キンシコウ修行に出る

けものフレンズ大好き

キンシコウ修行に出る

「私修行の旅に出ようと思うんです」


 ある日のこと、ハンター仲間の2人に、キンシコウちゃんはそう言いしました。


「どうしたんだキンシコウ、いきなり?」

「そうですよー」

 リカオンちゃんもヒグマちゃんもびっくりしています。


「黒セルリアンと戦ったとき、私最初に倒されたじゃないですか。その時思ったんです。このままじゃいけないって」

 真面目で責任感の強いキンシコウちゃんは、あのときの出来事にずっと不甲斐なさを感じていたのです。

「うーん、まあそうだな」

 はっきり物を言うヒグマちゃんは、キンシコウちゃんの話に素直に頷きました。

 キンシコウちゃんの顔がちょっと引きつります。

「黒セルリアンを倒して以来、そこまで危険なセルリアンも出現していませんし、今がそのチャンスだと思うんです。もし2人が反対するならやめますが……」

「いや――」

 ヒグマちゃんは首を横に振ります。

「いいんじゃないのか。それにリカオンも私達に頼りすぎなところがあるからな。サポートじゃなく主力として戦う良い機会だろ」

「う、きつそうなオーダーですね……」

「ありがとうございます。それでは行ってきます」


 2人に見送られキンシコウちゃんは旅立ちます。


 キンシコウちゃんが最初に向かったのはとしょかんでした。

 丁度ジャパリまんを食べていた博士ちゃんと助手ちゃんは、はっきりと迷惑そうな顔をしています。

「こんにちは」

「なんですか藪から棒に」

「私達は食事中です。食事を楽しんでこその人生なのです」

「それでは食べながらで良いので話を聞いてください。実は私、今までの自分を見直して修行をしようと思っているのですが、具体的にどうすれば思いつかなくて……。2人に何か良い案がないかと相談しに来たんです」

「なるほど……もぐもぐ……もっと強くなりたいと……もぐもぐ」

「それなら……もぐもぐ……へいげんちほーに行って……もぐもぐ……ライオンとヘラジカに会うと良いのです。あの2人とヒグマは……ごっくん……おそらくこのあたりで一番強いのです……もぐもぐ」

「……ごくん。お前は強いフレンズはヒグマしか知らないのです」

「だったら他のフレンズとも会って、ヒグマとは違う鍛え方を知ると良いのです」

「なるほど……ありがとうございます」

 キンシコウちゃんは2人に頭を下げます。


「ああ、あとヒグマにまた料理を作りに来るよう伝えるのです」

「私達はいつでも待っているのです」

「分かりました。感謝していると伝えておきます」

「それは言いすぎです」

「まだまだそこまでの腕ではないのです」

 

 それからしばらくして――。

 

 へいげんちほーに到着したキンシコウちゃんは、早速ライオンちゃんとヘラジカちゃんを探します。

 2人は丁度ひなたぼっこをしているところでした。


「いいところにいました。実は2人に相談があるんです。私は今修行の旅に出ているのですが、どうすればそんなに強くなれるんですか?」

「それは毎日ライオンと競い合っているからだ!」

 突然立ち上がり、ヘラジカちゃんは自信満々に即答しました。

「ま~戦ってるといってもほとんど遊んでるようなものだけどね~」

 一方のライオンちゃんはかなりだらけています。

 黒セルリアンと戦ったときとは大違いでした。

「試しに私達の勝負に付き合ってみる~?」

「ぜひ!」


 こうしてキンシコウちゃんは2人の勝負に付き合うことになったのですが――。


「パスパース!」

「ここでシュートでござる」

「止めるぞ!」

「あー決められちゃったか……」

「今日は私の勝ちだな!」

「・・・・・・」


 勝負内容は鞠を蹴るサッカーのようなもので、修行のカケラもありませんでした。

 キンシコウちゃんの目にも、そもそもやっている本人達にとっても遊びとしか思えません。

「あの……これで本当に強くなれるんですか?」

「さあ?」

 思わず呟いたキンシコウちゃんの言葉に、ライオンちゃんが答えます。

「でも勝負してるから強くなったって……」

「ヘラジカさまはライオンと勝負する前から強かったですわ」

 ――とシロサイちゃん。

「大将はヘラジカと勝負する前から強かったぞ」

 ――とオーロックスちゃん。


「……つまり今までのは全部無駄だったと」

 キンシコウちゃんはガックリ肩を落とします。

 そんなキンシコウちゃんに、ライオンちゃんは宥めるように声をかけました。

「あのさー。ハンターってパークで一番危険な仕事だから、それ自体が一番の修行なんじゃないの?」

「それにヒグマもいるしな! あいつは強いぞ!」

 ヘラジカちゃんも続けて言います。

「そうだね~。ヒグマと一緒にセルリアンと戦うのが一番の修行なんじゃない?」

「なんと……」

 キンシコウちゃんは目から鱗が取れる思いでした。


 そして――。


「どうやら一番の修行は2人とハンターを続けていくことだとわかりました」

 戻ったキンシコウちゃんは、少し恥ずかしげに言いました。

 キンシコウちゃんの話を聞いた2人は、こらえきれずに笑い出しました。



 こうしたハンター達の日夜たゆまない努力により、パークの平和は保たれているのですね。


                                おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

キンシコウ修行に出る けものフレンズ大好き @zvonimir1968

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