エピローグ

「ルー! 帰ってる?」

「居るよ、三日ぶりだな」


 あの質素な部屋に、銀色の髪を持った主が戻ってきた。同居しているサーヴァントは、黒い尻尾を動かし、マスターに駆け寄った。無言だが、尻尾が彼の喜びを素直に表している。


「なんだか同じ城に暮らしてるのに、遠距離恋愛してるみたいだ」

「我儘言うなよ、お前がぶっ壊した癖に」

「だけどさ! やっぱりルーに会えないと寂しいんだよ。ね、早く議会に入ってよ、一緒に仕事しようよー」

「無理だ、あんな机に座ってるだけの仕事なんか」


 ガルーが即答するので、フェンテはむうと頬を膨らませた。


「まあでも仕方ないか。狼の姿で眠られても困るし」

「うるっさい! お前にはロールキャベツやらないっ」

「えっ? 今日のご飯はロールキャベツなの? うっわ、俺の好物だ。ルー、ありがとう! 大好きだよ」


 頬にちゅっと音をたててキスをするフェンテ。


「おいっ、それは俺が好きなのか? それともロールキャベツが好きとかいうオチじゃねぇだろうな!」

「えー……どっちも!」

「フェンテ!」


 狼の尻尾がぴーんと立った。フェンテはくすくすと笑う。


「嘘だよ。ガルーのことが大好きだよ」


 ガルーはむむむと言いよどむ。


「ね、今日はもうこれで終わりなんだ。一緒に寝ようよ。いいよね?」


 フェンテが、尻尾の付け根の方をゆっくりとなでる。細い指が変な風になでるので、ガルーの心臓の鼓動が早くなる。


「まったく……サーヴァントに欲情する変態マスターだ」

「変態マスターに変態ないたずらをするサーヴァントはどこのどなたですか? 嫌ならやめるけど?」

「……いやじゃない。言わせるな!」


 ガルーが毛を逆立てるので、くすくすとフェンテが笑う。


「俺、『契約』したのがガルーで良かった」

「それは俺のセリフだ」



 ゆらゆらと揺らめいて、狼が黒髪の人間の姿に変わる。日に焼けた指先が、銀色の髪を撫でながら、その唇にゆっくりと口付けた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

緋色の花折る、黒狼 聡梨加奈 @k_satori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