第二章 一蓮託唱 PART16



  16.



「同じご病気を……?」


「そうです」


 職員さんは頷き、話の続きを述べていく。


「若い男性の方だったんですが、余命宣告を受けていたみたいでして……非常に熱く語って頂けました。私の親しい人も同じ病気に掛かっており、とても人言では済まされなかったんです」


「そうだったのですね……実はその住職が私の祖母なのです」


「ああ、なるほど。それで……」

 

 彼はネームプレートを差し出しながらいう。


冬野ふゆのといいます。清閑寺の方ですよね? 何度かあなたの姿を拝見したことがありますが、これも何かの縁です。以後、よろしくお願いします」


「こちらこそ。夏川菜月と申します」


 お互いの手を取り合い会釈を交わすと、冬野さんは少しだけ口元を緩めた。


「優しい顔立ち、静さんと似てますね」


「あ、ありがとうございます。祖母のこともご存じで?」


「ええ。先ほどもいいましたが、私の親友が癌に掛かっており、そちらのお寺に何度か足を運んでいました。今はもう……余命いくばくもない状態にいるのです」


 冬野さんの顔に少しだけ影が混じる。


「静さんに書いて頂いたものをそろそろ取りに伺おうと思っていた所だったんですよ。彼女と話せる機会が少なくて、了承を未だ得ていないのですが」


「書を?」


「『焼逐梅しょうちくばい』という書を書いて頂きました。焼け落ちても梅の香りは添い遂げる、死は全てを失うことではないとありがたい言葉を頂きました」


「そうだったんですね……」



 ……おばあちゃん。



 心の中で祖母に再び問う。彼女のいった言葉の真意が今、まさにここにある。祖母の死を持って受け継ぐ人がここにいるのだ。彼女の精神が冬野さんにも宿っている。


「本当にそういって頂けると嬉しいです。実は私も祖母から頂いた言葉の意味を探しておりまして……住職となった今でも、迷っているのです。それでもあなたのように真摯に仰って下さる方がいて……本当に、本当に嬉しいです」


「こちらこそ、あなたには感謝しています。清閑寺の教えを受け継ぐ者がいて、私は本当に嬉しい。彼もきっと、あなたに読経を唱えて欲しかったでしょう」


「彼とは……まさか、春田さんのお兄さんともお知り合いなのですか?」


「ええ、何度か顔を合わせた程度ですが」


 鼓動が高まる。もしかすると冬野さんは全ての事情を知っているのかもしれない。


「あの、失礼な質問をしてもいいでしょうか? お兄さんの亡くなった理由を……あなたは知っていますか?」


「ええ、ある程度は……」


 心臓が加速していき、体中の熱が沸騰していく。ここで話を聞くことができれば、春田さんはきっと救われるだろう。


「すいませんが、教えて頂けませんか? 実はお兄さんの弟さんとも面識がありまして、彼はその理由を知るために、葬儀の仕事に携わっているのです」


「なるほど……、本当に素晴らしい縁だ」


 冬野さんは驚愕しながらも左手の手袋を脱ぎながら再び手を差し出してきた。そこには目を覆いたくなるような火傷痕が残っている。


「私もこの春、彼に出会っています。本当にお兄さんの意思を受け継ぐように熱い方でした」


「そうだったのですね。では……」


 冬野さんは一点して、悲痛に顔を歪ませながら握手を求めてきた。



「ですが、申し訳ない。順平じゅんぺいさんとので私は何もいうことはできないのです」


 

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