

「ミニとは言っても、浄化ライブだからね! 結界とか唱喚の調整とか段取りが結構大変なんだって。もちろんリハもあるしね。」

「それに、大切な大切なファーストライブだから! 念には念を入れて準備するんだってよ!」

「結界の準備にはカケルのパパたちもお手伝いに行ってるんじゃないの?」


カケル

「そりゃあ、召喚士は早くに現場入りして結界の準備をするけど、ユイちゃん本人まで朝からって……気合い入ってるんだなぁ?!」

「そういえば、オレは中等部からだけど、リノは初等部から一緒なんだっけ?」


キリノ

「うん、そうだよ。お互いママが救世唱喚師サモンアイドルで、だから自分達も絶対にサモンアイドルになるって決めてて、それで仲良くなったんだ!」

「でも、その親友が中等部2年生で覚醒するなんて思ってもいなかったよ。ちょっと先越されちゃったって悔しさもあったけど、今は誇りに思うんだ! ボクも必ず覚醒してすぐに追いついて、二人でライブをするの! それが夢。ボク達の約束!」


カケル

「そうなったら、オレは召喚士として全力サポートするぜ!」


キリノ

「ん? カケルは唱喚師にならないの? 歌には興味あるんでしょ?」


カケル

「歌は大好きだよ! でもウチは両親とも召喚士なんで、オレが唱喚能力を覚醒できるか分かんないし……。」


キリノ

「カケルはそういう現実主義的なところあるよね! でも夢をみるくらいは良いんじゃないの?」

「あの召喚士の始祖って云われてる詠龍ウタさんも、最後には歌で最上級ディヴァディを唱喚したって話しだし……」


カケル

「その話しは公式じゃないし、歌ったのかも曖昧って話しだろ? いくらリノの先祖っていっても言い伝えを信じ過ぎじゃないか?」

「それに、オレはユイちゃんの歌が聴ければそれで良いの!」


キリノ

「あらそお? …ホント、ユイちゃんの大ファンだもんねーカケルは。フフフ」


背中を見せて前に歩き出すキリノに向かって小声で呟くカケル……

「リノの歌も……リノも… 大好きだよ…。」


キリノ振り向き

「えっ? 何かしら?」


カケル

「何も言ってねぇよ!」


キリノ

「そう?」


カケル

「あぁ。 それより急ごうぜ、遅刻遅刻!」


駆け出すカケル。何だか照れ隠しをしているようなその背中を追い掛けるキリノ。

「あーっ! カケル、待ってよぉー!」



☆☆☆☆☆ シーン2 『授業中』


唱喚についての授業中。教師が唱喚の歴史を説明している。


若い唱喚歴史学教師

「……と、このように次元壁の崩壊により、希薄になった次元境界を越えて出現するようになったDevilish Variant from Another-dimension、正式略称ディヴァディ、通称ディヴァに対抗する手だてとして、同じくディヴァディを異次元より喚びだして使役する能力を得た。

デバイスでディヴァディを呼びだし使役して戦う術者を召喚士と呼び……」


教師の説明中にユイカのフォトグラムを眺めるカケルにヒソヒソと声を掛けるキリノ

「授業中だよ…。楽しみなのは判るけど、ホントはしゃぎ過ぎだってば!」


カケル

「だってよ、デビューから一年待ったんだぜ! もう待ちきれないっての!」


キリノ

「ホント、子どもなんだから!」


少し声が大きめになったキリノに、教師からの指名。

「…の唱喚師の名を何というか。大友君!」


キリノ

「えっ? 唱喚師の始祖のことですか? 先生?」


教師

「そうだ!」


キリノ

「?!ホントに聞きます? ボクに?」


教師

「何だ。答えられないのかね?」


キリノ

「いえ。……なら、答えちゃいますね!」


「唱喚師の始祖は『プリエイヤ アル アキュストリミア』で、召喚士の始祖が『大友 詠龍オオトモ ウタ』。ボクのご先祖様ですよ!」

「更に、この二人と供に異世界からやってきた4人の戦士とプリエイヤは特に唱喚始祖五星と呼ばれていて、この学院の基礎を構築して、対ディヴァディの為の組織作りに貢献しました……また、大友詠龍は召喚デバイスの基礎アーキテクチャを開発し伝えたとされています。……まだ説明します? なんなら、中等部の教科書には載ってないことも言えますけどぉ……」


