2 St. Elza Karate Team Who's Who〈聖エルザ空手部人名録〉

 こちらでは空手部のメンバーを中心にしたキャラ紹介を。


 彼らのネーミングは、1978年のヤクルト・スワローズ初優勝時のメンバーにちなむ。

 どこかの球団が金と権威にものを言わせてかき集めた軍団で「優勝して当然」という顔をしていた当時にあって、わがスワローズは万年Bクラスの弱小球団。毎試合ハラハラドキドキの綱渡りだったが、なんとついに歓喜の優勝を達成してしまった。10年越しのファンだった私にも奇跡としか思えない出来事。

 見かけはデコボコで頼りなさそうでも、クセのある個性的な集団がふてぶてしい強敵を倒す快感は、聖エルザの物語の精神的な根幹だったのである。


  ※ 名前の後の学年は、初登場時の聖エルザ学園におけるもの。


・キャティ(キャサリン)・フナダ 〈高等部1年〉

 父親が日本人、母親がイギリス人のハーフで両親は香港在住という多国籍の生い立ち。

 クルセイダーズの5人だけで巨大な敵と闘うにはあまりにも心もとないということで設定したのが、オトシマエをキャプテンとする空手部。最低一人は女の子がいて欲しかったのと、ミホたちとまた違ったちょっとトンでるタイプを入れたかった。

 ミホとは同じ女子寮エルザ・ハイツに住んで仲がよく、いっしょに練習するほかにも生徒総会開催を求める署名活動をミホに勧めるなど、論理的で筋を通す性格で活躍してくれた。三バカをパンチラで手玉にとるような大胆さも兼ねそなえている。

 気っぷのいいカンフー少女を、BLACK POINT氏が6人目の少女キャラとして見事に造形してくれた。

 名前の由来は〝ライフルマン〟と呼ばれたいぶし銀の魅力の船田和英から。巨人、西鉄(現・西武)を経てヤクルトに来た移籍組だが、堅実な守備と頼りがいのあるバッティングは素晴らしく、なんの違和感もなくチームの一員として認識されていた。


・若松ダイスケ 〈高等部1年〉

 サブキャラという意識があったのか、そういえば空手部のほとんどは名前をカタカナ書きにしてある。オトシマエの町道場の後輩に当たる熱血・純情空手少年。その町道場は今回チラッと話に出てくる。〝乙島のアネゴ〟のいる聖エルザにあこがれて入学。入試では持ち前のガンバリをかなり発揮したことだろう。

「部員が10人いない部活は廃止」と敵の手先の森崎教頭に言わせてしまったために、オトシマエとミホ以外になんとか8人のキャラをでっち上げなければならなかった。キャプテンのオトシマエに無条件で従い、先頭を切って闘う忠実なパイプ役が欲しかったのである。

 BLACK POINT氏の絵は『ドラゴンボール』の子供時代の悟空を意識したものではないかと思う。

 名前の由来は、当時のヤクルトを代表する名選手であり、後に監督として優勝も果たした若松勉と、〝甲子園のアイドル〟と呼ばれたイケメン荒木大輔から。荒木は二度目の優勝となる野村ヤクルトでは〝勝利の女神〟のような輝かしい救世主となった。


・大杉タケオ 〈高等部2年〉

 物語の年から敵の陰謀で共学化されたという設定なので、2年と3年は追加の編入組となる。敵が私兵軍団を引き入れるために合格基準を操作したのは明らかで、そのおかげで大杉・松岡・安田の三バカがラッキーにも名門校に受かったわけである。そういう経緯の説明を入れた記憶がなかったので、今回あらためてエピソードに書き加えた。

 退学(たぶん暴力沙汰で)になった高校ではアメフトのフォワードで鍛えたムキムキマッチョ。豪放磊落というか、大ざっぱで強引、見栄っぱりな性格という設定だった。

 モデルは赤鬼のニックネームで鳴らしたマニエルと大砲コンビを組んだ大杉勝男。彼も日本ハムからの移籍組だが、外様でもすんなりなじんでチームの仲間になれるところがヤクルトのいいところだと思う。コーチに「月に向かって打て」と言われてホームランバッターとして開眼したというエピソードを持ち、セ・パ両リーグでそれぞれ1000本安打を記録した強打者。気は優しくて力持ちというイメージにまさにぴったりだった。


