こはんで下り最速のフレンズ
無謀庵
こはんで下り最速のフレンズ
セルリアン問題も片付いて、平和なこはん。
ビーバーの家は、建屋も家具や設備も、すべてできあがってしまった。
そろそろ、次のものづくりに挑戦する時期だ。
ビーバーは考える。形を見たことのあるものなら、なんとなく作り方はわかる。しかし、まったく見たこともないものは、ちょっと無理だ。なら何があるだろう。
「あ……そうっす、バス、みたいなものなら作れるかもしれないっすね」
さすがビーバー、バスの最も重要な部品に気がついていた。
車輪である。
材木からきれいな長い丸棒を作り、その両端に大きな丸板を取り付ける。これをふたつ、フレンズひとりが収まる程度の箱に取り付けた。
「おおおお! これはバスでありますか!?」
「ちょっと違うっすけど、似たものっす」
出来上がった乗り物に、さっそくプレーリードッグは興味津々。
「どうすればバス殿は動くでありますか!?」
「これだけでは動かないっすから……誰かに押してもらうか、丘の上に持っていって、坂を下りるしかないっすね」
さすがに動力機関は、ビーバーにもわからなかったし、木製では無理だ。
さっそく坂の上まで押して行った。車輪が転がるから、思ったほど辛くない。
そしてプレーリードッグが乗り込んで、ビーバーが下り坂へ押し出す。
「おおお、走らなくても進むであります!」
景色が流れていく。加速がつく。
全力疾走のスピードを超え、顔に当たる風が心を興奮させる。
「たーのしーであります!」
そして湖畔の下り坂、当然その先にあるのは。
「あ! 池であります! これどうやって止まるんでありますか!?」
その機能はない。
乗り物は一直線に池に突っ込み、水の抵抗で急停止。そしてプレーリードッグは放り出されて空を飛び、どぼん。
「あああああ大変っす」
ビーバーが救助に走る。
「止まれない乗り物は危なかったっすね……申し訳ないっす」
「いえっ、バス殿には大変楽しい何かを感じるであります! ぜひ改良してほしいであります!」
「そうっすね……」
車輪の構造を考え直す。
回っている車輪に別の板を押し付ければ、回るのを遅くしたり、止めたりできそうだ。
それと、右と左の車輪を切り離して、別々に回るようにしよう。片方だけ板を当てて遅くすれば、進む向きが変わるはず。
さっそく改良を加えて、再び坂の上。
「さすがビーバー殿のアイディアであります! いざ突撃であります!」
「気をつけていくっすよ」
下り坂に向けて、ビーバーがそっと乗り物を押し出す。
プレーリードッグは、ブレーキと方向転換を試しながら走っていく。ビーバーの設計通りに、減速しつつ向きを変え、操縦可能な乗り物になってはいる。だが、
「……ああ、ダメっすよ、それじゃひっくり返るっす」
プレーリードッグは前輪でブレーキを使っていて、しかもスピードを出しているから、減速するたびに後輪が浮いている。見ているビーバーには恐ろしくて仕方ない。
「うぉおお! このスピードとスリルがたまらんであります! バス殿最高であります!」
違う世界の扉を開きかけているプレーリードッグは、再び池に突っ込んでいく。
だがしかし、今度はブレーキがある。。
水際ぎりぎりで、両手を使って両前輪に、思い切り板を押し付けた。
「わあああああ!?」
急停止した前輪を軸にして、乗り物が前のめりに半回転。プレーリードッグは放り出されて空を飛び、どぼん。
「あああああ大変っす」
ビーバーが救助に走る。
「バス殿は完璧であります! 私の乗り方が悪いんであります! もっと練習するであります!」
と言い張るプレーリードッグを、渋々ながら、ビーバーは坂の上から押し出す。
「さっき気付いた技であります!」
十分速度が乗ったところで、前輪のブレーキをかけて後輪を浮かせる。すぐに左前輪のブレーキを離し、右前輪のブレーキを強くする。
「ぐるん! であります!」
乗り物は、右前輪を軸に、後輪で地面にがりがりと半円を描いて、180度向きを変えた。スピンターンだ。
坂の上で見ているビーバーも、「す、すごいっすね!」と驚く妙技だった。
「……お? あっあっ、いかんであります、後ろ向きに走ってるであります!」
前後逆になった乗り物は、重力に引かれて後ろ向きに加速していく。プレーリードッグは、背中向きに走るという未知の恐怖体験にパニックに陥り、なにもできない。
乗り物は逆走しながら池に突っ込み、プレーリードッグは放り出されて空を飛び、どぼん。
「あああああ大変っす」
ビーバーが救助に走る。
池に浮かんでいるプレーリードッグを、ハシビロコウが舞い降りて拾い上げてくれた。
「さっきから見てたけど、何を作ったの? 空を飛ぶ乗り物?」
池に突っ込んでは空中に放り出されて落ちる、と何度もやっている様子は、ハシビロコウから見るとそう思えた。
「危険だからフレンズが乗るのは禁止っす」
「ええー、スピードとスリルがー」
「見てるだけでスリルありすぎっす……」
話しながらふたりは、細長い木の角棒に、乗り物の車輪が入るくらいの溝を掘ったものを量産している。
「それで、今度はなんでありますか?」
「この長い木を地面に並べて、この溝の上だけ乗り物が動くようにするっす。そうしたら、池に突っ込んだり、木とか岩にぶつかったりしないっすから」
つまりレール式への切り替えだ。
「でも、この木を並べたところまでしか行けなくなるでありますが」
「針葉樹林まで並べるっす。切った木を乗せて押したら、楽に運べるっすよ」
「なるほどであります!」
木材はいくらでもほしいが、離れたところから運ぶのは大変だ。これを使えば、ずっと楽になる。
火、刃物、電気、そして車輪、テクノロジーは便利だが、使い方を誤れば危険。
エンジニアとして大切なことに気付いたビーバーであった。
「では丘の上からも溝を敷くであります!」
「それは即撤去っすよ」
こはんで下り最速のフレンズ 無謀庵 @mubouan
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