ばーべきゅー
@ellora
第1話
「新しい料理を要求するのです。我々はグルメなので」
「『煮る』には飽きかけなのです。我々はグルメなので」
それは巨大セルリアンからかばんを救出、退治した後の事だった。
珍しく色々なちほーのフレンズが集まり、普段は無い交流をそれぞれが楽しんでいるさなか、博士たちはかばんの前に立ち言い放つ。
その言葉の理由をかばんはすぐに理解できた。なにせここ数日、作ってみた料理と言えば『煮る』ものばかりだ。かばん自身料理を面白いと思うし、楽しいのだが、似たり寄ったりのものしか作れないのはどうにかしてみたい。なんとか新しいものを作りたいのはかばんも同じなのだ。
「うーん、でもどうすればいいのかな……せめて本があればわかるんですけど」
あいにく、手元に本はない。博士たち曰く「持ち出し禁止」で外に持って行ってはいけないらしい。食に貪欲な博士たちも食材はともかく、潮風の吹く港まで本を持ってくるつもりはないようだった。
「じゃあ一度、図書館まで行きましょうか? そこで調べてみればなにかわかるかも」
「それもいいのですが、悩ましいのです。バスのこともあるのであまり離れられないのです」
「え、バス?」
「……なんことなのか分からないのです。それよりかばん、新しい食べ方はないのですか?」
博士たちは目を見合わせ、途端に話を逸らす。
不思議には思うがここで聞いてもとぼけられるだけだろう。察したかばんは一度疑問を置いて、二人の要求について考えを巡らせる。
食材は、いくつかあるみたい。前の図書館みたいに持って来たお野菜がたくさん……みんなが食べられるくらいたくさんあるかも。でも『煮る』にはお鍋が足りないかな。えっと、確か前見た本には。
「……じゃあ『焼き』をしてみましょう! 近くにおっきな、固い鉄の板があるといいんですけど」
「よしきたのです。火をつける場所はもう見つけてあるのですよ」
博士は自慢げだ。よほど食い気が強いのか、火を使える場所のリサーチは終わっているのだという。
なかば引き立てられるように案内されるかばんと、三人を見かけたサーバルや様々なフレンズたちが面白半分に加わり、調理場に着いた頃には周りをフレンズに囲まれることになってしまった。興味津々な視線に緊張しつつ、かばんは山盛りの野菜に手を伸ばす。
「ええと、この間『煮る』の時にすごく柔らかくなって崩れた野菜をまず『煮る』にしましょう。それ以外のこういう固いものは、薄く表面を削るように切ってもらえますか」
「わかったよかばんちゃん! よーしみんな、誰が一番早いか競争だよ!」
群がってくるフレンズにかばんは声をかける。予想通り、そこかしこから応える声が上がってきたのでかばんとしても一安心だ。なにせフレンズたちも、面白そうなことには関わりたいのだから。
根野菜などを切るのはサーバルたちに任せ、かばんは手先が器用なフレンズを集めていた。傍らには火にかけた鍋が震えており、何歩か離れた場所でフレンズたちは何が始まるのかとわくわくしている。
「みなさんは『煮る』をした野菜を潰してもらえますか。こう、木の棒とお皿でぐちゃぐちゃにしちゃいましょう」
火にかけていた鍋の中から現れたのは、芋だった。おもむろにすり鉢状にした木の器に入れると、木の棒で潰していく。それを見て同じように芋を潰し始めると、みんなその感触に歓声をあげたり驚いたりと反応はさまざまだ。
「あははー、なにこれー! おもしろーい!」
「これ、なんだかラッコさんの遊びに似てるっす。全部潰すっすか?」
「はい。一通り潰したらこうやって丸めて、少し平べったくして……ヒグマさん、鉄の板の方はどうですか?」
「火でだいぶ熱くなってるな。これでいいのか?」
「大丈夫です。それじゃあみなさん、ここに油を敷いて。切った野菜を載せてみてください!」
しかし、なにせ熱い鉄板だ。フレンズたちは戦々恐々、そうでなくとも警戒はぬぐえない。じりじりと距離を詰めるライオンも普段と違い真剣な顔つきだが、わりと膝が笑っていたりする。
一進一退。かばんがどうしたものかと思案する中、前に出たのはピンと立った長い耳に短いしっぽ。黄色い色彩に黒の水玉模様。間違いありません、サーバルです。
「みんな大丈夫だよ! かばんちゃんを信じよう! うみゃみゃみゃみゃ、くらえー!」
「わああ! 待って待ってサーバルちゃん! そっと置くだけでいいから! 触ったら火傷しちゃうからそーっと置くだけ! みなさんも、火と板に触らないようにしてくださーい!」
鉄板に野菜を叩きつけようとするサーバルをどうにか抑えるかばん。いつものやり取りに張りつめていた警戒感が和らぎ、まずは火を恐れないヒグマが。そして恐怖心を抑え込んだライオンとヘラジカが続くと、他のフレンズたちもどんどん鉄板の上に野菜を載せていく。
「ねぇねぇ、このまぁるいのも置いちゃえばいぃのかなぁ~?」
「あ、はい。片方がいい具合に固くなってきたら、反対向きにしましょう。全体が色が変わったら食べごろみたいです。黒くなると不味くなっちゃうので、気を付けてください!」
手先の器用なフレンズが『焼き』を担当し、そうでないフレンズも若い木を切って皿を作り焼けた野菜を運んでいく。あっという間にあたりに香ばしい匂いが漂い、大歓声の中フレンズたちは思い思いに『焼き』に舌鼓を打つ。特に芋のハンバーグはライオンやペンギンたちにも好評で、かばんと同じく『煮る』ができるヒグマは作り方を覚えろというプレッシャーまで受けているらしい。サーバルやマーゲイなどは熱さに悶絶していたが、それはそれ。
やがて一息がついた頃。かばんは食事を終えて羽を休める二人の元へと向かった。表情を見れば答えはわかっているようなものだが、直接聞きたい。
「どうでしたか? ありあわせのものだけでしたけど……」
博士たちは一度、顔を見合わせた。
「非常に美味、だったのです。これはまた一つ新しい世界が開けました」
「我々は美味しいものを食べられて満足なのです。副賞を渡せないのが惜しいのです」
「あはは、それならよかったです。次は図書館で新しい料理を探してみますね。他にもいろんな料理があるみたいですから」
それからいくらか話をして、かばんはサーバルの元へと足を進める。さっきから呼ばれているから、そろそろ行かないとサーバルの方からやってくるだろう。友達と食べる『ごはん』と、これからの漠然とした未来を想い、かばんは自然と笑顔を浮かべていた。
「ふう……そろそろバスも完成間近。副賞を取りに行く時間が無いですね博士」
「そうですね助手。次までは『煮る』と『焼き』で食い繋ぐのです」
「どうせならかばんが帰ってくるまでに我々で料理を作ってみるのはどうでしょう」
「おお、それはいいのです。本を見ながらならできるかもしれないのです。我々は賢いので」
コソコソと作っていた水上用バスもおおむね完成している。和気藹々とフレンズたちと食事をするかばんの姿に博士たちは多大なエールと、寂しさをもって見つめていた。その中には料理への欲もあるが、一旦とはいえ友と別れるのは、何かが抜け落ちていくようだ。
「……サーバルが笑っているのです。我々はバスの完成を急ぎましょう」
二人はそっと喧騒を離れ、バスの元へと去っていく。
去り際にふりかえった先には、海へ旅立つであろう少女を惜しむように、たくさんのフレンズが最後まで料理を楽しんでいるのだった。
ばーべきゅー @ellora
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