『手』をつなぐ

オルドゥス

君がいたから



「かばんちゃんの『て』って、すごいよねー!」

「え、サーバルちゃんどうしたんですか。急に」



みずべちほーを後にし、ボスの運転の元、ジャパリバスが走る中、唐突なサーバルの言葉にかばんは目を丸くし、彼女を見た

サーバルはいつもの太陽のように明るい笑顔で彼女の手をじっと見ている



「だって、かばんちゃんの『て』はいろんなことができるんだもん!」

「え、そ、そうかなぁ」



そう言われ、かばんは自分の手を見てみるが、何の変哲もない『ヒト』の手だ



「そうだよ! だって、『かみひこーき』もつくれるし、『はし』だって、『りょうり』もつくれた! かばんちゃんの『て』はなんでもできちゃうんだね!」

「うーん、そうかもしれないけど。サーバルちゃんの手と殆ど変わらない気がします」

「ううん、ぜんぜんちがうよ!」



サーバルはぐっと自分の顔を前に出し、かばんの手を握り、力説する



「かばんちゃんの手は、きっと特別なんだよ!」



念を押すようにサーバルは言い、かばんの右手を両手で包み込むようにぎゅっと掴んだ

少しの間、かばんは何かを考えていたのか沈黙が流れたが、彼女は更に上からサーバルの手を左手で優しく包んだ



「うぇっ!? かばんちゃん?」



今度はサーバルが目を丸くして、かばんを見る。かばんは少し申し訳なさそうに笑顔を零した



「サーバルちゃんから見たら、ボクの手はそうなのかもしれないけど。ボクから見れば、サーバルちゃんの手の方がずっとすごいと思うんです」

「えぇー!? そんなことないよぉ」

「ううん。だって、サーバルちゃんは簡単に木登りができるし、セルリアンだって倒せる。野菜だって切れちゃうんだから、すごいんだよ」

「でも、それってほかのフレンズたちにもできることだからぁ」



サーバルは伏し目がちに話す。それと同時に彼女の頭の方にある耳も少し垂れ下がった

その言葉を聞いて、かばんはサーバルが周りからおっちょこちょいだと言われていることを思い出す

細かいことは気にしないサーバルだけど、やっぱり言われ続けると少しは気にしてしまうものなのだろう

 そう思ったかばんは首を横に振り、サーバルを見つめる



「それだけじゃないよ。サーバルちゃんの手はボクに木登りを教えてくれた。尻餅をついたボクに手を差し伸べてくれた。だから―――――」



かばんはサーバルの掌と自分の掌を合わせるようにする



「サーバルちゃんの手は、ボクを助けてくれる手なんです!」

「かばんちゃんを、助ける・・・・・・」

「うん!」



それを聞き、サーバルの垂れていた耳もピンと立ち上がり、サーバルは笑顔を取り戻した



「うみゃ~、そうだね! わたしもかばんちゃんに助けられることが多いから、お互いに得意なことを助け合えればいいね!」

「うん!」

「次ノエリアガ見エテキタヨ」



お互いに笑顔で掌を合わせるかばんとサーバルにボスが声を掛けてきた

気づけば、ジャパリバスの行く先に見える景色が先程のちほーとは異なってきた



「うわー! まっしろだー!」

「アソコハ、『ゆきやまちほー』ダヨ」

「ゆきやまちほー・・・・・・一体、どんなところなんだろう」

「たーのしみー!」




                   §




 そして、巨大セルリアンとの戦いを終え、かばんはヒトを探すため、外のちほーへと旅立った

サーバルを含めたフレンズたちが後ろからこっそり着いてきたは予想外だったけれど、かばんにとって、これほど嬉しいことは無かった

ジャパリバスを改造した船の運転席にかばんが、助手席にサーバルが座る

後ろの座席では一緒に着いてきたフレンズたちが海を渡ることに興味を持ち、楽しそうに景色を眺めたり、波を触っていたりしている

船として改造する際にジャパリバスの前と後ろを離したが、結局、ロープで結んで一緒に行くことになった



「かばんちゃん、私を助けるためにがんばったんだよね?」

「あ、うん。サーバルちゃんが食べられた時、ボク、頭が真っ白になっちゃって。けど、サーバルちゃんを助けなきゃって思ったら必死になってたんです」



かばんは一ヵ月前のことを思い出す

巨大セルリアンに食べられたサーバルを救おうと、かばんは一人で立ち向かった。サーバルから教わった木登りで、彼女を救ったのだ

しかし、サーバルは少し怒りながら、かばんを見つめる



「うれしかったけど、それでかばんが食べられちゃったのは、こわかったんだからね!」

「あ、あはは・・・・・・ごめんね」

「私だって、かばんちゃんを助けるためにみんなとがんばったんだから!」



サーバルを庇い、巨大セルリアンに食べられたかばんを救うために、サーバルは他のフレンズたちと一緒に戦った

そして、サンドスターを失ったかばんを取り戻した際、彼女は巨大セルリアンの攻撃から皆を守るために、紙飛行機に火をつけて飛ばした

かばんから教わった紙飛行機で、怖かった火も物ともせずに、皆を、かばんを守ったのだ



「本当にありがとう。サーバルちゃん」

「ううん、こっちこそありがとうだよ! だって―――――」



サーバルはかばんの手を取り、彼女と自身の掌を合わせる



「私たちはお互いに助け合うんだからね!」

「・・・・・・そうだね!」



二人の笑い声が、波の音と共に海原に響き渡るのであった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『手』をつなぐ オルドゥス @oldxus

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