消えたジャパリマン

@sherringford

消えたジャパリマン

 まず初めに言っておくと、私タイリクオオカミはこういう形で物語を書くのは初めてなので、ところどころ読みにくいところがあるかもしれないことをお詫びしなければならない。しかし、その点を了承してくれるのであれば、この物語は我がフレンズかばんの素晴らしい才能を楽しめる作品になっている。その点に関しては私が保障しよう。

 この文は私が口に出したものを博士が書き起こしたものだ。新しい表現方法を探していた際に博士にこの方法を提案され、試してみることにした。

時は無事巨大セルリアンを倒した数日後。私を含め多くのフレンズがかばんに内緒で船を作るため、観覧車付近で寝泊まりをしていた。今回の話は、その船製作中に起きたちょっとした出来事だ。

「た、大変なのだー!」

 その日は少し風の強い日だったが、フレンズはいつも通りそれぞれみん仲良く過ごしていた。

 そんな中、初めてそれに気が付いたのはアライグマだった。

 悲鳴にも似たその声に周りにいた私たちフレンズが彼女の元へと駆け寄る。

「は、博士と助手が、ジャパリマンを盗んで逃走したのだー!」

 そのアライグマの言葉に、多くのフレンズたちがざわめく。

「こ、これは私が頑張るしかないわね!」

 キリンの目が、おもちゃを見つけた子供の様に目をキラキラ輝かせていた。彼女は大の推理好きで、いつも迷推理を私たちに披露する。

「それって、本当なのかなー、アライさん」

 いつものように甘ったるい間延びしたしゃべりでフェネックがアライグマに尋ねる。

 私も彼女と同意見だった。あの二人、博士と助手は自他ともに認める賢さを持っている。そんな二人が泥棒などということをするのだろうかと。

「ま、間違いないのだ! アライさんは見たのだ! ジャパリマンが入っていた籠を二人が持って空を飛んでいるのを!」

 それぞれが言い争い(?)をしている中、頭に二本の羽を生やし、背中にかばんを背負っている我がフレンズかばんはジャパリマンが置かれていたテーブルの上を眺めている。

「どうしたの、かばんちゃん?」

 そのかばんの行動が気になったらしい彼女の名付けフレンズ、サーバルが近寄る。

 どうやらかばんも私、フェネックと同意見らしい。

「君も納得いかないみたいだね」

「はい。もし博士たちが盗むとしたら、ジャパリマンじゃなくて、こっちのカレーの方だと思うんです」

 かばんが近くに置いてあるカレーの鍋を指さす。

「確かにそうだね」

 かばんの言う通りだ。最近ジャパリマンに飽きていた二人がわざわざ盗むなんておかしい。

「でもアライさんが嘘を言っているようには思えないんです。だから、博士と助手が籠をもって飛んでいったのには何かわけがあるはずなんです」

 かばんはテーブルを調べ終えると、その近くの地面をしゃがんで調べ始めた。

「何しているの、かばんちゃん?」

「何か手がかりがないかと思って……」

するとすぐに何かを発見したらしく、黒い指先で何かをつまんでいる。

「かばんちゃん、それなあに?」

「ペンと、それに紙の切れ端……かな。テーブルの下に落ちていたんだ」

 そう。かばんが拾い上げたのは私もよく漫画を描く際に使用するペンと紙の切れ端だ。

「だとすると……」

 そこでかばんは何か分かったらしく、風が吹く方へと走り出した。私とサーバルも彼女に続く。

「やっぱりあった」

近くの木に、先程の断片と思われる紙切れが木に引っかかっているのが見つかった。

「かばんちゃん、どうして分かったの?」

 サーバルが不思議そうに顔を傾げる。

「紙の切れ端だね」

「はい。ペンと切れ端があったら、必ず書く紙があったと思ったんです」

 文字の読めない私たちには何が書かれているのかわからなかったが、文字が読めるかばんはそれを一読すると笑顔を私たちに向けてきた。その顔には、すべて謎が解けたと書いてある。

「これで、博士たちの行動の真相がわかりました」




「はぁ、これだからバカは困るのですよ」

 帰ってきた博士がアライグマを呆れたような目で見つめる。

「ア、 アライさんは馬鹿ではないのだー!」

 アライグマは博士たちに怒りの眼差しを向ける。

「我々はそんな無粋なまねをしたりはしません」

「我々は賢いのですよ」

 かばんが見つけた紙切れにはこう書いてあったのだ。

『ボスが故障してしまい、ジャパリマンが届かなくなってしまったのです。幸いにも故障は軽いものですぐに直せましたが、再起動に時間がかかりそうなのです。なので、それまでの分のジャパリマンを取ってくるのであります』

 つまり博士たちは、ジャパリマンを盗むどころか、私たちのために取りに行ってくれていたのである。

 ちゃんとメモ書きを残したのだが、風で飛んでいってしまったようだ。

 結末を見ればあっけない事件だったが、かばんの洞察力が見事に冴えわたった物語である。そして、この物語をしめるのにふさわしいのは博士がその後に言ったこのセリフであろう。

「私たちが二人だけでおいしいものを奪って食べるなんてことはしないのです。おいしいもの食べてこその人生ですが、食べ物はみんなで食べるともっとおいしくなるのですよ」

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