第四章 焼逐梅(しょうちくばい) 冬野斗磨(ふゆの とうま)編

第四章 焼逐梅  PART1

  1.



 ……今でも、この手が覚えている。



 寒さに震えていたはずの手が焼きつくされていく瞬間を、俺の左手と肌が覚えている。



 ……今でも、この手が覚えている。



 寂しさに震えていたはずのが離れていく瞬間を、俺の燃え尽きた左半身が覚えている。


 

 ……死ぬべきなのは俺のはずだった。救助する側が救助されるなんて、俺は一体どこに向かえばいい?



 麻里まりの幼い鳴き声と手のぬくもりが今でも心の中で燻ぶり続ける。助けることができたはずの命が一瞬にして消えていく絶望に、俺の心は燃え尽きた。


 だからこそ火消しという職業を続けることができずに、第2のステージを選ぶ他なかった。



 ……俺はまきだ。梅雪みゆきの最期を締めるためだけに命を燃やしている死にぞこないだ。



  妻への懺悔を込めて続けてきた火葬技師として20年。火と共に歩んできた俺の仕事は定年を迎え、この贖罪と懺悔もようやく終幕を迎える。



 ……長かった冬も、もう終わろうとしている。あともう少しの辛抱だ。



 焼逐梅しょうちくばいとして、変わり果てた彼女を夢見ながら、今日も俺は彼女の見舞いに行く。



 願わくば、同じ火で燃えることを望みながら――。



 

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