しんかいちほー

@Cichla

第1話

 みんなで巨大セルリアンを退治した少し後のこと。海岸に一人のフレンズが流れ着きました。噂を聞きつけて、沢山のフレンズが集まってきました。フレンズはみんな好奇心が強いのです。


「もしもし? 大丈夫ですか?」

 カバンちゃんが不思議なフレンズの顔を覗き込みました。


「すみません、ご迷惑をおかけしまして……」

 少し元気を取り戻したフレンズはお礼を言いました。


「あなたは何のフレンズさんですか?」


 周りで見守っていたフレンズがわいわいと騒ぎ立てます。

「ウロコがあるわね、トカゲのフレンズかしら?」

「手足のヒラヒラは何だろう? ペンギンのフレンズともちょっと違うわね」

「ハカセに聞こうよ、ハカセはどこに行ったの?」


 興味津々なフレンズたちを見上げて、青黒いフレンズは申し訳なさそうに言いました

「私の名前はシーラカンス、しんかいちほーから来たフレンズです。その……私は皆さんのおともだちになれますか?」


「「「しんかいちほー?」」」



 ********************


 シーラカンスは話しました。


 ジャパリパークを囲む海の深い場所に、「しんかいちほー」があります。火山から海に降り注ぐサンドスターは、そのほとんどがあっというまに溶けてしまいますが、大きなかたまりは溶けきらずに海の底にたどり着くのです。


 そこには色々な生き物が住んでいて、降り注ぐサンドスターのかたまりを浴びて新しいフレンズが誕生していました。

 しんかいちほーのフレンズたちは、姿形、言葉や考え方がてんでばらばらでした。


 例えば、ジャパリパークで一番せっかちなオオハチドリよりも遥かにせっかちなのがクロマグロで、つねに動いてないと死んでしまうくらいです。

 そして、ジャパリパークで一番のんきなノドジロミユビナマケモノよりのんきなのがダイオウグソクムシで、ごはんを食べることを忘れて飢え死にしそうになった事もありました。


 あまりに違いすぎて分かり合えないので、フレンズたちは自分に似たフレンズたちと固まって暮らしていました。


 シーラカンスは最近生まれたフレンズでした。

 深くて暗い洞窟の奥に住んでいたのでサンドスターを浴びる機会が無かったのです。


 ところがつい最近、特別大きくて黒いサンドスターのかたまりが船の残骸と一緒に落ちてきて、シーラカンスさんの住処を直撃しました。


 大きなサンドスターを浴びたてフレンズになったシーラカンス。ところが、しんかいちほーのフレンズは誰もシーラカンスに寄り添ってはくれなかったのです。


 「君はウロコがあって体が硬いんだね。狭い所に隠れられないならタコのフレンズにはなれないよ」


 「あなたは泳ぐのが遅いフレンズなのね、わたし達サバのフレンズは群れで速く泳ぐから、あなたを待っていられないわ」


 「お前のヒレは手足っていうのか? さかなのフレンズは数多いけれど、おまえみたいな奇妙なヒレを持った奴は見た事が無いよ、あっちに行ってくれ」


 暗く冷たいしんかいちほーで、シーラカンスはすっかりのけものにされてしまいました。


 寄り添う相手がいないのはとてもさみしい事です。

 シーラカンスは慣れ親しんだ住処を離れ、彼女にとっては眩しすぎる陸地を目指して泳ぎ出しました。そして、強すぎる光に目がクラクラして、陸に上がる前に気を失ってしまったのです。

 


********************


「すっごーい! 水の中で息ができるフレンズなんだね!」

 サーバルちゃんは興奮して言いました。


「そ、そのかわり陸の上では息ができないというか……」


「すごーい、すごーい!」


 申し訳なさそうに言うシーラカンスの言葉も聞かずにはしゃいでいます。


「あはは、サーバルちゃん新しいフレンズに出会えて嬉しそう。

 ……というわけでシーラカンスさん」

 カバンちゃんは微笑みながら手を差し伸べました。


「ようこそジャパリパークへ。あなたはもう、僕たちのフレンズですよ」


「いいんでしょうか? 私、皆さんと違ってヒレがあるしエラ呼吸するし背骨柔らかいし、うきぶくろに油が詰まってキモイって言われるし……」


「へーきへーき。フレンズによって得意なこと違うから!」

 サーバルちゃんも手を差しのばしました。


「あ、ありがとうございます」

 シーラカンスはうつむいて、はにかみながら二人の手を取りました。


「そうなのです」

  「お前は我々のフレンズなのです」


 カバンちゃんの背後、左右からフクロウのフレンズがぬっと顔を突き出しました。


「あ、ハカセ」


「アライさんが寝ていた我々をたたき起こしたのです」

  「とても眠いのです、我々は夜行性なので」


「ハカセ、シーラカンスちゃんの事知ってるの?」


「知っているのです、図書館の本にお前の絵が描いてあるのです」

  「我々は本を読めるのです、かしこいので」


「教えてやってもいいですが、我々はとても眠いのです」

  「詳しくはラッキービーストに聞くのです、我々は眠いのです」

 ハカセたちは首左右にゆらしながら帰っていきました。


 見送るカバンちゃんの横にはいつの間にかラッキーが立っていて、説明を始めました。


「しーらかんす ダヨ。しんかいちほーニ住ム 唯一ノ ケモノふれんず ダヨ」


「唯一?」


「しんかいちほーには 色々ナ ふれんずガ イルヨ。一番多イノハ サカナふれんず ダネ。サカナふれんずハ ケモノふれんずニ チョット似テイルケド 違ウイキモノ ナンダ」


「へえー、海の底にはそんなフレンズがいるんだね」


「しーらかんすハ サカナふれんずニ 似テイルヨ。デモ 系統的ニハ サカナノ仲間デナクテ ケモノニ近インダ」


「け、けいとう?」


「サカナふれんずハ 条鰭綱じょうきこう ケモノふれんずヤ しーらかんすハ 肉鰭網にくきこう ナンダヨ」


「なになにー? カバンちゃん、ボスは何って言ってるの?」


「うー、ボクにも分からないよ……」


「まーまー難しい事はいいじゃないのぉ」

 そう言いながらアルパカさんが暖かい紅茶を持ってきました。


「お友達って事が分かればそれでいいよ、紅茶どぞー」


「あ、ありがとうございます……熱っ!」


「あらあらー、熱いのダメだった?」


「ごめんなさい、しんかいちほーは冷たい場所なので熱いのはちょっと苦手みたいです」


「じゃあ次はアイスティー出したげるねえ」


「なになに、アイスティーって?」


「今度カフェにおいでねえ、そうしたらとびっきりの作ってあげるよお」


「わーい、たのしみー」


 シーラカンスを囲んで、皆は楽しそうに笑いました。


 

********************


 ようこそ ジャパリパークへ。

 ここには けものはいても のけものはいません。


 

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