教師

「わっ、分かった! もう良い。」

「授業は、しっ しっかり聴いているように!」


教師の言葉に被せるように終業の合図が鳴り響いた。

苦い顔をした教師が小さく舌打ちをしつつ呻くように、

「…時間か……、今日はここまで!」



☆☆☆☆☆ シーン3 『昼休み』


中等部校舎前公園。デバイスでユイカの音源を聴きながらパンを頬ばるキリノとカケル。


カケル

「やっぱり、ユイちゃんの歌は音源で聴いてても癒されるよぅ!」

「でも、早く生歌聴きたい!」


呆れたようにキリノ

「今日聴けるじゃないの! ホントにカケルったら……?」


キリノの言葉を遮るように背後から怒鳴り声が聞こえる

「おいおい! 昼間っから堂々と学院の庭でいちゃいちゃぁ しやがってぇ!」

「ゥオレの気も知らネェェェデェ」


驚いて振り向く二人。

そこには、さっきの授業の若い唱喚歴史学教師が立っている。

顔色は悪く様子がおかしい。


カケル

「これは?」


キリノ

「ディヴァディ憑き!」


そのモノがキリノに向かって襲いかかろうとしたとき、

咄嗟にカケルがデバイスの音量を上げユイカの歌を聞かせる。

耳を塞ごうとしながら悶え始める教師。



♪聖なる光よ 闇を切り裂き邪を祓う破魔の矢となれ♪


♪聖なる炎 聖なる翼 時を越え そらを越え この祈りの元に……♪



「唱喚?」

カケルとキリノが同時に言う。


男女の声

「ヒトに憑きし邪なる異形のモノ、その者から離れ闇に帰れ!」


声の方に目線を移すと、空中に玄武と朱雀の姿、その下には男女の学生。

デュエットで歌いつづけ、教師を指差す。


辺りが光に包まれ、教師から影のような物が立ち上り渦巻きながら消滅した。

その場に倒れ込む教師。光が消え、玄武と朱雀も消える。


教師を抱え上げ、肩に乗せる男子学生。


その男子学生を見てカケルが口を開く

「学生唱喚師、津守 慎司ツモリ シンジ?」


背中を見せ、肩に乗せた教師を運んでいく男子学生

「大丈夫、ディヴァディだけを引き離して滅殺した。小物なうえ、憑かれて直ぐで、暴走してなかったしね……先生は無事だよ。」


「念のために専門の病室に連れて行きます。また会いましょう…大友…祈李乃ちゃん。」

二人に、妖しい微笑みを残し一礼をして男子学生の後を追う女子学生。


「あれ? 学生唱喚師、大津 穂奈水オオツ ホナミさん?」

そのキリノの言葉に付け足すように話すカケル

「サモンアイドルユニット『唱喚デュアルスターズ』……。」


「また 助けられた……?」

「ボクの事を覚えて た……?」

キリノがホッとしながらも疑問を呟く。


気を取り直し、カケルを気遣うように声を掛けるキリノ

「それにしても、カケルありがとね。助けてくれたでしょ?!」

キリノの言葉に照れながら返すカケル

「咄嗟にやっただけだよ、自分も危なかったし……」


微笑みながら答えるキリノ

「ウフフ、そぉ?」


カケル

「そうだよ!」「それより、そろそろ教室に戻ろうぜ。」


キリノ

「うん!」



☆☆☆☆☆ シーン4 『放課後』


時刻は進み、一日の終業の合図がなる校舎。


いよいよテンションが上がったカケルが叫ぶ

「よぉし! おわったぁ!! オレ、ライブ会場に向かうからな!」


