終わりの始まり

ー光が差し込んだ。

嗚呼、夢だったんだ。気だるい体を無理やり起こし、深くため息をついた。母は2年前に癌で他界していた。当時の私は思春期まっさかりの中学3年生で、親孝行の1つすらまともにできてやいなかった。だから、母が安心して逝けたのかずっと不安だった。夢の中であったとしても、母と過ごしたあの時間は本物だと思った。

「ようやく逝けたんだねお母さん、良かった」

冷静を装っていたつもりだったが気づくと私は泣いていた。まだまだ、私も子どもだ。母が恋しい。大声をあげて泣いた。声が枯れた後、少し落ち着いて何回か深呼吸をした。前に進まなければ、そう思った。

私は自室の扉を開け、階段へと向かった。父に言わなければならない言葉がある。

私と父は母の他界後、喧嘩ばかりしていた。

シングルファザーとなり、多忙な父に私が容赦なく当たったからだ。母が居ないという心の隙間を埋めるように、父の存在を憎んだ。

しかし、本当は父を深く愛していたのだ。

しかし、不器用になってしまった心はそれを素直に表現できなくなっていた。軽く、それでもって緊張した足取りで階段を駆け下り、リビングへと向かった。

「お父さん、いつもありがとう、そしてごめんなさい」

あまりにも真剣な顔で私があり得ない言葉を発したからか、父は素っ頓狂な顔をして、

「おう。」と答えた。

私は赤い目をこすり、笑った。父もそれにつられて笑った。うん、大丈夫。私変われるよお母さん。

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change ともみ @tomomi1030

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