コツメスイッチ
すずかげ門
コツメスイッチ
パーティ参加のために遊園地に集っていたフレンズの中には、はじめましてのフレンズもたくさんいました。
コツメカワウソとオグロプレーリードッグの二匹も、今回はじめて会ったはずなのだけれど、なんだかずっとむかしから友達だったみたいに意気投合しています。
二匹は毎日、好奇心のおもむくまま、遊園地の中をあちらこちらと走り回っていました。
今日は遊具の一つ、コーヒーカップで遊ぶことにしたみたいです。
「このお盆を回すと、コーヒーカップが回るそうであります! 博士がそう言っていたであります!」
「へー! おもしろーい! 回そ回そー!」
言うが早いか、カワウソがコーヒーカップのハンドルをぐるんぐるん回し始めました。ハンドルは抵抗なく回るので、カワウソは面白くなってどんどん回転を速めていきます。それを見ていたプレーリーも、負けじとハンドルを回します。
すると、コーヒーカップがゆっくりと動き始めました。カワウソとプレーリーはもう大喜びです。
「わーい、回る回るー! たーのしー!」
「ひゃーっ! どんどん回すのであります!」
でも、どうやらこのコーヒーカップ、ブレーキが壊れていたみたいです。カワウソが調子に乗ってハンドルをさらにぐるんぐるん回すと、際限なくカップの回転速度が上がっていきます。
しまいには、コーヒーカップはフードプロセッサーのごとき超高速で回転しだし、二匹のフレンズの姿はもはや残像としてしか確認できないまでになっていました。それでも、二匹は頭のネジが飛んでいるのかハンドルの速度を緩めようとしません。それどころか、さらに速度を上げるべく高速でハンドルを回しはじめました。
と、突然、プレーリーの視界からカワウソの姿が消えてしまいました。
頭を巡らせたプレーリーの目に映ったのは、高笑いしながら空の彼方に飛んでいくカワウソの姿でした。
「ああっ! カワウソ殿がものすごい勢いですっ飛んでいったでありますーっ!」
★
「そうそう、茹で上がったら氷水に浸して洗ったのち、そこのざるに空けるのです」
「なんで私が博士たちのために料理を作らなきゃならんのだ……」
「ヒグマは火を使える貴重なフレンズなのです。その才能は有効利用しないとだめなのです」
ここは炊事場。寸胴鍋の中に金属ざるを差し入れながらぶつぶつ文句を言うヒグマがおり、その両脇で、博士と助手がせわしなく指示を出しています。
ヒグマが火を恐れないことを知っていた博士と助手は、彼女に料理を頼めないか、ずっと前からチャンスを伺っていました。なので、パークの危機が去り、ヒグマが暇になったこの機会を、博士たちは逃しませんでした。
茹でたての料理を氷水にあけつつ、ヒグマは博士たちに問いました。
「――で、これは何ていう料理なんだ?」
「『ざるそば』というのです。ざるに載せたそばをつゆに浸して食べる、シンプルながら奥の深い料理です」
「ものの本によると、そばの美味しい店はカレーも美味しいというのです。我々は、カレーの美味しさの秘密がそこにあるのではないかと考えています」
「ほんとかね……」
博士たちの考察を話半分に聞き流しつつ、ヒグマは手際よくそばを氷水で洗っていきます。
ヒグマは料理フレンズとしても優秀でした。そのため、このまま大過なく料理が完成するものと博士たちは思っていました。しかし――
「ほら、これをざるに空けて、完せ……」
「ど―――――んっ!」
ヒグマの手によってそばがざるに盛り付けられたその瞬間、まるで狙ったかのごとくコツメカワウソが飛び込んできたのです。
ざるに載ったそば、すなわちざるそばは、炊事場に飛び込んできたカワウソと入れ替わるように空中をすっ飛んでいきます。
泡を食ったのは博士たちです。
「ああっ、ざるそばが飛んで逃げたのです!」
「は、早く追わなきゃなのです!」
博士たちは頭の羽根をいそがしく動かして、空飛ぶざるそばを追いかけっていったのでした。
★
遊園地のベンチに座るかばんちゃんとサーバルは、別れまでの僅かの時間を惜しんでいました。
かばんちゃんは改造ジャパリバスに乗って、海の向こうに行くことになっていました。今は丁度、食料などを準備している時間なのでした。
かばんちゃんはおもむろにかぶっていた帽子を脱いで、サーバルに差し出します。
「この帽子、サーバルちゃんにあげようと思うんだ」
「かばんちゃん……」
「もしさみしくなったら、この帽子を見て僕のこと思い出してね」
「さ、さみしくなんか……」
強がろうとするサーバルの耳に、遠くから「待つのですー」「逃げるなざるそばなのですー」などという鳥類の声が聞こえたような気がしました。
その次の瞬間。
かばんちゃんの頭にバッサ―――ッっと何かが覆いかぶさってきたではありませんか。
「うわ――――!! な、なに〜〜っ!?」
何が起きたかわからず、かばんちゃんは驚いて、手から帽子を取り落としました。落っこちた帽子は、ころころと遠くへ転がっていきます。
丁度そこに偶然アライさんが通りかかりました。彼女は足元に転がってきた帽子を拾い上げると、飛び上がって喜びました。
「あっ! これはアライさんの帽子なのだ! わーい、帽子が戻ってきたのだー!」
「あ、あれっ!? かばんちゃんの帽子、なんか形変わってる?」
サーバルがかばんちゃんの頭上を見上げて目を丸くしています。
それもそのはず。今、かばんちゃんの頭に載っているのは帽子ではなく、ざるそばのざるです。
ざるの上に乗っていたそばは、かばんちゃんの髪の毛と渾然一体となっています。
間髪入れず、ざるそばを追いかけて博士たちが飛んできました。
「あっ、博士、飛んで逃げたざるそばが、あんなところに! しかし、今にもこぼれ落ちそうなのです」
「せっかく作ったおそばを無駄にできないのです。かばんの頭から直接食べるのです」
「ええっ!? ちょ、ちょっと待っ……!」
博士たちは、かばんちゃんの頭に群がって、髪と一緒に垂れ下がる麺をついばみ始めました。
「あはははは! たーのしー! もう一回飛んでこよーっと!」
コツメカワウソは悪びれもせずコーヒーカップの方へ走り去って行きました。
「やっと手元に戻ってきたのだ。これはやっぱりアライさんの帽子なのだ〜!」
アライさんはかばんちゃんの帽子をもう二度と離すまいと、しっかり抱きしめたまま走り去っていきます。
「もぐもぐです」
「もぐもぐなのです」
「は、博士、やめっ……たべないでください! あっ、アライさん、ちょっと待って、それはサーバルちゃんに……ああ、もうめちゃくちゃだよ〜!」
博士たちに頭をつっつかれながら、叫ぶかばんちゃん。
そんなこんなで、ジャパリパークは今日もドッタンバッタン大騒ぎなのでした。
コツメスイッチ すずかげ門 @suzukagemon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
下書きフレンズ/ふせんさん
★0 二次創作:けものフレンズ 連載中 7話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます