3

 雄二は、ドアを開くなり目を丸くした。


「お前、そんな格好で来たのか」


 あなたは無視して、


「申弥の顔は覚えてる?」


「茶白の雄だろ。首輪はしてたっけ?」


「うん」


「なら、すぐわかるな」


 雄二は紺のピーコートを着ていた。神経を尖らせているときの癖で、キーホルダーを指に引っかけぶんぶんと回している。泉さんのことが気になるらしい、ロビーまで降り、オートロックを抜けて、駐輪場へ向かう間、絶えず周囲に目を光らせていた。


「二手に分かれよう」雄二は三段変速のシティサイクルを出庫させながら言った。「連絡は――って、スマホ持ってなかったな」


「捕まえたら、駄菓子屋の前で待ってて」


「逃げられないか? 僕の顔なんて覚えてないだろ」


「とりあえず試してみて。逃げられたら……そうだね、やっぱり駄菓子屋の前で待ってて。わたしも定期的に立ち寄るから」


「まあ、そんな遠くには行かないだろうしな」雄二は言った。「コンビニで猫のおやつでも買っておくよ。少しは捕まえやすくなるだろ」


「ありがとう」


 雄二は変速機をカチャカチャさせながら、


「自転車使うか?」


「ううん、いい」

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