次元壁崩壊後のとんでも世界で、歌で異形を召喚し世界を救う! 『救世唱喚師(サモンアイドル)』エピソード0[覚醒編]
不和 龍志
第0話 プロローグ
☆☆☆☆☆ アヴァンタイトル
──
2099年……
100億を超えた世界人口。
不足する食糧。
枯渇する資源とエネルギー。
紛争が堪えること無く、
大国同士の緊張状態が続き、
世界大戦への一触即発の危機にあった。
そんな中、問題解決の期待をもって新エネルギー発生システム【エクスディメンショナル エナジー バイ スピリチュアルウェイヴ システム(Ex-Dimensional Energy by Spiritual-wave System)】(略記:
全世界が見守る中で試運転を開始した【
システム拠点を中心として、ディメンションホールと呼ばれる次元の穴が発生した。
ディメンションホールを通じ、悪魔の様な異形【Devilish Variant from Another-dimension(デヴィリッシュ ヴァリアント フロム アナザーディメンション)[正式略称:
更に大規模な量子振動地震により次元境界・次元壁が崩壊。
次元の壁を越えて低次のディヴァディまでもが出現したのだった!
神や悪魔の如き人智を超えた能力を持つディヴァディの突然の侵略により、人類の文明と社会は蹂躙されたのだった……。
そして、2100年。
ディヴァディの絶大な力に抗う術も無く滅亡の危機に瀕していた人類の前に、ディメンションホールから突如として勇者達が現れ、歌唱の力で人に与するディヴァディを召喚し対抗した。その勇者達の活躍により、かろうじて人類絶滅の危機からは脱する事が出来たのだった。後の世に、その勇者達は畏敬を込めて『唱喚始祖五星』と呼ばれるようになった。
絶滅を回避しディメンションホールは塞いだが、次元壁は稀薄なままであった。
低次のディヴァディが徘徊し、人の精神波動をトリガーとして次元壁を通り抜けて出現する高次なディヴァディの脅威は継続している。
これは次元壁崩壊後のディヴァディが出現する世界で、歌唱の力で邪なディヴァディと闘い世界を救う【
──
☆☆☆☆☆ シーン1 『異次元より来たる悪魔のような異形 ~Devilish Variant from Another-dimension~』
人類は、サブシステムの開発に伴って安定運用ができるようになったEDESSにより無尽蔵なエネルギー供給の恩恵を受けていた。
希薄となった次元壁を通り抜けやすい低次のディヴァディがまるで妖怪や魑魅魍魎あるいは御伽噺に出てくる小物の魔物のように徘徊する世界で、そういった者達が些細な事件を起こしたり、人々の心の闇に端を発する精神波動をトリガーに時折出現する伝説の悪魔のような高次のディヴァディが起こす重篤な事件が頻発していた。
さながら、神話かファンタジーの世界の様相となっているこの時代にあって、ディヴァディ達の人智を超えた能力に抗う為、件の勇者達が伝えた唱喚能力および召喚術によって対抗し闘っている者達がいる。
歌唱の力で、より高次なディヴァディを召喚・使役し闘う者達は【
また、ディヴァディと闘うだけではなく【浄化ライブ】と呼ばれる歌唱ライブ活動により、人びとの精神の安寧による次元境界の安定化や次元壁の修復をも担う者達は特に【
そして、ディヴァディを召喚・使役するためのデバイスも開発され、デバイスで召喚したディヴァディを使役して事件を解決する者達もいる。その者達は
そういった、唱喚師や召喚士の活躍によりディヴァディの危機から世界の平和と安全がかろうじて確保されるようになってきた、混沌とした時代……
2309年6月
暗い表情のオトコが、街の中心にある公園のベンチに座っている。
旧式の、ヘッドギアタイプのデバイスが映し出す、ホロ画像のコンソールを操作し、 バーチャルスクリーンに並ぶSNSの投稿を閲覧している。
