優等生の羽休め 鮎川七海子
歩いているとたまたま縦に長い鏡があって、そこで全体像を確認した。
色んな事件やらを解決し、暴力団体との闘争に駆り出されたこともあった。
当然無傷で解決出来るわけもなく、血だらけで家に帰宅したこともあった。
そんな傷だらけの体なのに、鏡に映る自身の体は傷1つ存在しなかった。
手のひらは一回り小さくなり背が縮み幼い尻は小さく柔らかそうだ。
(本当に子どもになっちゃったんだな……今まで実感なかったけど……)
唖然呆然とする態度をすぐに引っ込めて、解決するぞー!!! と左手で握り拳を作り気力を高めていく。
(10歳くらいか? そもそも住民登録とかどうなってるんだ?)
見た目は10歳だけど、精神は30代ぐらいのおっさんだ。
無垢な子供のように走り回ることが出来るわけもなく、その辺りが気になってくる。
そもそも俺のお母さんとお父さんは何処に行った? 神様の力を使って過去に戻ったのだとしたら両親は健全のはずである。
家の中を見る限りでは、お母さんとお父さんがあそこに居るようには思えない。
住所が違っているので居なくても当然かもしれないが、見た目は小学生の俺に両親が見当たらないのはヤバイだろう。
いつもやってる家事をやればいいと思われるかもしれないが、あくまで世間体で見た時のことを話している。
(孤児院に入れられたりしてな……従来の日本の法律なら連れて行かれるのは当然だが……)
「あれ?
いきなり下の名前で呼ばれて、背筋がゾクッとなった。
一緒に女性警官と仕事したことあるが、下の名前で呼ばれたことが一度もなかった。
「今日学校だよね? どうして制服着てないの?」
俺の顔を覗き込むように回り込んでくると、その大きな瞳をパチパチと瞬かせながら俺の恰好が不思議でならない様子だ。
田舎育ちで虫取りとかしてそうな半袖短パンを穿いて、明らかにサボるような見た目をしていた。
パッチリと首元までブラウスを留めて、この女性は学校では優等生で通ってるんだろうと簡単にわかる。
俺が刑事だからではなく、誰が見てもそのような印象を受けるだろう。
(学校なんて……懐かしい響きだ……)
この懐かしい匂いのこともあり、学校に行きたい衝動が湧いてくる。
小学校は楽しかった、中学校も楽しかった、高校は勉強に追い込まれていた……大学は警察学校は……苛酷過ぎてあまり思い出したくない。
苦笑いを浮かべ側頭部を掻いた。
「いやいや苦笑い浮かべてる場合じゃないよ!!! 学校どうするの?」
とは言っても……肝心の制服が見当たらないのだが。
俺が最初に居たあの場所に制服らしいものはお見受け出来なかったが。
よく探したらハンガーに通して壁に掛けている制服があったかもしれない。
そもそもここまで走ってきて、帰り道覚えていないのだが。
(この少女に聞いたら……おかしな目を向けられるだろうか?)
「そもそもなんで喋らないのよ」
可愛らしい少女の顔がどんどん訝しい表情に変化していき、慌てて口を開いた。
「えっと」
自分でもビックリなほど掠れていた。
この世界に来て、ろくに水を飲まなかったからだろう。声の出し方を忘れてしまった。
「プププッ、何その声!!! 私のおじいちゃんみたい!!!」
きっとおじいちゃんと言うからには年老いてるんだろう、俺はそこまで年齢を重ねてないぞ!!!
「あっ! 怒っちゃった? ごめんごめん」
こいつ見た目以上に会話出来るぞ、お世話係の幼馴染かっ!!
人見知りなのかな? 大人しい女の子かな? と思ったけど、その逆に位置する性格の女の子だったとは……
「んもう!!! いつから無口キャラにイメチェンしたのよ」
「もしかしてお節介キャラか?」
「えっ? しゃ……しゃべった……」
喋ったら喋ったで驚かれて、第一印象との乖離にやりづらい。
「本当どうしちゃったのよ大和、凄くギクシャクしてる」
(俺からすると初対面だし……)
君は僕のことを知ってるように当たり前のように内側に潜り込んでくるけど、君のことを知らない僕は、そんな簡単に打ち解けられない。
そもそも名前も知らないし、名前覚えてなかったら傷付くんじゃないかなとか躊躇っちゃうし。
(でもこのまま話が進まないのは、もっとまずいか)
こういう時は、男からだよな?
「悪い……ちょっと記憶が混濁してて」
「なんで初対面みたいなフリなの?」
「フリじゃなくガチで初対面なんだ、記憶喪失みたいな状態なんだよ、信じてくれないかもしれないけど」
「記憶喪失ね……つまりどうしても私の名前を聞き出したいってことか」
「何かと不便じゃないか? だから名前をもう一度教えて欲しい」
恐縮する俺に、少女は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「そんなの……知らなくて当然だよ」
「えっ?」
「だって私と大和君友達じゃないし、ただの同級生、違うクラスだしね」
「はぁ?」
「たまには私も息抜きしたくなることがあるんだよ、優等生を演じるというのも疲れる」
背をグッグッと伸ばした。
「私の名前、
ニィッ!!! と笑う姿が凄く愛らしかった。
優等生にしては変わってるが魅力的な女の子だ。
ピンクの髪に妙に惹き付けられて、絶対忘れることが出来ないだろう。
呪いの章~狂った街の人々達 バーニング @kyoukiutubaaninng
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