蟻と蝿と縄の罠


ふと目を覚ますと5時だった。


真白「あーやっば」


3時間も過ぎているがこういう時の俺は気にしない。ゆっくりと出かける準備をする。 スマホを見るとやはりたくさんの着信が来ている。 めんど。なんて俺は思わない。キッチリと返してあげる。「うるさい黙れ」と。


優雅にチャリにまたがり、こぎ出して公園に向かう。恐らく児童公園だろう。


章介「お…?おーー!!遅せぇぇぇぇーー!!!」


真白「うるせえな…たったの3時間遅れだろうが」


章介「待ちわびて三回寝たわ!」


真白「公園でかよ、おめでとう、君は立派なキチガイだ」


章介「お前の神経が分からん」


たわいもない会話を延々と垂れ流し、流れで二人共ブランコに乗る。


章介「で?悩みっつーのはなんだよ」


そうだ。俺は相談しに来ていたんだった。言うべきか、言わないべきか。言ったら。もし、言ったら。


きっと、こんな風にコイツとブランコに乗ることさえ出来なくなるのだろう。


章介「……但馬区でよ。爆発事件あったじゃん」


向こうから切り込んできた。腹を括れ、真白光輝。


真白「そうだな…それが何?」

声が震えた。少し上ずった。


章介「あれ…カップルだけを狙ってんのかな。」


真白「…なんでお前がそんな事気にしてんだよ。」


章介「いや、カップルだけ…だとしたら」


真白「だから何だよ?何が言いたいんだ?」


章介「カップルが増えると、爆発事件も増えてくのかな」


章介は見た目はバカっぽいけど、高校にいる頭スッカラカンのやつなんかよりよっぽど周りが見えてる。


爆弾魔が近づいてはいけない。いつか気づく。こいつなら。


章介「はーあ 悩みねぇなら俺帰るわー ったく時間の無駄ムダ…」


自転車にまたがり、ペダルに足をかける。 既に辺りは暗くなり始めていている。

これきりかもしれない。もう会えなくなるかもしれない。俺は真白光輝ではなくなってしまうかもしれない。


真白「章介!」


章介「うぉ!ビクッた!何だよ!?」


声に出てしまった。言え。言え!今しかないぞ真白! 章介になら打ち明けられるだろう?あいつならお前をきっと見捨てないだろう?


真白「俺…さ」


章介「……何さ」


真白「俺…」 脳がいらないブレーキをかける。でもそれはきっと防衛本能。死ぬ直前に痛みや恐怖を感じなくなるのと一緒。


真白「…何でもない。元気でな」


章介「……?ふーん じゃあな」


章介が背中を向け、どんどん小さくなっていく。


言えなかった。いや、言わなかったのだ。

真白光輝ではなく、爆弾魔が。


俺が昨日の爆発を起こしてからからカップルを見る度に感じる悪寒。

胃が縮小して、背筋がピリッとし、意識が遠のき、地面が傾くようなあの感じ。


きっと爆弾魔が言っているのだ。

やれ、と。殺れ、と。


俺は重い足取りで帰路についた。自転車には乗りたくなかった。よろめきながら自転車を引っ張り歩く。


ふわり。ふわり。白い結晶が空から降ってくる。 ホワイトクリスマス。恋人達にとっては最高のシチュエーション。その氷の粒は俺に重くのしかかってくる。 足音と話し声が聞こえる。来てしまった。

カップルにとっては最高。

俺にとっては最悪のシチュエーションが。


女「ねぇ…雪じゃない?」


男「ホントだ…Xmasの夜に雪とか最高だな!」


女「ほんとにね!私たちももうそろそろ1年かぁ」


男「いろいろあったね…」


二人のたのしそうな声。やめろ。今来ちゃいけない。爆弾魔がいるんだよ。ここに爆弾魔がいるんだよ!!

やめてくれ…帰ってくれ!


楽しそうな声が響く。脳を壊してく。


体の中から、真白光輝が抜けていく。


あの感覚が全身を襲う。


タスけテ…コのママじゃ…オレハ…

キエてしまう!


真白「リア充、爆発しろよ。」


俺の中の何かが壊れた。


閃光。轟音。光が周りの雪に反射する。





キレイだ!!





真白「そこらのイルミネーションなんかよりよっぽど美しいなぁ…」


女の悲鳴がいいアクセント!


真白「どうしたんですか!大丈夫ですか!」 急いで女に走り寄る。


女「彼氏が…!あ、…ァァァア!!」


恐怖に引きつった顔!これもまた美しいじゃないか!!


真白「警察を呼んできますね!待っててください!」


なーんてね。呼ばないし、僕は帰る。


さようなら、真白光輝。

こんにちは、マシロコウキ。




凶器の狂気の狂喜



真白と別れた後、俺は何をすればいいのか分からなかった。


章介「アイツは…なんかあったんだろうな」


俺の計画はもう完成が目前に来ている。

だが、完成させるためには被検体No.02がいなければならない。

どこにいる。いることは分かっている。田井中と山本が言っていたのだ。


章介「待ってろよ田井中…俺らにこの力を与えたこと後悔させてやっから。」


きっと爆弾魔の犯人はNo.02。02がカップルだけを狙っているのなら、俺の行為は間違っているのだろうか。

間違いなく人を幸せにする俺の力。

幸せをことごとく破壊する02の力。


手に冷たい感触。手の温度に負けて溶けてから雪だと理解した。


ホワイトクリスマス、か。


彼女がいれば違うんだろーなー…


突然、轟音が響いた。 爆発!!


さっき公園に歩いていったカップル。

まさか…!No.02!?


カップルは無事なのか。02はいるのか。 真白は無事なのか。


体はたまらず走り出していた。



案の定、彼氏の姿はなく、彼女が苦痛の表情で泣きじゃくっている。


章介「爆発ですか!? 怪我は!」


女「私はないけど…!!」


章介「警察は呼びましたか!?」


女「さっき男の人…多分高校生ぐらいの人が呼びに行くって…でもなかなか到着しなくて…!!」


そいつだ。そいつがきっと02。


章介「どっちに行ったかわかりますか。」


女「そこを曲がったところ…」


女が指さしたのは真白の家路。そして逃げ去ったのは、高校生。


嫌な予感は、当たるものだ。


02は…まさか。

アイツが俺に打ち明けようとしていた事は。


章介「真白…てめぇ…」


俺の予想が当たればアイツはきっと明日から姿を消すだろう。


章介「すみません…俺、もう行かないと」


あいつを止めることが出来るかどうかは分からないけど、止めることができる可能性があるのはきっと俺だ。

02を止めることが出来るのは、俺だけだ。

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こい 長田茜 @Kou0527ta

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