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ともみ

願い

辺りを見回しても、川と、その上に掛かる殺風景な景色に私は呑み込まれていた。隣には母が居た。ぽつんとただずむ橋の印象に私は圧巻され、怯え、小さな両手で母の手をぎゅうと握った。母はどこか力なく、にこりと、優しく私の目を見つめ、微笑んだ。

「まなちゃん、この橋お母さんと渡ってくれる?」

「うん」

私はわけも分からず頷いた。五感を超えた第六感が私に母と居ろと伝えてる気がした。

私と母は、ゆっくり、長い長い橋を渡り出した。

「まなちゃんは、お母さんのこと好き?」

「うん、ママのこと大好きだよ、怒ると怖いけど」

母が優しく、私の頭を叩いた。私はそれに挑発して精一杯笑ってみせた。

「まなちゃんは、大きくなったら何になりたいのかな?」

「うーん、大きくなったら、本を書きたい!まなみの本を読んで、いっぱいいっぱいみんなに笑顔になってほしいんだ」

私と母はたわいもない話を続けながら、ひたすらその橋を歩いた。たくさん歩いて疲れたけど、なぜか心地よくて、じんじんと痛む足が温かかった。

私達の些細な旅も終盤を迎えた。橋の先の景色が見え始めていた。母の表情は、どこか悲しげに見えた。泣きそうになった。

「まなちゃん、ちょっと聞いてほしいことがあるんだ」

「なーに?」

私は振り絞るようにして、声を出した。

「あのね、まなちゃんとはここでお別れしなくちゃいけないの」

「…なんで?」

私は既に泣いていた。理由などなく、ひたすらに悲しかったからだ。

「お母さんね、まなちゃんとお話して安心した。それにね、まなちゃんの周りにはいっぱいいっぱいまなちゃんを支えてくれる人がいるよ。だから、お母さんがいなくても大丈夫。」

「…やだ、ママと離れたくなんかない」

母の目からも涙が溢れ始めた。

「あなたは私の大切で、愛しい子ども。優しくて、思いやりあるいい子。大丈夫、離れててもお母さんはずっと見てるよ。」

母は私のことを強くぎゅうと抱きしめた。もう、母とは居られない。根拠の無い確信があった。わがままを言っても仕方の無いことは、わかっていた。次から次へと涙は溢れる。

「じゃあね、またすぐに会えるから大丈夫よ。お母さん、まなちゃんが来るまでずっと待ってるから。」

「…うん。」

母は、泣きながら、しかし、いつものように優しく微笑んだ。私も負けじと歪んだ笑顔を母に向けた。

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