・松岡カツミ 〈高等部2年〉

 大杉と同じく退学→聖エルザ編入組。前の高校ではラグビー部のバックスを務めて俊足と運動神経のよさで鳴らした。退学理由はきっと喫煙を見つかったためだろう。口が達者でお調子者。野球に詳しくないBP氏にはヒョロッとした長身でタレ目と注文した。

 モデルは投手陣の大黒柱だった松岡弘(ひろむ)。頼りになるというよりいつも愛想よくニコニコ笑っている印象で、好人物らしい人柄がしのばれた。ヤクルトのエースを長年務め、200勝寸前まで行って泣きながら引退したのも彼らしかった。


・安田ヒロシ 〈高等部2年〉

 前の学校で野球部のエースだったが肩を壊してヒョロヒョロ球しか投げられなくなり飲酒がもとで退学。漫才トリオのような三バカのボケ役がぴったりだった。

 右投げの松岡と並ぶ左のエースだった安田猛がモデル。投手らしからぬずんぐりとした体型から絶妙にコントロールされた山なりのスローボールを投げた。というより、連載当時はむしろ、いしいひさいちの4コマ漫画『がんばれタブチくん!』のとぼけた登場人物として知られていた。九州の名門進学校・小倉高校から早稲田に入っているから、実は優等生だったにちがいない。

 三バカのモデル3人に共通するのは〝心優しい愛嬌者〟というところで、勝ち負けばかりにこだわるチームとは180度正反対だったスワローズの麗しい〝エンターテイメント野球〟のまさに体現者たちだった。けっして名前だけを借りたわけではない。


・広岡シンイチロー・ヤスジロー 〈高等部1年〉

 絶対に見分けのつかない双子で、あどけない小学生にしか見えない。ちょこまかと小回りのきくキャラとして誘拐されたチクリンの捜索に貢献したし、ミホとキャティがやった生徒総会開催のための署名集めに協力してくれたり、最後の決戦ではチクリンが率いた兵器部隊の隊員としても活躍した。

 ヤクルト選手から名前を取るというコンセプトのせいか、空手部のメンバーのバリエーションはどう見ても一騎当千のツワモノぞろいというイメージにはならなかった。でも、そういう面々に最適な役割を振っていくというのが、大変ではあったが楽しみでもあったのである。

 彼らの苗字はもちろん切れ者監督・広岡達朗から。だからきっと双子も頭がいいにちがいない。ちょうど井原慎一朗と鈴木康二朗という双子にぴったりの名前のピッチャーが優勝当時のメンバーにいたことがキャラ設定時の決定打になった。

 とはいえ、けっして語呂合わせで入れたわけではなく、松岡、安田、井原、鈴木はそろって10勝以上して初優勝に大きく貢献した錚々たる面々である。なんと素晴らしい!

「〜だよな、ヤスジロー」「そうだとも、シンイチロー」という掛け合いはごく自然に生まれたのだった。


・伊勢一機 〈高等部3年〉

 孤独に闘う少女・滝沢礼子を支えた巨漢・水谷薫とは幼なじみの悪友。

 夢枕獏作品に出てくる武闘家タイプの巨漢ヒーローをオトシマエと対決させたいと思い、BP氏も賛同して燃えたことでまず水谷というキャラが生まれた。

 構想を進めるうちに翳のある謎めいた男という水谷のイメージが膨らみ、以降の展開を面白くしてくれそうに思えた。しかし、こいつが敵側ではあまりにもクルセイダーズ側が弱体に見えた。そこで急転直下、滝沢とペアを組ませるという素晴らしいアイディアがひらめいたのである。

 そうすると水谷が敵を裏切って滝沢に加担する動機を説明する必要に迫られた。なら水谷の秘められた過去を知る者を出せばいい。おお、ちょうどあと一人で空手部が10人になる! 水谷の悪友ならそいつも相当の使い手だろう。寄せ集めの空手部に強力な助っ人を入れられるし! そうだ、空手などの格闘技にこだわることはない。居合抜きの達人で行こう! 

