第3話
マイルが空騎士を初めて見たガルディア学園は、周りにギルドなどができるにつれ規模が拡大し今や中心に都市ができ、その周りには街ができるようになった。そんな中に、近くに養成学校があればいいのではという意見から生まれたのがガルディア学園だ。
そのやや東にあるハラリヤ街にマイルは住んでいた。
この世界に電気などあるはずがないので、夜は照らすものが月しかなく真っ暗なので普通は家に帰る。
だが、そんな夜のハラリア大通りをフードを被った小柄の子供が車と競争できそうな速さで走っていた。
(あぁ!風が気持ちいい!)
もちろんマイルである。
初めて魔法を使い、魔力切れで倒れて二年が立つ。
アラスが「マイル!この本の魔法はどうだ?」「新しく魔法書借りてきたぞー」「流石は俺とルティアの自慢の娘だ!」という感じに色んな魔法をやらせてくれたおかげで楽しみながらできた。そこでわかったのがすべてやろうと思えばできるが、得意な魔法は風と水だった。
それを知ったアラスが少し調子に乗って最上級魔法の"テンペスト"の魔法書を持ってきた時には、できてしまえば軽く災害になるので止めたりと濃い時間を過ごした。というよりどこからそんな代物を持ってきたのかが気になる。
で今は魔法もアラスが持っていた魔法書をすべて使えるようになったので、魔力容量をあげるための体力トレーニングに大マラソンというわけだった。しかし、ただ走るだけじゃ魔力量も上がるのは微々たるものなので、身体強化魔法に風法で追い風を作って加速している。その結果が車と競争できる速さというわけだ。日本のオリンピックにでたら確実に一位である。
既にこのマラソンを始めて既に一ヶ月が経つと、道から屋根、屋根から風法を利用して壁などを走るようになり毎日飽きずに走れる。しかし壁を迷惑になりそうなのであまりしていないが。余談だが、風法を応用したら空を飛べるのではないかと思い、試したらバランスがとれず頭から落ちかけたことがあり、それからは危ないので試していない。
空騎士になると、ちゃんと空を飛ぶ魔法具が支給されるらしい。それまでの辛抱だ。
(今日は東通りのルートかな)
このハラリヤ街は他の街よりも大きく、大通りから四方にまた通りがある。
毎日変えているわけではないが、その日の気分で走る場所を変えている。
東通りは住宅街で窓から漏れる光があり綺麗などで東通りは通る事が多い。
今日もいつも通りマイルは走っていた。
「こんな夜遅くになにしてんだ?」
ある少年と会うまでは。
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「まだヒリヒリしやがる…」
そんな事を呟きながら空を見上げる少年がいた。少し茶髪が入った黒髪は一瞬日本人に見えるが顔はこの辺りの西洋人風。頬は少し赤く腫れていて誰かに殴られたのがわかる。
「あの糞親父……あぁ、早く騎士になって自由になりてぇ」
ぐちぐちと言う少年はそのまま寝るため窓を閉めようとした時、黒いものが路地を通るのが見えた。
最近は治安もよくなり泥棒もいなくなってきたが、もしかして…と思い少年は窓から身を乗り出しその黒いものを見る。
黒い物と思っていたのは、やはり人で黒いフードを被っていた。そのフードの人は近くの木箱に腰掛けていた。
(やっぱり泥棒か…?それにしては休憩してるようにしか見えないな……。声をかけてみるか、泥棒だったらビビって逃げるだろうしな)
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屋根ダッシュの途中に魔力切れでも起こしたら大怪我になりかねないため、木箱で安全をとって魔力を回復させていると上から声が聞こえた。
「こんな夜遅くになにしてんだ?」
ビクッと聞こえた方向を見上げると出窓から顔をだしている日本人のような黒髪の少年がいた。
(うわ、ビックリした……てかどうしよ…なんか警戒してるし、こんな格好でこの時間だから泥棒とでも間違われたか?)
「もしかして、泥棒か?」
そう思った瞬間に肯定するかのような問いが投げかけられた。
(やっぱり間違われてる……、ずっと向き合ってても誤解されたままだし……)
「いえ、違います。えーっとマラソン?体力トレーニング中です」
マイルがそう言うと明らかに信じてないような目を向けてくる少年。
「こんなよる遅くにか…?」
(まぁ、そんな反応になりますよね…)
自分でもこんな時間にマラソンですと言われたら信じない。
ならばマイルが取る手段は一つ。
「あ、待て!」
(逃げよう……)
後ろから少年の制止の声が聞こえるが無視して屋根ダッシュで家に帰った。あのまま説明してもダメそうなので逃げることにした。
「す、すげぇ……」
止めようと声をかけた時にはもう見えなくなったマイルを見て、少年は呟いた。
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「まぁ、あれだ。疑ってすまなかったな」
次の日、流石に間違われたままは嫌なので昨日と同じ時間に木箱で休んでいたら少年に会えた。どうやら少年の方もマイルの事を待っていたらしく昨日と同じように出窓から顔をのぞかせていた。
そして、昨日逃げたことを謝ろうとマイルが声を出そうとしたら先に何故か少年から謝ってきた。
「え、こちらこそこんな間違われる時間に来てごめんなさい」
(何故か先に謝られたけど誤解は解けてるようだしミッションクリア?)
マイルはお詫びとして地球風クッキーを持って来たのだが、このまま持って帰ってもいいがどうせなら一緒に食べようと風法と身体強化で少年の近くの屋根まで跳ぶ。
すると少年は待っていたかのように目を輝かせた。
「それだよ!それどうやってんだ?!」
「えっ、これですか。魔法ですけど」
「できれば…いや、それを俺にも教えてくれ!俺はカイトだ。お前は?」
「私は……」
そう言おうとした時、突風が被っていたマイルのフードをとり、肩までかかる銀の髪が月に照らされ輝く。
「おっとっと、えーと、私はマイルです」
突風で体のバランスが崩れそうになるがなんとか踏ん張る。
「……………………」
「どうしたのですか?」
固まるカイトにマイルは声をかける。
「えっ、あれだ…お、女だったんだな…」
「少し複雑ですが、女です」
今のマイルは美人なルティアによく似て、今や立派な銀髪の美少女だった。
しかし、カイトのこの反応はマイルにとって前世は男という歴史があるので少し複雑な気持ちになる。
なので、理不尽だがマイルは仕返しに少し微笑みながらカイトに答えた。
すると一瞬カイトが固まるが、すぐにもとに戻り握手なのか手を出してくる。
「じゃあマイル、よろしくな!」
「はい、それよりクッキー食べます?」
カイトが握手を求め差し出した手に、マイルは代りにクッキーを渡した。
スカイズマイル 銀狼丸 @UECCHI
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