ゆきやまちほーの隙間話

桑白マー

〈ふく〉

「すっごく気持ちよかったね!かばんちゃん!」

 サーバルキャットのサーバルと、ヒトのかばん。ふたりは〈ジャパリパーク〉の〈さばんなちほー〉で出会い、一緒に旅をしているとっても仲良しのフレンズ。

 この日は、ここ〈ゆきやまちほー〉で起きた問題を、みんなで協力して無事に解決!仲良しになった〈ギンギツネ〉と〈キタキツネ〉のふたりに、〈おんせん〉に連れてきて貰いました。

「そ、そうだね…サーバルちゃん」

 かばんは、話しかけるサーバルの方を向いていません。とっても恥ずかしそうに、反対の方を向いています。

「?どーしたの?かばんちゃん」

「さ、サーバルちゃん。そろそろ服を着たほうが、いいんじゃない?」

 そうです。おんせんから出たサーバルは、裸のままでウロウロしていたのです。


「〈ふく〉かぁ…これ、また付けなきゃダメかなぁ」

「ええー?」

 かばんは驚いて、つい振り向いてしまいました。そこには、生まれたままの姿のサーバルが…あ、いえいえ。サーバルたち〈アニマルガール〉にとっては、服を着た姿が生まれたままの姿なのです。なんだか、混乱してしまいますね。