ヤレヤレという表情で答えるキリノ

「ハイハイ。ボクはパパ達のとこに寄ってから行くね。」


カケル

「おう! ママさんの浄化ライブ準備だっけな?! 待ってるからな、なる早で来いよ!」


ユイカのファーストライブを共に楽しむ予定の二人だが、それぞれ別行動で会場に向かうことになる。



☆☆☆☆☆ シーン5 『ユイカのライブ会場へ向かう途中~キリノの場合』


4ヶ月後に開催を予定している、キリノの母の浄化ライブ会場であるドーム型スポーツスタジアムにやってきたキリノ

「こんにちはー、おじちゃん。調子どう?」


「おいおい、おじちゃん呼びはやめれくれよ。僕はまだそんな歳じゃないぞー!」

「そもそもキリちゃんとは17しか離れてないからね! 小さかった時みたいに、また『おにいちゃん』って呼んでくれても良いんだよ?」

キリノにおじちゃん呼びをされた眼鏡の男、キリノの叔父『安倍 亮二アベ リョウジ』が冗談とも本気ともとれることを言うと……


ちょっと意地悪そうな笑みを浮かべてキリノが答える

「ハイハイ。じゃ、間を取ってリョウさんって呼ぶね!」


「アイダ取ってないよねぇ!」

かぶり吟味に突込み台詞を言うリョウジ


「その会話、お約束になってないか?」

呆れ顔で口を開いたのは、キリノの父『大友 龍一オオトモ リュウイチ』だ。


「冗談はそのくらいで、ミーティングを進めましょう。リョウジ君。」

「キリノも、リョウジ君を困らせては駄目よ。」

優しく微笑みながら諭すように二人に話しかけた女性は、キリノの母『大友 美沙祈オオトモ ミサキ』だ。まるで輝きを放つオーラをまとったかのように美しい女性だ。


「はーい。じゃあ、ボクはドリンク持ってくるね!」

キリノが言うと、リョウジも続けて話す

「僕は機材を確認してくるよ……。」

二人揃ってステージを後にする。


その背中を見ながらミサキが微笑む

「本当に兄妹みたいね。あの二人。」


「リョウには世話掛けっぱなしだよ。アイツがディレクターでいてくれるから、私達も安心して活動が出来るってもんだからね。」

心から感謝してるというように呟くリュウイチ。


「さぁ、二人が戻ったらここはさっさと終わらせましょう。先に体育館へ行ってるトモカのお手伝いに行かなきゃ。」

ミサキが言うと、うなずきながら話すリュウイチ

「そうだね。ハルカさんの娘さん…ユイカちゃんのファーストライブだからな。キリノも楽しみにしてるしな。」



☆☆☆☆☆ シーン6 『ユイカのライブ会場へ向かう途中~カケルの場合』


その頃、ユイカのライブ会場である体育館へ向かう途中のカケル。


体育館に隣接する公園内に入ったところで、なにやら話し声が聞こえてきた。

その声は、管理棟の建物の裏手辺りから聞こえる。

ユイカの名前を言っている気がして、気になったカケルがそっと調べてみる。


建物の影でデバイスに話すオトコ。

少し興奮気味になっているのか、こちらには気付かずに話し続ける。


「確保するだけなんぞで我慢できるかよ! ユイカほどの娘はなかなかお目にかかれない。今日まで我慢してきたんだ! 15歳になったばかりで喰らいたいね! あれほどの強いエデルだ。独り占めはさせんからな! アメイモン!!」

