勇者のステータスを引き継いだ問題児

@yatonokami

第1話 プロローグ


 俺の名前は才条優真さいじょうゆうま。ちなみに17歳だ。

 17歳といえば高校生。そして、今日は平日だ。

 普通の学生ならば、朝から学校へ行き、授業を受ける。休み時間にはクラスの友達などとお喋りをして、部活をやって帰ってくる。

 普通の学生なら当たり前の日常。

―――そう、普通の学生ならば……。


「はぁ~……今回も、くっだらない連中だった……」


 昼間から部屋のカーテンを閉めきり、椅子の背もたれに思いきりもたれ掛かって、まるで残業が終わったサラリーマンのような、気だるげな声音で、そう吐き捨てる。

 机の上には一台のパソコン。そして、そのパソコンの画面には『You Win !』という文字が。

 優真がその画面を見つめて。


「弱い、弱すぎる……。どいつもこいつも、手応えが無さすぎる。……あ~あ、いっその事、チーターとやってみるか?」


 そんな事を言いながらパソコンを操作し始める。


 そう、優真は現在進行形で引きこもり。

 そして、優真の引きこもり生活が始まったのは、今から半年前。

 理由は簡単だ。

 一人暮らしだった優真はその日、とある理由で学校を休んだ。そして、次の日ももう一日だけと休み、それが一週間、一ヶ月と休み続けた結果、気づいたら自分は家に引きこもるようになっていた。ただ、それだけ。


 学校に行く気にはならないわ……身内はうるさいわ……暇潰しのゲームでは、他のプレイヤーのレベルが低すぎるわ……。

 なにか面白い事はないものかと、いつもパソコンで探している。


「……にしても、腹減ったな~。コンビニまで行くのはめんどいし、かといってこのままだと餓死するし……はぁ……しゃあない。カップ麺でも買ってくるか……」


 そして、準備をしようと立ち上がると……。

 机に置いてあった携帯が鳴り出す。


「んあ……なんだ?」


 自分の携帯に電話が掛かってくる事などほとんどない優真は、その鳴り続ける携帯を睨み付ける。

 そして、その間も携帯は鳴り続けているが、優真は出ない。


―――切れる。そして、再び鳴り始める。


 間違い電話ではない、という事を確認できた優真は、取り敢えず電話に出てみる。


「もしも―――」


『もしもし、優真?あんた、なんですぐに出ないのよ!?』


「―――げ、姐さん………」


 突然、耳元で炸裂した女の怒声。

 優真は電話をしてきた相手を認識した途端。頬を引き攣らせながら携帯を耳から離し、通話終了ボタンに親指を伸ばすが……。


『……ああ、そうそう。この通話を切ったりしたら、今月の仕送りは無いからね❤』


「…………」


 優真は無言で親指を元の位置に戻し、携帯を再び耳に当てる。

 そして、忌ま忌まし気に問い掛ける。


「……一体、何の用だ?」


『いや~、久しぶりにあんたの声が聞きたくなったのよ』


「…………」


 はは、面白い冗談だ。

 指が滑って通話を切ってしまいそうなくらい面白い。

 しかしそれは、破滅への片道キップ。

 少し指を動かすかどうかで、自分の生死が決まってしまうほどに今の優真の命は危ういのだ。


『……ふふ、なんてね』


 すると、急に穏やかな声音になり、心配そうに言ってくる。


『……優真?』


「……なんだよ」


『……ちゃんと、学校行ってる?しっかりとご飯も食べてる?』


「ああ。イッテルイッテル、タベテルタベテル」


 などと、適当に相槌を打つ。

 勿論、学校には行っていない。一応、食事は取っているがカップ麺などだ。

 そして、買い置きしていたカップ麺が無くなったので、今から買いに行こうとしていたのだが……。


『……私、あんたの将来が心配で―――』


「はいはい。心配無用、問答無用。……優花|姐(ねえ)さんが生活費を送ってくれている間は死んだりしないから、今後ともよろしくお願いします」


『いや、そういう問題じゃ……やばくなったら、少しは助けてあげるけど……』


「……ああ、分かってる。ヤバくなったら、姐さんの脛をかじって生きていくよ。そん時は俺を養ってくれよ?」


『……どうして、そこで "働く" という選択肢が出てこないのよ。……まったく、甘やかしすぎるのも、あんたの為にならないか。……あ、そうだ!』


「………?」


 何かを思いついたように声を上げる優花。

 なんだ?と思い、訊ねようとしたが、無性に嫌な予感がして聞くのを躊躇っていると、まさかの予感的中。

 とんでもない事を、仰りやがった。


『あんたへの仕送り、来月から少しずつ減らしていくから、アルバイトでもなんでも探しなさい』


「ふ、ふざけんなッ!!鬼かお前は!?」


『……はぁ?私はあんたの為を思って……』


「それを『余計なお世話』って言うんだよ!大体、お前からの仕送り無しで、俺はどうやって生きていくんだ!?」


『だから自分で働いて……』


「いやだ!絶っ対に働きたくない!!」


『子どもか!!』


 そんな言い合いをして、はあはあと息を荒くし、一旦、呼吸を整えてから再び口を開く。


「俺はな、別に裕福な暮らしをしたいって言ってんじゃねぇんだ!ただ、ごく普通の、平凡で平和な生活を送りたい、それだけなんだよ!そんな些細な願いを抱くのも罪なのか?……そもそも、俺を一生養えるだけの金を持ってんだから、いいだろ別に……」


 などと、己のダメ人間ぶりを、何の悪びれもなく発揮する優真。

 対する優花は、自分の弟がこんな人間のクズになってしまった原因は自分なのだと悟り、今まで弟を甘やかしてきた自分を呪った。

 優花は、それでもなお、弟を甘やかしてしまう自分に呆れるように、大きなため息を一つ零して。


『……まあ、いいわ。仕送りはこのまま続けてあげるから、せめて学校には行きなさい』


「…………行ってるっつの」


『嘘つけ。あんたの学校、携帯は使用禁止でしょうが。しかも時間的に、今は授業中よ?』


「………」


 そんな事を言ってくる。

 つまり、だ。この女は俺が学校に行ってないと勝手に決め付け、電話を掛けてきやがったのだ。

 ……まあ、実際に行ってないんだが。


『……まあ、そういう事よ?あんまり人に迷惑を掛けないよう、気をつけなさい』


「へいへい」


 優真がめんどくさそうに相槌を打つと、相手から電話が切られた。

 ツーツー、と鳴り続ける携帯をしばらく見つめ、電源を切ってポケットの中に突っ込む。


「さぁて、俺は一体、なにしようとしてたんだっけ……?」


 そう呟くと、いきなり腹の虫が鳴き出した。

 そして、思い出す。


「……ああ。そういや、食料を買うんだったな……」


 そして、机の引き出しの中から財布を取り出して、優真はコンビニへと向かった。



――――――――。



 コンビニで買い物を済ませた優真は、ビニール袋を片手に、自分の住むアパートへと向かっていた。

 袋の中身は、カップ麺とスナック菓子。

 買い置きにしては少ない量だが、今月の仕送りをまだ貰っていないので、あまり多くは買えなかった。

 つまり、今月分の仕送りを貰ってから再び買いに行く事になる。面倒ではあるが、食料の為には多少の苦労は致し方ない。

 そんな事を考えながら、歩みを進める。


 そして、アパートに辿り着き、ネットゲームで数人のユニゾンチームをソロで無双。

 それに飽きた優真は、『掲示板荒らし』という妨害行為を十二分に楽しんだ後、適当な時間に眠りについた。

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