何らかの理由があって前任はそれをしている

 とにかく知識が足りない。

 昨日の経営協議会で改めて実感した。 


 このままでは役に立たない。

 だが、引間さんの復帰をただ待っていても仕方ない。

 今の自分にできることを考えろ。


 焦るなか、少しだけワクワクしている自分に気付く。

 ふと入社したばかりの頃を思い出す。

 会社が扱う商品情報。発注システムの使い方。顧客による請求や納品方法の違い。

 覚えることが多すぎて、どこから手をつけていいのかわからない、あの懐かしい感覚。

 知らない森で迷子になったかのような。

 未知の場所を探検するかのような。


 そんなとき、俺はこれまでどうやってきた? どう対処してきた? OJTなんて便利な言葉で、いきなり戦地に放り出された新兵はどうやって生き延びた?


 そうだ。

 まずやることはだ。


 PCのブックマークを探す。

 サーバのデータを漁る。

 メールの履歴を読み耽る。


 幸いにも前任の引間さんは綺麗にファイルやメールを整頓してくれていた。

 ブックマークには法務系の事例を検索できるデータベースのようなものがあった。

 フォルダの中には交渉の資料が全て入っていた。

 メールの履歴を見れば、会報誌を送るタイミングもわかる。


 まずは前任のやり方をそのまま追跡トレースする。意味がわからないことでも、何らかの理由があって前任はそれをしているのだから。


 そうしているうちに、あっという間に二週間が過ぎ、次の経営協議会の日がやってきた。

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