第2話「初めてのおしゃれ」
「ねえねえ、ギンギツネ、今度はこっちの服を着てみてよ!」
「そっちもいいわね、着替えてみるわ!」
扉の先で出会ったアオアズマヤマドリのフレンズに訳もわからず洋服店へ連れ込まれたギンギツネはまんざらでもない様子で着ていた服を脱ぐと手渡された青いチュニックを手に取り着替え始めていた。
「そういえばアオアズマ、ここがどんなところか知ってるの?」
「あぁ、ここは人が寝たり食事したり遊んだりする予定の場所だったみたいなんだ、まぁ例の異変でヒトはいなくなって今はラッキービーストがここを守ってるようだよ」
「そうなのね、それにしてもヒトってこんな簡単に毛皮を替えられるなんて、それにいろんな種類があるなんて羨ましいわ。」
「こういう楽しみもこの体になれたからこそ楽しめたものだよね、まぁこれが取れる事には驚いたけど」
そう言って青色のコートの隙間から覗くフレンズとしての服をつまむアオアズマヤマドリと、袖を通したチュニックを着て楽しそうに一回転するギンギツネ。
その様子をキタキツネは遠目に見ていたが、言いようのない感覚が湧き上がるのを感じると、ふと目に入ったオープンショルダーのトップスと目についたスカートを手に取っていた。
「今度はそうね、あのひらひらしたのが一杯ついたのも着てみたいわね、それと今度は青色以外のやつも着てみたいのだけど何かいいのはないかしら?」
「えぇ~青い色のほうが絶対可愛いよ~まぁいっか、ちょっと待ってて!」
そう言って飛び出して行ったアオアズマヤマドリを見送るとギンギツネは視界の端に見慣れた茶色の尻尾が棚の影から見え隠れするのに気付いた。
「キタキツネ、ごめんなさい、あなたはあんまり興味が無くて楽しくなかったわよね、次のやつ着たらすぐ行くから少し待っててくれる?」
「興味が無い…訳じゃない…」
キタキツネは若緑色のオープンショルダーに空色のフレアスカートを身につけ袖を弄りながら出てきたどことなく恥ずかしげなキタキツネを見てギンギツネの脳内にあるスイッチがカチリとアオアズマヤマドリ側に切り替わるのを感じた。
ギンギツネはキタキツネのそばにより、全方位から眺め終わると無言で棚の衣服をあさりはじめた。そして棚からたくさんの衣服をキタキツネの前に持って来たギンギツネの顔はキタキツネが見たこともないくらいにきらきらと輝いていた。
「え、さすがにそれ全部は疲れるから…」
「大丈夫、すぐ終わるからちょっと我慢してくれないかしら!」
「おや、キタキツネちゃんもやっぱり興味あったのか~、もう!最初に言ってくれれば良かったのに~」
戻ってきたアオアズマヤマドリも楽しそうに走り寄ってくるのを見てキタキツネは自分がおもちゃにされることを察し、きびすを返そうするが無情にも二人に肩を掴まれ、店の奥に引きずられていった。
だがその顔はいつもの気怠そうな顔では無く、始めてギンギツネと出会って一緒に遊んだ時のような笑顔だった。
ちいさなファッションショー 柱本エルリ @hasimotoERL
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