<勇者Side09>スーパースターに紙が舞う
「あら~、何のことかしら~」
「お前、その露骨に下手なしらばっくれかた、ワザとだな。さっきから」
棒読み気味に答える未来に、思わずツッコんでしまう。実の所、こいつは結構演技派なんで、本気でしらばっくれたら見抜く自信はない。さっきから、露骨に『しらばっくれてます』って感じのセリフを吐いてるのは、単に問い詰められるってシチュエーションを楽しんでるだけだろう。そういうヤツだよ、こいつは。
「まあ、もう誤魔化す気はないからね。いつまでも心配させても悪いし」
肩をすくめながら答える未来。異世界召喚されたばかりなんて状況で見たにせよ、こいつの性格を知ってたら奴隷堕ちなんてあり得ないのに、つい騙されちまったのは結構くやしい。だけど、今問いただすべきは、そのことじゃない。
「それより、大輝だ。確かにあいつは一見すると『頭はいいけどクールで他人に対する思いやりなんて無い』タイプに見えるから『魔王』とか言われると似合ってそうに見えるけど、一皮むいたらとんでもないお人好しじゃねーか! 表向きは『僕には関係ないね』とかうそぶきながら、陰で人助けのために走り回ってたことが何度あったか、数え切れないほどだってのに!!」
「あはは、さすがは拓海。大輝のこと、よくわかってるじゃない」
「笑って誤魔化すな! 答えろ、なんであいつが『魔王』なんてやってるんだ!?」
「それはぁ……本人に聞いてよね。魔王城で待ってるからさ」
「あ、コラ、おい、待て!!」
「それじゃ、バッハハ~イ」
そう言いながら手を振ると、転移魔法の呪文を唱えて消える未来。クソ、逃げられた。まあ、あいつも異世界召喚された勇者である以上、俺が簡単にどうこうできる相手じゃないんだが。
「拓海様、今のは一体……」
エルアーラさんが、恐る恐る尋ねてきた。混乱してるんだろうな。それも当然だけど。
「悪い話と、すごく悪い話と、いい話があるんだけど、どれから聞きたい?」
あえて、こういう言い方をしてみる。
「……その順番に意味がありそうですね。その順で聞かせていただけますか」
うん、エルアーラさんは、やっぱり頭のいい人だ。それじゃ、説明しようか。
「それじゃ、まず『悪い話』からだ。魔王妃フューチャーの正体は、君たちも今見てたとおり、二代目勇者の未来なんだ。魔王の奴隷として囚われているどころか、魔王軍第二の将として人類に敵対してる。魔王妃フューチャーの暴れっぷりも、無敵不死身の勇者なら不思議じゃない。そして、なんで彼女が魔王に協力してるのか。それは、魔王の幼なじみで恋人だからさ」
「それは見ていればわかりましたが……幼なじみ、ですか? 魔王妃と名乗っている以上、恋愛関係であることは不思議ではありませんが……」
「それが『すごく悪い話』さ。魔王グレートシャインの正体は、俺や未来と同じ世界の人間、佐藤大輝なんだ。つまり、魔王も異世界召喚者で、この世界じゃ不死不滅の存在なんだ。それが何を意味するか、わかるだろう?」
「! つまり、魔王は絶対倒せない!!」
そう叫んだエルアーラさんの顔は蒼白になっていた。いや、エルアーラさんだけじゃなく、コニーさんやミーアさんも同じような顔色になっている。そりゃそうだろう。今まで『魔王さえ倒せば世界は救われる』と思っていたのに、それが絶対不可能だってわかったんだから。
そんな三人に対して俺は話を続ける。
「だけど、それが『いい話』でもある。魔王グレートシャインこと佐藤大輝は、俺にとっても五年来の親友だ。それこそ生まれたときからの幼なじみである未来ほど知り尽くしてるワケじゃないけど、だいたいの性格ぐらいはわかってる。それから言わせてもらうと、あいつが『人類を滅ぼす』だの『敵対する相手を虐殺する』だの『暴力で世界を支配する』なんてのはあり得ない。むしろ、そういうことを防ぐために立ち上がるタイプだ」
「だ、だけど、実際、魔王は『人類を滅ぼす』って言って攻めてきてるんだよ! つい先日だって、二つも街が落とされて、ライオン王国なんか王族も逃げ出せずに滅亡しちゃったんだから!!」
二の句が継げないエルアーラさんに代わってコニーさんが叫ぶ。それに、俺はうなずいて答える。
「そう。それが不思議なんだ。だから、俺はこのまま魔王城を目指す。そして、あいつの真意を問いただす!」
「それで、やっぱり魔王が世界征服を目指しているんだったら、どうするんですか~?」
ミーアさんの問いに、俺はきっぱりと答える。
「やめるように説得する。あいつは絶対に『正義』を曲げるヤツじゃない。露悪的に『悪』ぶってみたりする厨二っぽいところは未来とよく似てるんで、楽しみながら『魔王』を演じてる可能性は高いけどな。でも、あいつは警官である父親を尊敬してて、根底では正義と法を守ることを何より重んじてるんだ。本当に人々を苦しめるようなことは、絶対にするはずがない!」
このことは自信を持って言える。
ただ、その上で『正義』と『法』が対立するなら『正義』を取るタイプだというのも事実だ。たとえ違法行為をしても、自分の信じる『正義』を貫く。そういうヤツだ、あいつは。それに、目的のためには手段を選ばないところもある。それだけ見れば、確かに『魔王』としての素質はあるかもしれない。
それでも、あいつが人権を踏みにじるようなことを許すはずがない。特に、他人の自由を奪うようなことは絶対にしないはずだ。だから、絶対に説得できるはずだ。