投稿コメントを読みながら、不機嫌な表情で呻き声にも似た呟きをもらす。
「ホント、こいつら分かってねぇ!」
スクリーンに並ぶコメントには、若者たちの将来目標や趣味のこと、やりたいことについての投稿が溢れ活発な対話で賑わっている。
その中で、社会制度への不満と不公平感といった内容のこのオトコのコメントには、反論ばかりが寄せられ、所謂炎上の状態だ。
「人間らしく生きるための最低保障とか謳ってやがるが、能力の無いヤツは生かしておく代わりに何もするなってことじゃねぇか!」
このオトコは、不器用なのかまたは要領が悪いのか、社会レベルが一向に上がらずにもがいている。或いは、思考や考察が足りずその上もともとの気質が怠惰なのか、この社会制度に馴染めないでいる。
「何をしても上手くいかないし、何の取り柄もないヤツが最低レベルで生きている惨めさなんか、コイツらには分かんねーんだ!」
そんな、ネガティブな感情に埋め尽くされようとしているそのオトコの目の前に映し出される漆黒の影。それはホロ画像ではなく、オトコの目に直接映し出された画像だ。
その影がオトコに問い掛ける
「コノ シャカイヲ コワシ ジユウニ イキタクハ ナイカ?」
脳に直接響くような声に、言葉にならない声を発するオトコ。
「なっ?」
影が続ける
「コノ シャカイ コノ フコウヘイナ セカイヲ ハカイシ オマエガ シハイシャ ト ナレバヨイ!」
「ソンナ チカラガ ホシクハ ナイカ?」
影の言葉によって衝動が沸き起こり、思わず口にする
「こんなクソ社会を破壊する…ち…か…ら!? 破壊して支配する力だ…と?」
「……欲しい! 破壊し支配する力が!」
心からのその叫びに、影が応える
「ナラバ ワガ ナヲ ヨベ! コノ ベルフェゴール ノ ナヲ!」
影の言葉によって衝動が沸き起こり、オトコは言われるままに、その名を呼ぶ
「ベルフェゴールよ、オレにチカラをくれ!」
ベルフェゴールと名乗った影は応える
「アイ分カッタ! ココニ契約成立セリ。契約ニ従イ 汝ノ体ヲイタダコウ!」
「ウググォ!」
苦しそうに呻くと、デバイスを外しゆっくりと立ち上がり、繁華街へと歩を進めるオトコ……。
暫く歩き、アーチがかかった商店街のような街並みにたどり着く
「ゥオ…オルハ ワルク ナ イン ダ……
ワ ルイ ノハ……クォノォ…シャカイ……ナ ・ ン ・ ダァァァ!」
その表情の異常さと、地の底から響く呻き声にも似たその声の為か、道行く人々がそのオトコを避ける。
「グゲゲゲ グゥガガァァァァ!」
フラフラとよろけた後に立ち止まり、遂には言語と認識できなくなった呻き声をあげるそのオトコ。その身体を二分するように禍々しい影が現れ、みるみるうちにオトコを呑みこみ巨大な姿を現す。
「ディ?! ディヴァ?」
「うわっ! ディヴァだ!」
「ディヴァだって? 逃げろ!」
通行人がそう叫ぶと、道行く者達は慌てて逃げ惑い始める。
件のオトコから禍々しい影が広がり、街と人々を呑み込んでしまった。その能力によって展開された次元結界【異界化】と呼ばれる空間だ。この空間内では、 ディヴァディの能力が数十倍にも拡大する。また、生身の人間では結界から出られなくなってしまうため、囚われた者は為す術なく喰らわれるのを待つだけだ。
☆☆☆☆☆ シーン2 『悪魔を退ける者達』
既に数十名が犠牲となり、途轍もない絶望感が人々を包み始めたその時、結界を越えて一組の男女が現れた。
「
と叫んだ男性が、
刀状の召喚デバイスを転送装備後、
続けざまに
「オオトシノカミ召喚! 契約の元に命ずる。破邪滅殺!」
と叫ぶ。
続いて共にいた女性が、
「
と叫び杖状の召喚デバイスを転送装備して空間に魔方陣を描き叫ぶ
「カグヨヒメ召喚! 契約の元に命ずる。破魔防壁展開!」
「あれは……デバイス召喚術?」
「間違いない! 召喚士だ!」
「そうだ。召喚士が来てくれた! 助かるぞ!」
ほっとしたように口々に叫ぶ人々。
