さばんなちほーにさよならを

亜実no3

第1話

 かばんちゃんは、か弱いフレンズだった。

 私が狩りごっこで追いかけると、すぐに追いついちゃった。がけを降りるのも苦手で、滑って落ちちゃった。

 ちっちゃいセルリアンから逃げるときも転んでいた。私がいなかったら食べられちゃったかもしれない。

 木登りだって、まだ上手くできない。


 もちろん、かばんちゃんにだっていいところはたくさんある。休んだらすぐに元気になる。頑張りやさんだ。だけど、逃げることが出来なかったら、いつかセルリアンに食べられてしまう。

 かばんちゃんを独りにするのは心配だった。



 ただ、かばんちゃんは不思議な力を持つフレンズだ。

 四角い箱を開けて、紙を取り出した。私はそれがあることにすら気付かなかったのに。

 私を助けるのに、「紙ひこーき」を作ってくれた。かばんちゃんは茂みの後ろに隠れていながら、私を助けてくれたんだ。

 そんなことが出来るフレンズには初めて出会った。



 - - - - -



「じゃあ、行きますね」


 別れ際にそう言って、かばんちゃんはじゃんぐるちほーに向かった。何度か振り返り、前を向いて歩き出したけれど、また立ち止まっていた。怖がっているような声も聞こえた。


「大丈夫かな、かばんちゃん……」


 かばんちゃんが遠くなっていく。遠くにいるかばんちゃんはちっちゃかった。あんなにちっちゃかったら、きっとすぐセルリアンに食べられちゃうよ。



 じゃんぐるちほーにだって、確かにかばんちゃんを助けてくれる優しいフレンズはたくさんいると思う。

 だけど、もしフレンズに出会う前にセルリアンに会っちゃったら? 「今日はセルリアンが多い」ってカバも言ってたし、まだちょっと危ないよね。

 それにもしかすると、出会えたとしても、かばんちゃんはじゃんぐるちほーのフレンズに話しかけられないかもしれない。「食べないでください!」なんて言ってしまうくらいに、こわがりだから。



 かばんちゃんは素敵なフレンズだ。

 私の手元にあるこのたくさんの紙ひこーきは、かばんちゃんがくれたもの。私が作ったものもあるけど、私がこれを作れたのは、かばんちゃんのおかげだ。かばんちゃんがくれたようなものだ。

 この紙ひこーきを飛ばしてみる。かばんちゃんのひこーきは遠くまで飛ぶのに、私のはあんまり飛ばない。くしゃくしゃだからなのかな。かばんちゃんの不思議な技で作るからこそ、あれだけ飛ぶのかな。


 かばんちゃんは、もっとすごいことも出来そうだ。私は多分、まだかばんちゃんのことをあんまりよく知っていないのだろう。だって今日出会ったばっかりだから。まだまだ分からないことだってたくさんあるはずだ。



 そんなかばんちゃんを、このまま送り出しちゃっていいのかな。私、別れたままでいいのかな。



 それに……もっと、知りたい。

 私はもっと、かばんちゃんのすごいところを見つけたい。かばんちゃんが何のフレンズなのかも、すごく気になる。




 まだ、かばんちゃんの歩く音は消えてない。

 さっきより小さくなってるけど、まだ聞こえている。


 追いかけよう、かばんちゃんを。

 私はかばんちゃんと一緒に旅をするんだ。


「待っててかばんちゃん、今行くから」


 私はさばんなちほーにお別れをした。

 じゃんぐるちほーと、まだ見ぬその先へ。

 かばんちゃんだって、ひとりよりもふたりの方が心強いはずだよね。




 かばんちゃんの後ろ姿が大きくなってきた。

 じゃんぐるちほーは木や草がうっそうと茂っていて、いろんな音が聞こえてきた。親切なフレンズもたくさんいそうだけど、怖い誰かもいっぱいいるかも知れない。やっぱり、ついてきてよかった。


 そっと後ろから忍び寄る。

 私はひょいっとかばんちゃんの前に顔を出した。



「食べないでくださーい!!」


 かばんちゃんがびっくりした顔で言う。ああそうか、かばんちゃんは怖がりなんだったね。



 すぐにかばんちゃんは私だと気付いて、安心したような顔をした。「どうして」って聞かれちゃったけど、理由がいろいろありすぎて、なんて答えたらいいのかよく分からなくて、とりあえず「気になるから」とだけ答えた。

 かばんちゃんの「さっき別れたばっかりじゃない」の声が嬉しそうで、やっぱりついてきたのは大正解だと思った。




 かばんちゃんに再会したあと、ボスに会った。

 ボスがかばんちゃんに話しかけていて、すごくびっくりした。私はボスと喋れたことがないし、他のフレンズが喋っているところも見たことがない。ボスは、かばんちゃんだけに話しかけたんだ。私はまた一つ、かばんちゃんのすごいところをを知った。

 まだまだ、かばんちゃんには不思議なすごいところがあるはずだ。見つけるのが楽しみだなあ。


 それに、かばんちゃんは、まだ私が助けなきゃいけないみたい。

 ボスが話してる間に寝ちゃったけど、かばんちゃんのその眠り方はすぐに逃げられなくて危ないよ。ちゃんと安全な眠り方を教えてあげなきゃ。



 まだまだ教えたいことも、知りたいこともいっぱいある。私はかばんちゃんについていきたいんだ。

 だから私は、眠るかばんちゃんに向けて言った。


「これからもよろしくね、かばんちゃん」


 旅はまだ、始まったばかり。

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さばんなちほーにさよならを 亜実no3 @amino3

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