スーツ姿のマネージャー風のそのオトコは、乱暴に言い放ちデバイスの通信を切る。

その背中には、禍々しい影が浮かび上がっている、ディヴァに憑かれているようだ。


人とは思えない声で呟くオトコ

「ライブ結界展開前にヤッチマォウカァァァ!」


その姿に恐怖を感じつつも、オトコが話してた内容に怒りを覚えるカケル

「ユイカを……喰らうって言ったか? それにアメイモンだって? あのゴエティアの……。それと話してるこいつは何モノ?」

「どっちにしても、ライブまでコイツを引き留めておかないと!」


意を決して、オトコの前に飛び出すカケル。

「今のハナシ聞いたぜ! ユイちゃんに指一本触れさせやしないからな!」


意表をつかれ、驚くオトコ

「ナ?! キサマァァァ。」


背中の影がオトコの全身を包み、次第に実体化する。父のディヴァディ資料で見覚えのあるその姿に戦慄を覚える。


「え?! ア、アスモダイだって?」

「ヤバっ!」

そう呟くと後退りするカケル

(そうだ、シグナル送信して父さんを呼べば……。)

後退りながらデバイスを操作し、緊急シグナルを父へと送るカケル。



☆☆☆☆☆ シーン7 『カケルの両親』


緊急シグナルが鳴り、デバイスから情報が投影される。

カケルの父『山背 将琉ヤマシロ マサル』は、急ぎその情報を確認し、傍らにいる妻『知華トモカ』に伝える。

「緑の公園内でカケルがディヴァディに襲われてるらしい。」


応えるトモカ

「すぐ側……。ほっとけないわね!」

「一緒に行きます!」


「タカ、息子が危ない! ここは任せていいか?」

ステージ中央でユイカと準備を進めていた男性に声を掛けるマサル。


声を掛けられた男性は『村主 孝聡スグリ タカサト』、ユイカの父だ。

「何? 息子さんが?」

「分かった。ここは任せろ!」


「すまん!」

そう応えたマサルに向かって、ユイカの隣で振り付けの確認をしていたユイカの母『村主 陽歌スグリ ハルカ』が厳しい表情で口を開く

「ディヴァディ出現なら、私も行こうかしら?」


応えるマサル

「いや、リュウにもシグナル転送したから大丈夫。」

「ハルカさんは、ユイカちゃんといてくれ。万が一ってこともあるから!」

そう言いながら、振り返りざまにトモカに目線を移し、行くぞと言うかのように頷く。トモカも応えて頷き、駆け出す二人。



☆☆☆☆☆ シーン8 『カケルの危機』


「マァァァテェ! グググェゲェゲェ!」

叫びながらカケルに向けて攻撃を繰り出すアスモダイ。

間一髪で避けながら逃げるカケル。


(やべぇ! あんな大物ディヴァディ。捕まったら絶対やべぇ!

でも、放っておいたらユイちゃんが喰らわれちゃう。

ここは、父さんが来るまで逃げ切ってやる!)


アスモダイの攻撃を紙一重でかわし、つかず離れずで逃げるカケル……。


……だが、アスモダイが一枚上手だった。


逃げ回るカケルの足元に攻撃を集中し、地面をえぐった! 不安定になった地面に足を取られ足首を捻挫するカケル。たまらず転倒し呻く

「ぐぁっ! っつ。しまった!」


迫ってくるアスモダイ……。


「くそっ…そうだ! 歌を!」

絶望感の中で、昼休みの出来事を思い出しデバイスの音源アプリを起動させるカケル。最大音量でユイカの歌を再生する。


「グググォ?!」

怯むアスモダイ。


だが、このクラスのディヴァディに音源の歌では効果が薄いようだ。

怯みはするが決定的ではない。


「サキニ、キサマヲクラッテヤロウ! グフフグェ!」

そう言うと、両手の間に禍々しい影の球をつくり出すアスモダイ。


捻挫した足が思うように動かない!