旅の目的は変わった。でも、目的地は変わらない。
俺たちは、再び魔王城目指して、真っ直ぐに続く街道を歩み始めた。
◆ ◆ ◆
「最初に聞いたときは変な名前だと思ったけど、これは確かに『スーパースター』だな」
俺は山の上から、その街を見下ろしていた。魔物や怪物がうろつく世界、ましてや魔王の本拠地がある魔大陸の街なんだから、城壁に囲まれているのは当然。だが、その城壁の形……すなわち、街の形自体が今までの街とは全然違っているんだ。
「この形式の街は、伝説の勇者様の知識を元に人類側の大陸で築かれた『
「なるほど……」
例によってエルアーラさんが解説してくれる。それを聞いていて、ひとつ疑問が浮かんできた。
「あれ、でも確か星形城郭は火砲の発達に対応するために作られた城塞の形式だよな。この世界って、火砲は無いと思ったんだが?」
「はい。伝説の勇者様はじめ、歴代勇者様から『銃火器』や『火砲』についての知識は頂いていますが、残念ながら我々の技術力では大量の火薬を作り出せないのです。また、わずかに作り出した火薬を使うための銃火器も試作しましたが、冶金技術が低く、すぐに銃身や砲身などが破裂してしまうのです」
「それで、なんで星形城郭を作ってるんだ?」
「勇者様の世界にある『火砲』の代わりに、攻撃魔法がありますから。威力が強く遠くまで狙える中級以上の攻撃魔法を使える魔法使いが、より安全に、かつ相互に補完して魔物の軍勢に集中攻撃できるという利点があります」
「なるほどね」
そう言われれば納得だ。同時に、冶金技術などの技術力が全般的な低いのは、魔法があるせいかもしれない、などと頭の片隅で思ったりする。
「それじゃ、あの街で食料や消耗品だけ買い込んでおこうか」
そう言って、眼下の星形都市へ続く街道へ足を踏み出した。まだ少し遠いけど、夕方になる前には着けるだろう。食料を買い込んでから、今夜は久しぶりに街に泊まりかな。
◆ ◆ ◆
「何だこりゃ?」
俺は思わずつぶやいていた。目の前にポスターが貼ってある。
その中では、黒地に赤い五芒星を描いたシルクハットとスーツを着込んだナイスミドルが、こっち目がけて人差し指を突き付けている。ちなみに、黒地に赤い五芒星ってのは魔王国の国旗だ。
これは、よく似た
そのポスターにはキャッチコピーも書かれていた。
『魔王国は君を求めている! 秘密計画に参加しよう!!』
コピーも丸パクりだな。でも、参加するのは『秘密計画』か。そういえば最初にセイクリッド王国の王城で会ったときに大輝のヤツが言ってたな。
『君は僕の秘密計画の全貌を知って、戦う気力を失うだろうけどね』
『我々がこの世界を征服するための、邪悪な邪悪な秘密計画だよ。この計画が完遂されれば、人類の王国はすべて滅び、我々が世界を永遠に支配することになるのさ』
……わからない。あいつが何を考えているのか。『邪悪な』の方は、まあ、あいつの露悪趣味の表れっぽいから置いておこう。だけど、人類をすべて滅ぼすとか、世界を永遠に支配するなんてのは、まったくもって、あいつの信じる正義に合わないはずだ。それに、俺が『戦う気力を失う』ってのは、どういう意味だ?
「これは、魔王国の宰相であるブラッド伯爵の絵ですね」
俺がまじまじとポスターを見てることに気付いたエルアーラさんが解説してくれた。
「ブラッド伯爵?」
「二百八十年前の戦いでは魔王軍四天王の次席だった狡猾な
「そうなのか……ありがとう。もういいや、宿に向かおう」
『秘密計画』が何なのか気にはなるが、このまま漫然とポスターを眺めていても何にもならないしな。久しぶりに屋根のある所で休んで鋭気を養おう。
そう思いながら宿屋街の方に進んで行くと、何やら道の真ん中に大きな人だかりがあるのを見つけた。
「下がって下がって、手を触れないで!!」
「こら、入るな! これは『秘密計画』に関わる重要な物資だ、触っちゃいかん!!」
何だと!? 気になる話が聞こえたんで、人だかりをかき分けて前列に出てみる。すると、荷物輸送用とおぼしき馬車が横転して、積み荷が道に散らばっていた。
赤い色の小さな短冊だ。何だろう、これは? 遠目に見ても、何だかごく微細な魔力を帯びているように感じられる。
「こら、触るな。コレは名簿と付き合わせて、きちんと対応しているかどうか確認しなけりゃならんのだ! 一枚でも無くなってたら、一から作り直しなんだからな!!」
「騎士殿、野次馬を遠ざけてください! 次の『秘密計画』実施も近いのに、今から作り直しなんてことになったら、時間も足りないし、とんでもない費用の無駄使いになります!!」
治安維持にあたっている騎士が手を出そうとする野次馬に怒鳴っている隣で、輸送の責任者とおぼしき官僚風の男がおろおろしながら叫んでいる。
だが、赤い短冊は風に舞って野次馬の方に飛んでいってしまっている。俺の目の前にも一枚ひらひらと飛んできたので、手に取ってみた。どうやら人名らしき文字が書いてある。その隣には、縦長の長方形が描かれている。何だろう、これは?
「これは、本人認証の魔法がかかっていますね。書いてある名前の人が持ったら、本人であるかどうかを確認できるはずです」
エルアーラさんが微細な魔力の正体を見抜いて解説してくれた。
本人確認ができる短冊。それも赤色。そして、長方形の枠……これは、まさか!?
「
俺は思わずつぶやいていた。
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