「だって……服を着ないと、寒いよ?」

「寒い?ぜーんぜん!とーっても暖かいよ!もーポッカポカ!」

「そ、そうなの?」

 そう言われると、かばんは強く言えずに困ってしまいました。そもそも、当のかばんも、どうしてこんなに恥ずかしいのか、よくわからないのです。

 困ったかばんは振り返り、足元を見ました。そこには、この〈ジャパリパーク〉のガイドロボット、〈ラッキービースト〉がいました。


「ラッキーさん、どうしましょう」

 普段は無口なラッキービーストですが、ヒトであるかばんはラッキービーストとお話ができるのです。ピコピコと考え事をしたラッキービーストは、かばんにこう言いました。

『サーバルキャット ハ、アセヲ アマリ カカナイ カラネ。イチド タイオンガ アガレバ、ナカナカ サガラナイ ンダ』

「そうなんですか?」

 ガイドロボットであるラッキービーストは、とっても物知りです。

『ダケド、ココカラハ トッテモ サムイカラ ネ。ケガワガ ナイト シンジャウ ヨ』

「「ええーーっ!!」」

 ふたりはとても驚きました。

「サーバルちゃん、やっぱり服を着ないと!」

「うん!わたし、ふくを着るよ!」


 かばんは、サーバルの着替えを見ないように、後ろを向きました。

「あれっ?あれっ?あれぇ?困ったなぁ…かばんちゃーん」

「どうしたの?あぁ…サーバルちゃん…」

 かばんが振り向くと、サーバルは自分の洋服を身体に巻きつけながら困っていました。

「どうしよう……?ふくって、どうやったら付けられるの?」

「えっと、脱いだ順番を逆にすれば、着られるよ」

「順ばーん?わたし、そんなの覚えてないよ!」

「ええっ、そうなの?」

 自分の服をグルグルと回したり、ポトリと落としているサーバルを見て、かばんは少し悩んでいました。でも、サーバルを放ってはおけません。よし!と気合いを入れます。

「じゃあ、僕が教えてあげるね」

「ええー!かばんちゃん、わたしのふくの順番も覚えてるの?凄いよ!」

「覚えてるっていうか、たぶん、僕のとそんなに変わらないと思うから」


 かばんは、カゴの中をゴソゴソと探し、まずは一枚目を見つけました。

「あぁぅ……じゃ、じゃあこの服に、足を通してみて?」

 かばんは、顔を赤く染めながら、下着をサーバルに渡しました。サーバルは下着を受け取りましたが、うまく掴めません。

「うみゃぁ〜。上手に掴めないよ〜。かばんちゃん、どうすればいいの?」

「ええっ!?えっと、こう、こうやって広げて……」

 かばんは、顔を更に赤くして下着を広げました。

「すごいや、かばんちゃん…あっ、そうだ!かばんちゃん、そのまま広げててね!」

 そう言うと、サーバルはかばんが広げている下着に直接足を突っ込みました。

「うわぁああ!さ、サーバルちゃん!ぅぅぅ……」

 仕方がないので、かばんはそのまま下着を上に持ち上げ、しっかりと下着を履かせました。

「わー、ぴったり!凄いよ、かばんちゃん!」

「あはは…じゃあ、次は……」


 かばんは、カゴをゴソゴソと探しました。でも、今度は見つかりません。

「あれ?おかしいな。みつからないや」

「次は何を付けるの?」

「えっと、もう一枚、直接着る服が、見つからなくて…」

「えっ、これ、もう一枚あるの?」

 サーバルは、今履いた下着を確認するように、お尻を振っています。

「それじゃなくて、今度は胸に付ける服があるはずなんだけど…」

「えー?そんなの、なかったけどなぁ。かばんちゃんは付けてるの?」

「うん。僕は着てるよ」

「そうだ!じゃあわたしも探すから、どんなのか、かばんちゃんのを見せてよ!」

「ふぇぇ!?」

 かばんは慌てましたが、たしかに言葉では説明しにくい形状です。仕方がないので、かばんは自分の物を見せることにしました。


「えっと、こういう形ので……」

 かばんは顔を真っ赤にしながら、上着の裾を少しずつたくし上げました。よくは分からないけど、とっても恥ずかしいことをしている気分です。

「へー、凄いね!でも、やっぱりないみたい!」

 サーバルはカゴを逆さにひっくり返しましたが、下着は見つかりません。仕方がないのでかばんは下着を諦め、そのまま服を広げました。

「じゃあ、こっちの穴に腕を通してね。そしたら、反対側にも腕を通して、っと」

 かばんは、サーバルに服を羽織らせると、正面に回り込み、ファスナーを閉めようとしました。

 すると、うっすらと桜色に染まったサーバルの身体がファスナーの隙間から見え隠れしています。

「あぁぅ……」

 かばんは、なんだか悪いことをしている気持ちになりました。


「最後にこれを結んで…はい、おしまい!」

 かばんは、サーバルの首にチョーカーを結びました。時間はかかりましたが、やっとサーバルに服を着させてあげられました。妙な緊張のせいで、かばんは汗びっしょりです。

「ありがとう!かばんちゃん!」

振り返ってかばんを見たサーバルは、驚きました。

「うわぁ、かばんちゃん。びっしょりだね!」

「えっ?あっ、本当だね。あはは」

『モウ イチド、オンセンニ ハイッタホウガ イイヨ。ソノママ ダト、ビョウキニ ナッチャウ カラネ』

「そうなんですか?じゃあ、僕、もう一度入ってくるね、サーバルちゃん。もう少し待って貰える?」

「うん、わかったよ。わたし、キタキツネに〈ゲーム〉を教えてもらうよ!」


 かばんは、おんせんにもう一度入りました。ゆっくり手足を伸ばし、ゆきやまの景色を楽しんでいると、突然何かがおんせんに飛び込んできました。

「うわぁー!た、たべないで…」

「だから、食べないよー!」

「えっ、サーバルちゃん!?」

「えっへへー。やっぱりわたしも、かばんちゃんと一緒におんせんに入るよ。後でまた、ふくを付けてね」

「もー、サーバルちゃんったらー」

 ふたりの笑い声は、ゆきやまに広がって、いつまでも、響き渡っていました。


「あー、おんせんはいいねネネ…」

 この子は、そんなふたりの一部始終を見ていた〈カピバラ〉ですね。


おしまい

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ゆきやまちほーの隙間話 桑白マー @Qwuhaku

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