第三章 紅葉綾灰 PART15
15.
「僕が出会ったのは、式場に花を搬入していた時でした。お兄さんが担当の式で、その補佐に彼女がついていました」
宇藤君はゆっくりと話していく。
彼女の名は
「それで……お兄さんの話を聞いているうちに、彼女との交際が始まったの?」
「交際といえるものでもないのですが、たまに会うくらいでして、仕事の関係以外ではほとんど会ったことはありません」
宇藤君はグラスをお代わりしながら話を続けていく。
「栞さんは社交的で仕事を取るために各方面に営業に出ていたのですが、ちょっとやり方が派手な所があり、常々お兄さんにお説教を喰らっていたみたいです。他部署のお客さんとも飲みにいったり、自由奔放な部分がありましたから」
「それはお兄さんに振り向いて欲しいかったってこと?」
「そうだったんだと思います。僕と会っている時も、お兄さんの話がほとんどでしたから……」
子供が愛情を欲しがるように彼女は順平さんに縋っていたのだろう。でも彼は社会人として仕事とプライベートを分けていた。
それが彼女にとって愛情がなくなったと勘違いした原因なのだろう。
「それで栞さんはどんどんエスカレートしていって……業者の僕にまで声を掛けるようになっていきました。お兄さんとも直接面識はあったのですが正直、会社内に火を点けて自殺をする方だとは思えないんですよね」
「私もそう思う。実はなっちゃんとこの間、話していてね……」
春田順平さんが彼女の祖母と会っていた話をすると、宇藤君は再び声を上げた。
「実は栞さんのお母さんも、癌に掛かっていたようでして、夏川さんのお祖母さんに会ったことがあるみたいです。彼女もまたウェディングプランナーとして同じ式場で働いていたみたいですよ」
「そうなんだ。何か、色々と繋がってきたね」
「そうですね」
……お兄さんはどうして亡くなったのだろう。
頭の中で彼の人物像が再び浮かび上がっていく。彼の死にはきっと真の理由がある。
癌にかかっていたとしても、恋人に裏切られたとしても、仕事が忙しかったとしても、会社で自殺する人には思えない。火をつけなければならない理由とは何だろう。
「その人は今、どこにいるの?」
「実は秋尾さんもあったことがありますよ」
「え、どこで?」
「斎場です」
宇藤君はきっぱりと告げた。
「春の時、東京典礼さんで親方を見送ったじゃないですか。その時の派遣の司会です」
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