第三十七楽曲 第二節
今年の学園祭に向けて始動した備糸高校だが、やはりダイヤモンドハーレムに対して一筋縄ではいかない学校である。
「なんですと!」
2学期が始まって1週間を終えようとしていた金曜日の放課後。家庭科部の服飾が部室に使っている家庭科室に集まったのはダイヤモンドハーレムの4人だ。そこで古都の声が響く。家庭科部の服飾の3人の女子生徒もいて、その中の3年生の部員が話を仕切っていた。
「ごめんね」
「いえいえ、部長さんが謝ることじゃ……。けど、なんでですか?」
「えっと、私は副部長だよ。部長は調理の方にいるから」
まずは役職を訂正してからこの3年生の部員が話し始めた。それを申し訳なさそうな表情で見守るのは1年生の部員と2年生部員の睦月だ。
「学園祭のステージ発表なんだけど、衣装が4人分とは言え、1種類だけじゃ趣旨がライブの方になるって反対する先生がいるらしいの」
そんなことを言う教師はどうせ剛田だろうと、希は表情を変えないながらも内心で自分の担任に毒吐いた。同じ疑いを持っている美和も苦虫を噛み潰したような表情をする。この疑いが当たっていれば、むしろ謝罪するのはダイヤモンドハーレムの方だ。動いてもらっておいて自分たちが足を引っ張っているのだから申し訳ないと思うのだ。
「服飾の発表だと言ってもダメなんですか?」
古都が前のめりになるが、3年生部員は恐縮しきりだ。今家庭科室では4人掛けの机を2つ使ってダイヤモンドハーレムの4人と家庭科部の3人が対面している。
「うん。うちの顧問の先生、まだ若い先生だからあまり強く言えないみたいで……」
家庭科部の顧問は大卒3年目の女教師である。活動場所が家庭科室と調理実習室の2つある部活の面倒見を押し付けられた可哀そうな教師ではあるが、生徒と良好な関係で真面目に部活動に取り組んでもいる。
「じゃぁ、生徒会経由はどうですか?」
ここで美和が案を出すが、3年生部員の表情は晴れない。
「生徒会推薦も探ってみたんだよ。去年と顔ぶれが変わって今年は友達がいるから、その子に「私たちの作った衣装を着るから、有志発表の推薦をしてもらえないか?」って」
昨年は学園祭の実行委員の筆頭であった生徒会に迷惑をかけた。それ故に期待はできないと思っていたが、顔ぶれが変わって友人がいるのなら話が通りやすいのではないだろうかとメンバーの誰もが思った。それで美和が話の先を促した。
「それでもダメだったんですか?」
「うん。「そんな推薦を出すな」って顧問の先生が言うみたいで。生徒会はなんだかんだ言って先生の言いなりだから」
生徒会の顧問は昨年と同じ教師だ。昨年、生徒会に迷惑をかけたことが尾を引いていて、ダイヤモンドハーレムは嫌われている。
結局生徒会とは大学の推薦欲しさに教師の言いなりになる雑用部隊だ。イケメンの男子生徒や才色兼備の女子生徒など、周囲に崇められる生徒が学園を牛耳るものではない。特に備糸高校のような公立の学校はその地味さが顕著だ。
「そんな……」
がっくりと肩を落とす古都。昨年はかなり強引な方法でステージに立った。またそんな方法でも取ったら今度こそ何かに理由を付けて停学になり兼ねない。つまりダイヤモンドハーレムがステージに立つために残された方法は、競争率の高い抽選しかない。
昨年のように教師推薦を一度でもされていれば、それが理由になるので当選者に譲ってもらうこともできる。しかし今年は長勢教諭からも敬遠されてしまって、そもそもその土俵にすら立っていない。
「けどね、ちょっと考えたんだよ」
するとそう言って3年生部員が1枚の用紙を机に置いた。
「ステージ発表企画書?」
古都がその用紙の表題を声に出して読む。しかし表題と枠のみで、企画書と言いながら企画は何も書かれていない。真意が掴めていないのは睦月と1年生部員も同じようで、3年生部員は説明を始めた。
