第一章 桜花乱満 PART18 (完結)
18.
「春田君、ちょっといい? 今からご宗家さんの所に行って来て貰っていい?」
「わかりました。死亡診断書も頂いてきたらいいんですよね?」
「うん、よろしく頼むね」
会社の車に乗り込み、土手沿いを走っていく。どこを見ても満開の桜があちこちで咲き乱れている。ひらりひらりと舞い散る桜に、先日あった葬儀を思い出す。
……京子さん、元気にしてるかな。
彼女から受け取った手紙には、兄貴が写っている結婚式の花見の写真だった。そこには皆、桜に劣らない満開の笑みがあった。
葬儀は様々な順序を得て故人の死と決別する。別れることは一瞬ではなく、様々な過程を得ることによって、段階的に繋がっていく。その過程があるからこそ、人は前に進めるのだと改めて思い知った。
……兄貴、俺は絶対にあんたを超えてみせるからな。
花見をしている人たちを眺めながら思う。死人は無敵だ。超えることができるかどうかはわからないが、俺は必ず兄貴に胸を張っていえるよう、今後も頑張っていくつもりだ。
……俺は今、生きている。兄貴を弔う気持ちがある限り、生きていると確信できている。
対面する墓はあるのだ。時間は掛かるだろうが、この道を進んでいけば必ず到達できると思っている。
きっと兄貴の死よりも辛いことがこの先待ち受けているだろう。人の死を乗り越えなければならないこの仕事が楽なはずがない。
だが火葬場が廻っている限り、俺は今日も一人の死へ立ち向かい、宗家と共に死を乗り越えていきたい。
この思いを忘れずに生きていくことが俺の使命であり、仕事だからだ。
土手を超えると、小さな河川が桜の花びらで満ちていた。生きた花びらが美しく乱れ輝きながら、下流へと流れていく。何だか思い出まで桜色に染め上げてくれるようだ。
……また来年も、この思いを忘れずにいられますように。
ひらひら、ひららと落ちていく桜の花びらに思いを託しながら、俺は再び車のアクセルを踏み込んだ。
次の年の桜が再び、咲き誇ることを願いながら――今日も一日、頑張ろう!
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