ちいさなファッションショー
柱本エルリ
第1話「とかいちほー」
「ギンギツネ、これって確か…」
「そうよ、カバンの作ったソリ?とか言ってたやつよ。あの時は逃げるので必死だったけど、これに乗るのって実は楽しいんじゃないかしら?」
珍しくゲームから手を離して退屈がっているキタキツネを連れてギンギツネは雪山のある木の下を訪れていた。
「でもカバンがいないよ…僕たちだけで大丈夫?…」
「あなた、前動かしてたときうまく操れていたじゃない、あなたなら今回も同じようにすれば大丈夫に決まってるわ。さ、私が勝手に進むまで押してあげるからあなたは乗って準備しときなさい」
「ギンギツネがそう言うなら……だらだらしてたいな~」
そう言いながらソリに乗り座り込むキタキツネであったがその尻尾がいつもより忙しなく左右に揺れているのをギンギツネは見逃さなかった。
そしてギンギツネが押し始めるとゆっくり、そして確実に加速し始めた。
「ギンギツネ、早く乗って…!」
「わかってるわ…よっと!」
ギンギツネが雪を蹴りソリへ飛び乗るとソリは肩を寄せ合った2匹の狐の動きに合わせて雪の丘を通り抜けると右へ左へと二本の線を斜面に描いていった。
「ギンギツネ!もっと右によって…」
「こ、こうね!わかったわ!」
ギンギツネがキタキツネの方体を寄せると右に、
「ギンギツネもっと左…曲がりきれないよ…」
「わかったわ!」
キタキツネがギンギツネによりかかることで左に
「キタキツネ、どう私の思った通りだったでしょ!」
「うん…ゲームみたいで楽しい…」
「もう、あなた本当にゲームが好きね、じゃあこのまま真っ直ぐ行ってあの丘を越えていきましょう」
「わかった…」
風を切りながら丘に進路を向けるソリだったがこれが大きな失敗であることを気付いたのはその丘を越えた直後だった。
2匹の狐は経験的に体でソリを動かす方法は知っていたが慣性、つまり物理法則を理解し予測するほどの力を持ってるわけではなかった。
高速で上り坂に突入、その上にその先が急激な下り坂だった場合起こる事象は一つである。
飛翔
「きゃぁぁぁ!」
「あぁぁぁ~」
空中に放り出された二人はお互いの体に手を回すと、たっぷり10秒ほど滑空したのちその先にあった不自然に雪原に飛び出た雪の小山に直撃した。
「けほっ、けほっ、キタキツネ、大丈夫?」
「耳に雪が…冷たい…」
ギンギツネは頭に雪を乗せたキタキツネを起き上がらせるときょろきょろと辺りを見回した。
どうやら雪の壁を突き抜け内側の空間に飛び込んだらしく雪に埋もれることはなく地面に広がる雪のおかげでお互いけがしてないことを確認すると二人は、奥にこの雪山には似つかわしくない、妙に整えられた道がその先に続いているのを発見した。
「キタキツネ、ちょっと一緒に行ってみない?」
「なんだか港の遊園地みたい…カクカクしてしてる…」
その先へ進み始めたギンギツネ、そしてその服の袖を掴んでついて行くキタキツネはゆっくりと下へと続く道を降りていった。
「ギンギツネ、キタキツネ、ここから先は立ち入り禁止ダヨ、立ち入り禁止ダヨ」
「こんな所にラッキービーストがいたのね、でもここには人がいないのに何で私たちに話してくれてるのかしら」
進んだ先にあった扉の前にいたラッキービーストは二人の前に出るとその小さな体で二人の進路を塞ぎ続けていた。
「どうするのギンギツネ、ダメって行ってるよ…」
「そうね……あっ、そうだわ」
そう言うなりギンギツネはラッキービーストの前にしゃがみ込んだ。
「ねぇ、本当に私たちを進ませてくれないの?実はカバンに頼まれてこの先に行かなくちゃいけないの、もし進ませてくれなかったらカバン、とーっても困ってしまうでしょうね。」
ギンギツネが悲しそうに手を口に当て目線を逸らすとラッキービーストは警告をやめギンギツネの目を見た。
「暫定パークガイド、名称カバンを確認……ギンギツネ、キタキツネ、用事が済んだらすぐ帰るんダヨ。」
そういうとラッキービーストは道を空けるとギンギツネは立ち上がり、キタキツネの方へ振り向くと誇らしげな笑顔で口を開いた。
「さ、行きましょ!」
「ギンギツネ、ずるい…」
「べっ、別に悪い事するわけじゃないんだからいいじゃない。ちょっと覗いたらすぐ帰るから。」
ジト目でついてくるキタキツネから逃げるようにギンギツネは歩幅を取ると扉の先へ進んでいった。
看板には大きな文字が今も色あせることなく輝いていた。
『おかえりなさい、こちらはとかいちほーです。』
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