不名誉なことであるように聞こえてしまった

 電話で確認ができたことを、執行部内ですぐに共有する。

 

 ・育休明けの当人に確認をしたところ、そういった事実は全く無い模様

 ・斉藤部長は嫌がらせをするどころか、当人が休みやすいように便宜を図っていた

 ・責任のある仕事からは担当を外したため、その部分を曲解されてしまった可能性がある


 そういった旨をメールで送る。

 清洲さんが仕事を全くしていないらしいという情報については伏せることにした。今回の相談とは別件だろう。

 最初に返信があったのは、意外なことに篠原さんからだった。 


[調査、お疲れさまです。調査内容について清洲さんにフィードバックする際は、はっきりと伝えた方が良いと思います。報告の文面も下記のようにしてはいかがでしょうか。]


 返信されたメールには、そんな具体的なアドバイスが書かれていた。篠原さんの書いてくれた文章案は、斉藤部長はハラスメントを全く行っていない、と断言するようなものだった。

 これまで篠原さんに対しては、朗らかな女性だけど消極的な人、というような印象を持っていた。だから、こんな風に積極的に指導してくれるのは、イメージと少しギャップを感じてしまう。

 とりあえず一ノ瀬さんに、篠原さんからアドバイスをもらって、こういう返信を清洲さんにしようと思っている、という旨のメールを打つ。

 

 一ノ瀬さんからの返事を待つ間、清洲さん自身のことについて調べてみることにした。

 とはいえ、俺は清洲さんのことを全く知らない。これまでどんな部署にいたかも、どういう仕事をしてきたのかも。さて、どこから手をつけたものか。聞くにしても、誰に聞けばいいのだろうか。

「どうしたのぉ? 二日酔い?」

 いつの間にかパートの橋田さんが書記局に来ていた。

 考え事をしながら、ウンウンと小さく唸る俺を見かねて声をかけてくれたのだろう。

「あ、おはようございます。すみません、考え事をしてて」

 組合の経理の仕事をしてくれている彼女は、週に三日程、昼前から夕方くらいの時間だけ働いている。だが、元々この会社に定年まで勤めており、様々な社内事情に詳しい。

 そうだ。橋田さんに聞いてみるか。

「あの、ちょっとお聞きしたいんですけど、清洲功夫さんって人のことを――」

「あら、懐かしい名前ねえ」

 知っていますか? と、最後まで聞く必要もなくなった。

「ご存知なんですか?」

「ご存知もなにも、丸ちゃんの先輩よぉ」


 先輩? どういう意味だろう?

 出身大学が同じだとか?

 元々第三営業部で営業をやっていたとか?


「清洲さんはねぇ、丸ちゃんの二代前の専従書記長よ」


 なるほど。それは紛れもなく“先輩”だ。

 でも、その言葉は、なぜかとても不名誉なことであるように聞こえてしまった。

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