恋人
私が高校生になって、部活のお陰で男友達が増えた。
父の件もあり自分より年上の男性や威圧的な男性などは怖いと思うのだが、同年代や年下の男性なら友人として付き合うことができた。
私が入部した部活は先輩すら居ないような状態で部員数が少なく、入学した1年生ばかりという状態でスタートしたせいか男女問わず仲が良くなった。
昼食時はホールに集まって一緒に食べたり、休日は待ち合わせして遊びに行ったりしていた。
特にゲームが好きな子が多く、部活がない時は一緒にゲームセンターに行き、対戦ゲームをしてみたりリズムゲームをしてみたりしてワイワイ過ごすことが多かった。
その中で、特に仲良くなった男の子が居た。
同級生だったが違うクラスで、趣味が同じなので話が合い、部活動を通して次第に仲良くなった。
身長は高かったが男らしいというより、おっとりとしてどこか気弱なイメージがあった。
私が病院から退院し学校に通い始めてしばらくは、体調もだが精神的に落ち込むことが増えた。
だが自業自得だと分かっているため友人達に弱音を吐きたくなく、休み時間や放課後に人気がない場所を探してそこで一人になることがあった。
そんな時、その男の子が私を探しに来てくれた。
私が落ち込んでいる理由を無理に聞き出そうとせず、あれこれ話しかけたりせず、ただ横に座って待っていてくれるようになった。
何度か大丈夫だから放っておくように言ったこともあるが、具合が悪くなると心配だからと言って側に居てくれた。
彼の優しさには気付いていたがその時の私は全く余裕がなく、むしろこんな汚い人間は見限って欲しいと半ば腹立たしくさえ思っていた。
時間をかけて少しずつ体調が戻っても、自分への嫌悪感や罪悪感は消えず苦悩する日々は続いた。
時には酷い言葉も投げかけてしまっただろうし冷たい態度もとったと思うが、彼は悲しそうな顔をしても、側に居ることを止めたりしなかった。
そんなことを繰り返すうちに、ふと『こんな自分を見限らず側に居てくれること』が嬉しいと思えた。
そして、私の側に居てくれた彼に感謝をし、そんな優しい性格が好きだと感じた。
あんなに冷え切った胸の中に彼に対する小さな恋心を抱いていた。
だが私は、母を裏切って父と長年あんな行為をし続けた上、自分の身勝手で子供を殺したような女だ。
こんなにも汚らしい体と心では愛する資格も愛される資格もないと、自分の気持ちは心の奥底に埋めて無かったことにした。
後ろめたい気持ちを抱き続け1年が過ぎ、高校3年生に差し掛かる頃
「前からずっと好きだった。付き合って欲しい」
彼から突然の告白を受けた。
自分が彼を想っていたのと同じように、彼が自分を想ってくれていたことが嬉しかった。
それと同時に、彼の気持ちを無下にし断らなければならないことが悲しかった。
私は自分が幸せになる資格が無いことや愛されるような性格ではないこと、色々な理由をつけて断ろうとした。
誰かを妬んだりしたこと、傷付けてしまったこと、ズルいことをしてしまったことを言葉で並べ立て、付き合うには最低の人間だと証明しようとした。
だが彼は、私が言った言葉ひとつひとつを根気よく否定し、それでも構わないと言ってくれた。
「そういう所も全部引っ包めて好きだから、付き合って欲しいと思ったんだ」
こんな風に幸せな気持ちになるのは許されないだとか、不幸にならなければ私が殺してしまったあの子に申し訳ないとか頭の中では色々考えているのに、その言葉が私の胸に埋めてしまった気持ちを掘り出した。
ダメだと必死で止める自分がいるのに、彼を好きだという気持ちが溢れ出して止まらなくなった。
泣き出しつつ付き合うことを了承した私を、彼はぎゅっと抱きしめて「ありがとう」と言ってくれた。
こうして私は、自分の罪深さを知りつつも彼の恋人となった。
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