第三章 紅葉綾灰 PART16


 16.


 

「あの時の派遣さん? じゃあ、宇藤君、声を掛けたの?」


 弔い客に目が行き過ぎており、司会にまで目が入っていなかった。だが違和感がなかったということはプロだと言い切れる。


「いえ、掛けようと思ったのですが、あいにく暇がなかったんです。でも次の日の回収を終えた後、僕は町屋斎場の施行だったので、ご遺体が焼かれていた現場の近くにいまして。その時に、栞さんが火葬場の職員さんと仲良く話しているのを見掛けました」


 志木さんは火夫さんとも付き合いがあるようだ。火夫さんの名は冬野斗磨ふゆの とうまさん、葬儀業界で彼のことを知らない人はいないほど有名だ。


 彼は元・レスキュー隊員で、数々の要救助者を救ってきた英雄ヒーローだからだ。


「ただの勘だけど、なんか怪しくない?」


「何がですか?」


「消防士だった人が、火夫になって、焼身自殺を図った恋人と仲がいいってこと」


「まあ、確かに。何か関係があるのかもしれませんね……」


「一度、会ってみたら? その子と」

 

 突き放すようにいうと、宇藤君は驚いた表情で私を見た。


「まだ未練があるんじゃないの? こんな所で、そんな話をするくらいだからさ」


「いえ、未練などありません。僕は秋尾さん一筋ですから」


「ひゃ、宇藤君、いきなり何いってるの」


「いえ、これだけはきちんといわせて下さい」


 宇藤君は即答して続けていく。


「自分は不器用な人間です。その件以来、同僚とは仕事上だけの付き合いにしようと思って、距離を取ってきたんです。それでも、秋尾さんの誘いを受ける度に、どんどん惹かれていきました……」


 宇藤君は業務以外、他人と交流をしてこなかった。だからこそコミュニケーションが大事なわが社では、冷たい仕打ちを受けながらも、黙々と練習をこなすうちに実績と信頼を積み重ねてきた。


「自分ができることは生花祭壇のクラスを上げることしかありません。大猿先輩のように何でもできる訳ではないので、技術だけでも彼に追いつきたかったんです」



 ……知ってるよ、それくらい。


 

 心の中で宇藤君に突っ込む。入った当初、花にしか興味がなかった彼が人に技術を教えたいと思うようになったのは、木山さんの影響だと思っていた。だが彼を意識するようになってからは、彼の目標が私の元カレだったとわかってしまった。



 彼の菊のラインが祐一のものに似ていたからだ。



「宇藤君。ごめん、そんな言い方じゃ全然伝わらない」



 カクテルを飲み干して、大きく告げる。



「大体さ、こんな所に連れ込んで置いて他の女の話をするなんて、失礼だと思わない? 期待してた私が馬鹿みたい」


「す、すいません……」

 

 宇藤君は大きな体を縮こまらせて、身を震わせる。



「結局どうしたいの? 宇藤君は。私のこと、嫌いなの? 好きなの?」



「好きです。だから自分のことをきちんと話しておきたくて……」


「馬鹿じゃないの。別にそんな話聞かなくても、嫌いになったりしないよ。過去は過去でしょ、例え別の人からそんな話を聞いても、私は何とも思わないよ。拗ねることはあるけど……」


「本当にすいません」


 宇藤君は私を慰めるように背中に手を掛ける。


「自分は大猿さんの話をたくさん聞いています。だから不公平な気がして、きちんと話して置いた方がいいかなと思いまして……」



 ……そういう所が不器用っていうのよ。



 心の中で突っ込むが、言葉には出さない。きっと宇藤君なりの誠意の見せ方なのだ。自分だけ隠しているような気がして、嫌だったのだろう。


「それでどうしたいの」


「どうしたいっていうのは?」



「私とどうなりたいかってことッ!」



 大声でいうと、彼は呟くような小さな声でいった。



「秋尾さんには地元に帰って欲しくないです……」



「じゃあ私はこのまま、変わらずここにいたらいいの? 残念だけど、それは無理。一人でここにいるなんて、もうできない」


「じゃあどうしたら……」



「だからどうしたいのよっ! はっきりいって!」



「自分はッ!」



 宇藤君はカウンターから立ち上がり私の方を見た。



「秋尾さんと一緒にいたいです! 未だ大猿さんに技術も心構えも達していませんが、それでも一緒にいたいです。これからも成長していく予定ですので、よければ見ていて欲しいんです! 一生!!」



 彼の瞳に祐一と同じものを見る。このまま頷いてしまいそうだ。



「んー、どうしよっかな」


 

 気持ちは決まっているが、ここで即答するのは惜しい。きっとここ以上に彼の素直な声は聞けないからだ。


 宇藤君から目を離し周りを眺めると、木山さん達がにやにやしながら私達を覗いていた。



 ……あの野郎達、随分と前から見ていやがったな。



 下衆な笑みを浮かべる彼らを見て怒りを覚える。だがここで返答しなかったら、彼は一生私に告白などできない気もする。



「よし、宇藤君。場所を変えて飲み直そうか、私の部屋でどう?」



「え、秋尾さんの部屋ですか!?」


 固まる彼を眺め、後ろの男達を眺めると、悔しそうに歯ぎしりしていた。きっとばれていないつもりだったのだろう。


 私は彼にべったりと体をくっつけてみる。胸を押し付けながら彼に吐息を掛けると、彼は顔を真っ赤にして立ち竦んだ。



「うん、そうしよ! 夜通し、大切な話をしようじゃない。体も使ってさ♪」


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