キンシコウ と ツチノコ ~友情のジャパリコイン~

十壽 魅

『あべこべな二人』



 針葉樹林地帯。




「てやぁあぁあぁああぁ――――ッ!!!」



 私はありったけの力を込めて、如意棒を振るう。セルリアンの弱点である石に、如意棒の先端が直撃した。手応えは確か――致命打だ。


 案の定、セルリアンは四角い破片となって周囲に飛び散る。それに混じり、七色の粒子が周囲に拡散した。


 まるで地上で輝く星々。これ見る度に、私の心は安堵に包まれる。



「すう……はぁ」



 煌めく粒子を中で、私は息を整え、深呼吸をした。



 私の名はキンシコウ。


 セルリアンから皆を守るため、ハンターの活動をしている者です。


 今日は少し遠いところまで単独で来ました。ハカセの言うところの、パトロールですね。


「最近セルリアンを見ないと思ったら、こんなところで群れを作っていたなんて……」


 私はふと足元を見る。気のせいかもしれないけど、金色のなにかが。輝いたように見えたのです。


「あら? これは、なにかしら?」





「うぎゃぁあああぁあああ!  そ、そ、それは! ジャ パ リ コ イ ン だ!!!!」





突然耳元で叫ばれ、私はハンターとして、あるまじき悲鳴をあげてしまう。その悲鳴に相手も驚き、更に悲鳴が重なって、カオスな空間が出来上がりました。耳が痛いです(精神的なものでなく、物理的なもので)


 相手は「ゼーハーッ!」と息を上げつつ落ち着きを取り戻すと、なぜか私に文句を言って来たのです!



「な、なんで叫ぶんだよお前は! ビックリしたじゃないか!」


「ビックリしたのはこっちです!! あなたが耳元で悲鳴を上げたから! 私も驚いただけで!」


「え? 悲鳴? 上げた?」


「上げましたよ! 耳元でジャパリコイン! って!」



 相手は申し訳無さそうにションボリして、照れているようで恥ずかしそうな顔で、視線を逸らしつつ謝ります。



「そ、それは悪かったな。ついアレだ。興奮して」


「あなたは?」


「見 て わ か る だ ろ !!」


「え?」


「ツチノコだよ!! まったく昨日のアイツらといい!! 一目瞭然だろぉ!! シャァアァアァアァッ!!!」


「それは失礼しました。気づけなくてごめんなさいね。あなたはどうしてココに?」


「え? なんでって――、 ふぎゃあぁあぁあぁ! わ ず れ で だァ!」



 ツチノコさんは濁音混じりの悲鳴を上げ、突如、顔が真っ青になったのです。私は何事かと思い、「どうしたのですか?」と訊こうとしたのです。でも私はツチノコさんに突き飛ばされ、地面を転がりました。 


「きゃ?!」


 すると私がいた地面下から、巨大なセルリアンが出現したのです!!



「コイツに追われていたんだ! 気をつけろ! このセルリアンはモグラみたいに、地面の中を進むバケモノだ!」


「ツチノコさんも危ないです! 早く逃げて下さい!」


 ツチノコさんに命を救われ、礼を言うよりも先に安全な場所へ逃げるように叫びます。死んでからでは……礼は言えせんから。

 まずは身の安全の確保。とくに奇襲を受けた際は、状況を見極めるため、これが一番に優先されます。


 ツチノコさんも脚力を活かし、木の上へ上がりました。私たちは木の上で合流し、互いの無事を確認します。



「ツチノコさん、大丈夫ですか?」


「あぁ、なんとかな。それよりも、さっきはゴメンな。痛かったか?」


「いいえとんでもない! 命を救ってくれて感謝しています」


「べ、べつに! た、ただ目の前でセルリアンに食われでもしたら、寝覚めが悪いから助けただけだ! それにいつも、ハンターには世話になってるからな。その恩返しをしてやっただけだ! 礼を言う必要はない!! ないんだからな!」


 ツチノコさんは、一見トゲトゲした口調で、素直じゃなさそうに見えます。でも危険な状況下にも関わらず、フレンズのために行動を移せる、勇敢な心の持ち主です。そして、とても……とても優しい人。


 だから私は、彼女を守るために戦うことを決意しました。こんな優しい人を、死なすわけにはいかない。そのために、私はここにいるのだから!



