第2話 My Greatest
チヨばあの駄菓子屋はもう随分昔に閉店してしまった。
君も私も大好きだったお店。遠くに引っ越したチヨばあは、元気にしているかな。
そんなチヨばあのお店の軒下で、私と君は雨やどり中。突然の大雨に慌てるしかできなかった私を、君はあっというまにここまで引っ張ってきてくれた。
いま君は私とイヤホンを分け合って、静かにとなりに座っている。この状況に緊張してしまうのは、本当に本当に久しぶりにこんなに近くに君がいるから。昔は当たり前だったこの距離も、中学に上がったくらいからかな、どんどん開いていってしまった。
別に嫌いになったわけじゃない。たぶんそれは君も同じ。ただただ、お互いの生活のリズムが重ならなくなっていっただけなんだ。
それでも私は毎日君のことを見ていたよ。それはとても無意識な行動で、私の目は勝手に君を視界に入れようと動く。君がいない世界ではやっぱり不安になってしまうから。君は毎日少しずつ大人になっていて、あのころと比べたらやっぱり身長も高くなっていた。隣に座る君の顔は見上げないと視界に収まらない。
でもやっぱり変わらないこともある。穏やかな話し方、なめらかな動き方、目をじっと見て話したりしないこと。そのどれもが私を安心させる。私に気をつかってそうしてくれているのも知っている。それが何より嬉しくて、少しだけ気恥ずかしい。
君は雨で濡れてしまった私に自分より先にタオルを渡してくれたし、冷えたら困るとつぶやいてブレザーを私にかけてくれた。そのまま奥に進んだと思ったら、明かりをともす自販機でココアを買ってきてくれた。
すごく自信なさげにそれを私に手渡してくる君をみて、ああ私の好みが変わってないか心配なんだな、とすぐにわかった。私の好みはずっと変わってないと知って欲しくて、いや、そんなことを考えずともうれしくて自然と頬が緩んだ。
でもやっぱりわかってほしい。私の好みは変わってないんだよ、本当に変わってないんだよ。それはココアに限らずなんだってことがどうやったら伝わるのかな。
このとてつもなく近い距離にいても、声に出さなければ伝わらない。わかってはいるけれど、やっぱり難しい。昔からずっと抱えていたこの好きという気持ちは、しぼむことなくずっと私の中にいたのに。
だからさ、そんな自信なさげな顔をしないで。君の気持ちを教えてほしい。私の「好き」をこんなに知っている君が、この一番大きな「好き」に気づかないなんてないよね。私の好みは変わってないんだから。
私が声を出す勇気を得るのが先か、君が私の一番の「好き」に気づくのが先か。雨音の遠くの先から、チヨばあの「ガンバレ!」が聞こえた気がした。
君のこと オノマトペとぺ @General
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