「さぁ。皆さん急いでこちらの防壁内に入ってください!」
召喚士達が人々を促す。しかし、群衆の数はあまりにも多く、少なからず逃げ遅れる者もいる。ベルフェゴールから禍々しい影が伸び、逃げ遅れた人々に襲いかかろうとしたその刹那。
♪聖なる光よ 闇を切り裂き 邪を祓う 破魔の矢となれ♪
神々しい旋律とともに力強い歌が聞こえてきて、光の軌跡が矢のように影を弾き飛ばす。そこには伝説に語られる四神が一柱【玄武】の姿と共に、歌う若者の姿があった。
弾かれた禍々しい影が、ベルフェゴールへと収束していき実体化する。
「グガガガガ!」
次の攻撃の準備でもするかのように身構えるベルフェゴール。
♪聖なる炎 聖なる翼 時を越え
続けざまに美しい女性の歌声と共に四神が一柱【朱雀】が現れた。空間に浮かぶその姿の下に、やはり歌を口にする若き女性がいた。
「そこまでにして貰おうか!」
「怠惰の悪魔“ ベルフェゴール”!」
玄武を従えた男性唱喚師が叫ぶ。
「私達が来たからには、
これ以上の勝手は許さない!」
続けて女性唱喚師も言い放つ。
人々は安堵したように口々に叫ぶ。
「
「
「これで一安心だ!」
☆☆☆☆☆ シーン3 『唱喚デュアルスターズ』
と呼ばれた若者二人が名乗りをあげる
「この歌が異形を討つ!」
「この歌が邪を祓う!」
「我ら唱喚デュアルスターズ!」
デビューしたての
名乗り後、歌を続ける二人。それぞれに呼び出されたディヴァディが輝き、技を放つ。
技を受け苦しむ ベルフェゴール。
たまらず、反転し逃走しはじめる。
「逃がさん!」
「逃がさない!」
二人声を揃えて叫び、後を追う。
「くっ! 異界内だとヤツらの逃げ足も速いな!」
男性唱喚師が呟く。
「ならば!」
応えるように言うと、歌唱のテンションを上げる女性唱喚師。
その歌に応えるかのように朱雀が二人を掴み飛び立つ!
分の悪さを感じたベルフェゴールは、建物の壁を突き破り、その中へと逃げ込む。
その衝撃で幾つかの柱や部屋の内装物が崩れる。
☆☆☆☆☆ シーン4 『覚醒し、歌う少女』
「うわーっ!」
召喚士の破魔防壁まで遠すぎたためにこの建物に逃げ込み、息を潜めていた二人の少女が居る。年の頃は14~15歳位、中等部の制服を着ている。
その一人が崩れた床に足を挟まれ、身動きがとれなくなっている。
二人の少女を見つけるベルフェゴール。
「ググェ…。ナンダ…アノ娘タチハ! トクニ…アッチノホウハ…? 見タコトモナイ…エデル ダ!」
「コイツヲ 喰ラエバ アイツラヲ倒スナド カンタンダナァァァァ!」
言うが早いか、少女へと影の触手を伸ばす。
傷ついた少女の前に立ちはだかり、庇った少女に巻きつく触手。
「ユイーー!」
傷付いた少女が叫ぶ
応える少女
「大丈夫! わたしがリノちゃんを守るの! わたしがやらなきゃ……」
「うっ…くっ……」
触手に締め付けられ、意識が遠のいていくその時、どこからともなく流れてくる神々しい旋律。
少女の右頬には五芒星が浮かび上がっている。
目を開き、旋律に合わせ歌う少女!
♪祈りの為に 唯一つの歌を 奇跡に変えて♪
触手を破り、四神が一柱【白虎】が顕現し、結界を張り少女達を守る。
「ナッ? コイツハ?!」
焦るベルフェゴール。
そこへ……
「そこまでだ!」
追ってきたデュアルスターズが追い付いてきた。
その歌の声量を更に上げ、2人同時に必殺の技を放つ!
眩くも神々しい光に包まれ、消滅していくベルフェゴール。
異界化が解ける。
「この歌で世界を救う!」
声を揃え、勝ちどきをあげる唱喚デュアルスターズ。
── こうして、ベルフェゴール暴走事件と呼ばれる様になるこの事件は、デビューしたての唱喚デュアルスターズと至上最年少で覚醒した少女の力によって解決したのだった。 ──
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