絶望感がカケルを襲う。



☆☆☆☆☆ シーン9 『カケルの危機を感じて……』


(こ…怖い……。でも、オレが頑張らないと、ユイちゃんが……。)

脳に直接聞こえてきた声に反応するキリノ

「カケルの声?! ディヴァディに襲われているの?…」


カケルがアスモダイに襲われている時を同じくして、リュウイチのデバイスがディヴァディ警報シグナルを表示する。

情報に目を通し、少し慌て気味に口を開くリュウイチ

「カケル君がディヴァディに遭遇し危険らしい!」

「かなり強力なアイデル値だそうだ!」


「どこで?」

質問をするミサキ


応えながら外へと歩を進めるリュウイチ

「グリーン体育館横の緑の公園!」


そのリュウイチを追うように動き出すミサキ

「…急ぎましょう!」


両親の会話を聞きながら、心で叫ぶキリノ

(…おばあちゃん…カケルを守って……)

そして両親を追って駆け出しながら

「ボクも行く!」



☆☆☆☆☆ シーン10 『カケルの元に……』


(…大丈夫だよ!)

聞き覚えの有る声が脳に直接伝わってきて、応えるように呟くカケル

「…! リノ…の声?」


そこへデバイスの情報表示をたどり、駆けつけるカケルの両親。

二人声を揃えて叫ぶ

「カケル!」


今にも襲われそうになっている我が子を確認すると、二人揃ってアスモダイからカケルを塞ぎ隠すように駆け寄り、振り向きざまに唱喚デバイスを転送装備し空中に術式を切る。


マサルが召喚刀を構え叫ぶ

「オオトシノカミ召喚。契約の元に命ずる。破邪滅殺!」


続くトモカも召喚杖を振り

「カグヨヒメ召喚。契約の元に命ずる。破魔防壁展開!」


間一髪でアスモダイの攻撃を相殺した。

攻撃を弾かれ、いよいよ怒りが頂点に達したのか、激しい咆哮をあげたアスモダイ。

頭上高く上げた両腕に稲妻のような閃光が走り、アスモダイの全身を【黒い光】が包み込む。更に周りへと【黒い光】が拡散していく。

【黒い光】に包まれた場所は異様な雰囲気に変化して行く。【異界化】だ!

しかも、アスモダイの身体が空間と一体化して行くようでもある。


「暴走だと……最悪!」

マサルが口を開き、更にカケルに話しかける

「唱喚師が居ない今、あのアスモダイの力に対抗するには憑依合体しかない!」


驚きながら応えるカケル

「え?! 憑依合体?!」

「でも…それじゃ…」


憑依合体とは、術者の肉体を提供しディヴァディに憑依させることで一体となり、その能力の100%以上を引き出す術式だ。しかし、一体化したディヴァディに取り込まれてしまう為、施術後にはヒトとしての存在が消滅してしまう可能性が高い禁断の技だ。


「カケルは、カケルだけは助けられる!」

諭すように話すトモカ


「時間が無い!」

促すマサル


「ダメだよ! 止め…て 父さん! 母さん!」

叫ぶカケルに微笑みを向けて呟く両親

「生きて!」

「生きろ!」


「憑依合体! 我が身を依り代としここへ具現化せよ!」

口を揃え叫ぶマサルとトモカ

マサル「オオトシノカミ」

トモカ「カグヨヒメ」


憑依召喚しディヴァディと合体していく両親。

金色に輝くオオトシノカミとカグヨヒメ。


二柱のディヴァディが神々しい光弾をアスモダイ目掛けて放つ!


「グォッ!!」

光弾を受けたじろぐアスモダイ。


「効いている!」「もう一度!」

再度光弾を放とうとするオオトシノカミとカグヨヒメ。


禍々しい闇がアスモダイを取り巻き渦と成す。


再度放たれた光弾が闇の渦に跳ね返され、倒れるオトシノカミとカグヨヒメ。

その衝撃に巻き込まれ倒れ込むカケル。


「ニンゲン ト 合体シタトコロデ 所詮ハツケヤキバヨ!」

「異界ノ中デハ コチラノチカラガ 絶対ナノダ!!」

そう叫ぶと闇の渦を鋭い刃物のように収束させ、攻撃に転じようとするアスモダイ。


カケルを守るように立ち塞がるオオトシノカミとカグヨヒメ…カケルの両親。


その、命を賭して自分を守ろうとしている両親を目の当たりにし、

カケルは強く思う。自分に力が有ったらと。


力が欲しいと……

その刹那、薄れそうな意識の中、

目に映るものが全てストップモーションのように動かなくなったように感じた。


(力を欲するか?)

