命の重量
佐宮 綾
ミナの死
幼なじみのミナが死んだ。自殺だった。
ミナの家で、骨になったミナに手を合わせながら、僕は命の軽さ、なんてことについて思いを巡らせていた。
その日は十数年前の秋の始まりで、天気がいい日だった。僕と幼なじみのミナは近所の大きな公園に遊びに来ていて、ふたりで昆虫採集なんかを楽しんでいた。
キッカケを僕は鮮明に覚えている。ミナが、「トンボって、どういうからだしているんだろうね」と言いだしたことだ。
僕たちはふと虫かごの中を見た。狭そうに虫かごの中を飛び回る赤いトンボたち。
最初、僕は「ミナは何を言っているのだろう」と思った。しかし、幼かった僕は虫かごの中に詰められた赤いトンボを見て、ミナと同じ考えに至ったのである。ミナの言葉は魔法だった。
ミナはそれを「お医者さんごっこ」と呼んだ。僕がトンボを虫かごから出し、羽を千切ってミナに渡す。ミナは僕から羽の千切られたトンボを受け取り、頭を掴んで黄色いはらわたを取り出す。僕の手の中で暴れていたトンボが、ミナの手の中でぶちりと音を立て息絶えていく。僕は終始喋らなかったが、ミナは「トンボって血を流さないんだね」やら、「からだのなかって黄色いんだね」やら、色んなことをしゃべっていた。死んだトンボをどうしたかは定かではない。
今思えばそうとう不謹慎なことをしていたと思う。
僕はそのとき、「命って案外軽いんだね」と言った。ミナも「うん」と頷いた。
あの日の罪を、殺生という罪を、僕らは二人で抱えて生きてきた。
だからこそ、ミナが死んだと聞いた時には驚いた。あの時トンボに手を下したミナは誰よりも命の重量をわかっていると思っていたから。……いや、命は簡単に潰えるとわかっていたからこそ、ミナは死という道を選んだのかもしれない。
ミナが死んだ理由は誰にもわからない。けれど、僕はこれからずっとひとりで、あの日の罪を背負って生きていく。
命の重量 佐宮 綾 @ryo_samiya
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