編集者のカッコウ

s286

第0話

 カウベルの耳障りな音に顔を僅かにしかめながらドアをくぐった喫茶店。

店内の隅の席には、おちつきなく周囲を見回すモズがいた。

「やぁ、お待たせしました。最近、編集部に移動になったカッコウと申します。短編でしたよね? 原稿、拝見しますね」

 コーヒーを二つ注文し終え、挨拶もそこそこに原稿を受け取る。こういう場合、時間をかけて良い事は何一つ無いので私は、たたみ込むていで相手の原稿を一気に読み終え嘆息たんそくする。小心者なのか? 私のそれにモズがビクッと反応したように見えたのが笑える。

「拝見させていただきました。中々に読ませる文章ですよ。素晴らしい」

 モズの表情がパァーーッと明るくなる。瞳は輝き口角が上がったところを見計らって私は彼に苦言を呈するために頭をフル回転させる……。

「ただし、筋が拙い。主人公がステレオタイプすぎる。文章の達者さで読まされてはしまいますが、オチも弱い。この結末を目にした読者は『なーんだ』と思うでしょう。それでは次に繋がらない。主人公を練り直して物語として破綻していてもいいので……」

 もち込みのモズの表情が、面白いほどにモノクロームになっていく。

「大丈夫ですか? とにかくこれは、預かれません。けれどもアナタは筋が良いように思いますから名刺は差し上げませんが『這い上がってきてください』」

 コーヒーに一口も手をつけず、モズは一礼して喫茶店を出て行った。入れ替わりにデブ専ホモバーのホストみたいなホオジロが眠そうな目をこすって喫茶店に現れる。私は笑顔で手を振って彼を招く。

「あ!ホオジロさーーんコッチコッチ! 編集部で待っていても良かったんですけどね。エヘヘ……コーヒー、先に頼んじゃいましたょお、すっかり冷めちゃって……さーせん。え?僕の前にもち込みでモズって人がいたんですか? ……さぁ? みかけませんでしたねぇ。それより今回のヤツ自分でいうのもナンですが傑作なんですよぉ……えぇ、是非!」


 カッコウは、他者を……排除する。


 

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