脳に直接響く声、高貴で神々しい響き。

更に、やはり神々しい旋律も聞こえてくる。

(応えよ。力を欲するか?)

「チカラ?」

(そう、チカラだ! 立ち塞がる敵を撃ち滅ぼす絶大なチカラを欲するか?)

「敵を撃つチカラ? ……欲しい! チカラを。オレに力があれば!」

(ならば、歌うのだ。我がチカラを放つ歌を!)



☆☆☆☆☆ シーン11 『ラファエル唱喚』


♪聖なる光 力に変え 解き放つ奇跡♪


神々しい旋律とともに歌うカケル。その左肩には五芳星の光が浮かび上がっている。まばゆい光に全身が包まれたカケルの頭上には光が収束して天使のような姿を形作っていく。

光の収束が収まるとともに、その姿を表したのはセラフィム級のディヴァディ【ラファエル】だ!


ラファエル唱喚とともに止まっていた時間が動き出したようだ。

オオトシノカミとカグヨヒメが展開した防壁がアスモダイの動きを封じている。

動きが止まったアスモダイめがけ、ラファエルが光を放つ。


歌い続けるカケル。

その目には涙が…。


ラファエルの放った光が矢のようにアスモダイの身体を貫く。

滅せられるアスモダイ。

アスモダイの消滅とともに、異界化が解けていく……。



☆☆☆☆☆ シーン12 『カケルの決意』


ラファエルは姿を消し、かつて両親だった二つの光に歩み寄るカケル。


「カケル君!」

駆け付けたリュウイチが叫び、追いかけるように付いてきたキリノも叫びながらカケルに寄り添ってくる

「カケル! 無事なの? って?! オオトシノカミ? カグヨヒメ?」

光輝きながら帰還していくディヴァディを認めると、全てを察したように目を伏せるキリノ。

一筋、涙がその頬をつたう。

「おじさん…、おばさん……。」


カグヨヒメに歩み寄り、囁くミサキ

「トモカ……。こんな事って……。カケル君は…ワタシ達が必ず……。」

そっとカグヨヒメに手を当てる。


消えゆくカグヨヒメからトモカの声

「ミサキ……。あの時の啓示はこの事だった…のね…… あの人の…魂と…思いを……カケルを…お願い…」


消えてゆく二つの光を抱きしめるように両手をまわして叫ぶカケル

「父さん! 母さん!」


今にも消えそうに光の粒となっているオオトシノカミからマサルの声

「カケル…大切なモノを守るために…戦うんだ……。 私達の掛けがいのないコドモ…そして…あの人の…ウタ…の…魂よ…」


光となったそのモノは、カケルを優しく包み込みながらそっと空間に吸い込まれるように消えていく。

その場に膝を付き泣き崩れるカケル

「オレが強ければ、もっと早く覚醒すれば……こんな事にならずに済んだのに!」


その震える肩に手を当てた後、背中を抱きしめる温かい腕。その温かさに心が少しづつ落ち着いていくのを感じるカケル。


震えるカケルの背中を、優しく抱きしめながら囁くキリノ

「ユイを守ってくれたんだよね。カケルは強かったよ、本当に良く頑張ってくれて……ありがとう……。」


ウンと頷き息を一飲みした後に、決心したかのような厳しい眼差しで、真っ直ぐにキリノを見つめて話すカケル

「こんな思いをするヒトを無くさなきゃ! 一人でも多くのヒトを救いたい! オレ…唱喚師しょうかんじになりたい。リノ達と一緒に、救世唱喚師サモンアイドルに!」


たまっていた涙を拭い、分かったというように頷きながら声に出すキリノ

「ウン!」


── こうして、数奇な運命を背負った少年は、波乱の中で唱喚能力を覚醒したのだった。 ──

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る