「これは文化部がステージ発表をする場合、顧問の先生と生徒会を経由して職員室に提出する企画書なんだけど。私たちとダイヤモンドハーレムで何か合同で企画してステージ発表をしない?」
「え!? できるんですか!?」
食いついたのは古都だ。しかし美和が不安そうに言う。
「けど、私たちが衣装を着てステージに立つのは、制作物が1種類だけだからダメなんですよね?」
「そう。だから私たちとあなたたちの比重をせめて五分五分にまで持っていった企画を上げてステージを確保するの」
「おぉぉぉ! 楽しそうです!」
古都の目はギンギンに輝いた。美和もこれには納得したようだ。唯は大人しく聞いているだけだが、希もどうやら燃えてきたようで首を何度も縦に振る。
「それを今から考えたいんだけど、いいかな?」
『……』
これには難しい顔をして返事をできないダイヤモンドハーレムのメンバー。3年生部員のみならず1年生部員も首を傾げる。しかし睦月が察した。
「そう言えば、今から練習よね?」
「そうなんだよ……。せっかく力になってもらってるのに……」
古都が申し訳なさそうに言う。そう、この日は金曜日だから定期練習だ。いつもは16時からだが、放課後に今こうしていることで既に遅刻決定である。しかし古都が言うように協力してもらっておいて、そんな図々しいことはなかなか口にできないのだ。
「部活じゃないから練習場所のお店の都合もあるでしょうし、しょうがないわね」
「なんか本当にごめんなさい……」
「あ、そうだ!」
すると3年生部員が思いついた。皆の視線が彼女に向く。
「私たちも今から練習見学がてらお店に行ったらダメ?」
「え!」
予想外の打診に古都が反応した。他のメンバーも驚いた様子で、3年生部員と古都のやり取りを見守る。
「練習って何時に終わるの?」
「向こうに到着して練習開始してから2時間後です」
「お店ってその頃にはもう営業してるの?」
「いえ。営業は夜の7時からです」
「それなら練習の後、少し企画を考える時間もあるじゃない。夏休みに
ブンブンと勢いよく首を横に振る古都。さすがにファンを公言するだけあると、メンバーは一様に感心した。そして古都が続けて言葉を発した。
「全然ダメじゃないです。むしろ付き合ってもらっていいんですか?」
「もちろん。私が行きたいと思ってるんだから」
「ありがとうございます。副部長さん」
ここで満面の笑みを浮かべた古都。もしこの場に男子生徒がいたらその麗しさに卒倒していたことだろう。男子生徒でなくとも、女子生徒ですら感嘆する美貌だが。
「私は
そう言えばここまで親身になってもらっておいて、自己紹介をしていなかったと気づいた。
「よろしくお願いします、百花先輩」
やはり古都は馴れ馴れしく名前で呼ぶ。そしてそれは後輩である1年生部員の彼女にも。
「新菜は大丈夫?」
「はい。私も是非行ってみたいです」
1年生部員の新菜は朗らかな笑顔で答えた。どうやら人当たりのいい性格のようだ。
「それじゃぁ、案内しますね」
「よろしくね、古都ちゃん」
社交性のない睦月が所属する部活だから当初は誤解していたメンバーだが、人当たりのいい部員とも随分打ち解けたようだ。各々通学鞄を手に取ると、この場の女子たちは学校を後にした。
「……。今日は随分と大人数だな」
ゴッドロックカフェで迎えた大和は女子高生の多さに圧倒された。週末なので杏里も手伝いに来てくれる予定だが、この時はまだ出勤していない。どこか人見知りをしてしまって大和は杏里の出勤に首を長くした。
一方、家庭科部の部員3人は、特に百花と新菜だが、練習とは言えダイヤモンドハーレムの生演奏を観られてご満悦であった。
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