穏やかなる集中

サハラ・サーブラ

Only My Zone

敵の笑みは侮蔑でも称賛でもなく、

この瞬間を享受する顔つきそのもの。

 君を笑うのは君自身の足だというのに、

糸と糸の間から覗く目は鋭く、また冷たい。

 ぼさぼさ頭の小さきものが転がりくるも、

凶気を具現化する道具へ貶められる他ない。

そして気が遠くなるほど動き続けようと、

その到達点はこの盤上のどこかに終始する。

 ただ幸運にも、その悲運が存在を照らし、

緩衝役でも道具でもない意味を際立たせる。

 彼が訴えかける衝撃に耳を傾けていくと、

感情も観客も次々と盤上に溶け込んでいき、

自分自身を保つ理由さえ窓から抜け落ちる。

 彼の儚さは君の目的をも凌駕するのだ。

 盤上を渦巻く欲望の靄の濃度は下がり、

点が織りなす軌跡だけが君を勝利へと導く。

 いや、これは勝利への歩みですらない。

 恐ろしいほど静かな世界に導かれた迷子。

 その目から敵の姿さえ知らぬ間に消失し、

唯ひたすらに己を洗練する道が続いている。

内なる声は背中から飛び出して羽となり、

砕かれた血は皮膚へ、地表へと吸収される。

溢れ出していた意志は体内に流れ出し、

精神が肉体を新たなステージへと誘う。

 君に熱き目と穏やかな笑みが静かに宿る。

 それはまさに網の向こうの男の顔であり、

我々は平行線の彼方に架かる橋で出会った。

 羽は消え、男と観客が盤上に戻っていた。

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穏やかなる集中 サハラ・サーブラ @toaskyhawk

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