「ツチノコさん、ここは危険です。逃げて下さい」


「相手は地面の下。地中にいるセルリアンだぞ。どうやって戦うつもりだ?」


「前にも似たような相手と戦っています。相手が地面に出てきたところを、全力全開で叩きます!」


「勘と力押しか。さすがはハンター。勇ましいと言いたいが、それじゃあまりにリスクが高すぎる。あのセルリアンの思う壺。土の上はヤツのテリトリーだ」


「なにか策が?」


「おうよ! さっきのジャパリコイン貸してくれるか?」


 ツチノコはコインを弾きながら作戦を説明する。それは彼女達ヘビの子にしかできない戦法だった。


「俺にはピット器官がある。それで地面のどこに敵がいるのか、わかるんだ。だから、奴が攻撃するタイミングと出現地点に、このジャパリコインを落とす。その場所に向かって攻撃しろ!」


「タイミングが命ですね」


「ぶつけ本番だ。できるか?」


 私は迷いもなく頷いていた。不思議だ。ツチノコさんとは初めて会ったのに、不思議と、不安はなかった。


 私は地面に降り、自ら囮になる。


「さぁ! かかってきなさい!」


 先程の奇襲が嘘のように、不気味な静寂が続いた。




 束の間、命を賭けた戦いを忘れそうになるほど、静かな時間が続く。







「逃げたの?」


 その言葉を口にした瞬間、視界に、金色に煌めくものが映る。それは間違いなく、ツチノコさんが落とした目印――ジャパリコインだ。


 私はその場から離れ、急いで木の幹に向かって跳ぶ。その幹を足場に方向転換し、大きく振りかぶる。そして如意棒を、地面に落ちていくコイン目掛け、一気に振り下ろす。



 そしてジャパリコインの真下から、巨大セルリアンが姿を現した!


 如意棒がセルリアンの表面を大きく削る。手応えは確かですが、致命打には程遠い。 幸いにも巨大セルリアンはよろめき、反撃できずに、たじろいでいる。この隙にもう一度!




「野性解放!! 如 意 棒 大 乱 舞!!!!」




           ◆




「汗水垂らして得るものなし! 働き損のくたびれ儲けだこんチキショウ! 目当ての遺跡は見つからないし、あぁ~あ、今日は散々だったぜ。まぁ生きているだけ、みっけもんだがな」


「アハハ、そうですね。ツチノコさんのおかげで、今日は命を救われました」


「大げさな。あれは、お前さんのズバ抜けた反射神経があったから、勝てたんだよ。見てるこっちはヒヤヒヤしたぜ。でもさすがハンター。あれが『隙を生じぬ二段構え』ってやつだな」


「本当は仲間のサポートがあっての、隙きを生じぬ六段構えなんですけどね」


「ろ! 六段構えだと?! す、すす、すごいな!!」


「あそうだ! これ、返すの忘れていました。大切なものなんですよね?」


「じゃ! ジャパリコイン! これ、俺がさっき落としたやつか?」


「もちろんそうですよ。セルリアンが空中に飛ばしたのを、咄嗟に回収したんです。どっかに飛んでいったりでもして、無くしたら大変ですから」


「まさか最初の一撃を喰らわした後の、あの瞬間に?!」


「はい」


「お前……本当にすごい反射神経だな。そう言えば名前、訊いてなかったな」


「申し遅れました。セルリアンハンターのキンシコウです。今日は本当に助かりました、ツチノコさん」


「言ったろ、礼なんていいってさ。そんじゃ俺も改めて、自己紹介といくか! 遺跡あるところに俺様の姿あり! ツチノコだ! よろしくなキンシコウ!」


「はい!」

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