 ……とそんな感じでうまく最後のピースがはまったのだった。

 伊勢の苗字は、〝伊勢大明神〟と呼ばれた代打の切り札・伊勢孝夫にちなんでいる。ここぞというところで必ず打ってくれた気がする。

 名前の一機は、たぶんつけっぱなしのテレビで『いただきます!』という昼の帯番組で毎日見ていた司会の小堺一機から取ったのだと思う。剣豪っぽいキャラにふさわしそうな名前のヤクルト選手が見当たらなかったのか、それとも彼が最後のキャラで設定作業にいいかげん疲れていたのかもしれないな。


・水谷薫 〈高等部3年〉

 滝沢の相棒の水谷の名前もヤクルト選手にちなんでいる。

 モデルは水谷新太郎。遊撃の守備は定評があってレギュラーだったが打撃はたいしたことなく、見かけもスマートでおよそマッチョタイプとはかけ離れている。でも、水谷という音と字面には捨てがたい魅力を感じた。だから逆に、名前をわざと優しげなイメージの薫にしたという記憶がある。

 30年前の激動の事件では、水谷の存在を抜きにしてはストーリーが運ばなかった。今回の物語でも、最初から彼をどう配置しヒロインとかかわらせるかが構想のカギだったと思う。ありがたいキャラである。


・柴田 〈高等部3年〉

 つけ加えると、敵のラスボス『若』の手足となって暗躍する不気味な男・柴田の名前も野球選手にちなんでいる。王・長島と同時期に巨人の一番バッターだった柴田勲から取った。巨人のスター選手を鼻にかけた気取ったやつというイメージだった。敵の、しかも下僕のようなキャラなら柴田でいい、とすぐに決まった気がする。

 登場後に『若』と双極拳の陰と陽の座を分かち合う手強い相手と追加設定したが、『若』の居丈高なワンマンぶりを引き立てる役に徹してもらった。



※ こうして振り返ると、私らしいこだわりというか、サイドのキャラにもそれなりに愛情をもち、イメージのすり合わせもしていたなと確認できます。とくに三バカのキャラについてはモデルの3人がそのままぴったり役にハマりそうな感じさえします。彼らの活躍も楽しみながら読んでいただければ幸いです。

 他のキャラクターや『聖エルザクルセイダーズ』作品のことについてさらに詳しくお知りになりたい方は、ネットで「聖エルザ」あるいは「聖エルザクルセイダーズ」を検索してみてください。


※ 追記

 「Anniversary」で初登場するキャラをド忘れしていました!


 ストーリーに関わってくるので役柄は明かせないが、現在でも鮮明な記憶があるはずのヤクルト・スワローズ関係者2人から取った名前が聖エルザ・ファミリーに加わることになった。

 一人めは90年代、ヤクルトをセ・リーグ最多優勝に導いた名将・野村克也。第二次世界大戦後初の三冠王となった名選手であるが、今もマスコミでもてはやされているのは、まちがいなくID野球を導入して金満野球をさわやかに打ち砕いたヤクルト時代の赫々たる戦功があるからである。

 もう一人が、その野村ヤクルトの中心選手として大活躍し、〝ID野球の申し子〟と呼ばれた古田敦也。「のび太」とあだ名された野球選手らしくない風貌は、明らかにヤクルトのエンタメ野球のDNAを受け継いでいる。

 見た目からはメガネ以外あんまり共通点のない二人だが、守備のカナメのキャッチャーを務めながら攻撃の中心としても首位打者に輝いた希少な(あとは今年の西武・森友哉くらいしかいないはず)経歴の名選手という大きな共通点がある。

〝名前〟的にもどこかに共通点がある気がする。そこが今回の新キャラの名称に起用された理由らしい。

 ちなみに私は、1995年と1997年の優勝を記録した貴重なビデオテープを持っている。ヤクルトが勝利したほぼ全試合の「プロ野球ニュース」の画像を集めた自家製テープである。通して見たりするとテンションは上がりまくり、大笑いし、絶叫し、最後は涙がとめどなく流れてくるという代物。再生機が壊れてからは見てないが、私の秘蔵の宝モノであることにまちがいない。





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