用語録

※ 開示される情報の一部に裏設定を含みます。

※ 随時加筆・修正されます。


・物(もの/Object,Entreater)

 長い間人の傍にあり、その経験と感情を積み重ねた結果、命と肉体を得て動き出した器物。また或いは、人から得た経験と感情が、あたかも自分自身のアイデンティティであるかのように振る舞うもの。生ける物とも言う。

 どの物も一様に、人の身に使い込まれた器物の頭が付いた、所謂「異形頭」と呼ばれる姿を取る。性格は物によって千差万別であるが、動き出す前にその器物を使ってきた人間(所有者)の性格を引き継いでいることがほとんど。ただし、僅かな時間で激烈な経験を叩き込まれた物や、人に棄てられた後長い時間を掛けて動き出した物はその限りではなく、前者の場合であっても後に生きている中でいくらでも性格は変わり得る。新品の物が生ける物として動き出すためには、人間が経験と記憶を刻むことが前提条件となる。

 ほとんどの物は、生まれつき持っている名(真名)とは別に、自身または周囲が付けた名(通り名)を別に持つ。初対面のものには原則通り名のみを名乗り、真名を明かすのは非常に親しい間柄のみ。その理由は明瞭ではないが、多くの物は真名を自身の自我の中核或いはそれに極めて近い位置付けにあるとみなし、触れられることに生理的嫌悪感を覚えると言う。ただし、出生とその後の経験により、真名を明かすことに抵抗をなくしたケースもちらほら存在する。

 原則は不老不死。非常に特殊なケースを除き、全ての物は動き出した瞬間の見た目でほぼ固定され、そこから老いることも劣化することもない。また、あくまでも人の構造を模倣しかしていない都合上、人にとっての致命傷が物にとっても致命傷となるとは限らない。一応頭と人の身の境目が物にとって共通の急所とされるが、構造的に傷付け難い物も多々いる。

 彼等へ明確に死を定義するものはただ一つ。“心が折れること”。それだけである。


・物殺し(ものごろ-/Restorer, Objectkiller)

 物が意志持つ世界に存在する、ある種の役職・称号の一つ。あるいは、意志を持った物をもう一度ただの器物へ“還す”ことを役目とする人々。

 その全てが他の世界から招かれた者であり、今までに最低でも九回物殺しが招かれている。その年齢や性別、門地、人数には今の所制限がなく、七十代の老女から男子中学生まで様々。ただし、全員が全員物殺しとしての任務をこなせた訳ではなく、中には案内人を脅してすぐに帰ってしまったり、恐怖のあまり一人も殺せなかった物殺しもいる。

 物殺しにはアーミラリから役目の遂行に有用と考えられる“案内人特権”が貸与される。が、アザレアのように、一見何の役に立つのか良く分からない特権が貸与される物殺しもおり、基準は不明である。

 尚、招かれた後にどんな物をどれだけ還せば良いかの明確な基準は存在しない。百人を斬り殺しても五十人を成仏させても、それらは全て同価値であるとされる。


・“案内人特権”(あんないにんとっけん/Astronomer's prerogative)

 物が持つことの出来る、理から踏み外れるための権利。或いは、その権限によって引き起こされた事象そのもの。ひとによって呼び名は様々であり、「能力」と呼ぶこともあれば単に「力」と呼ぶこともある。作中で使われる“案内人特権”の呼称が何時から用いられ始めたものかは不明。“案内人特権”の所持者は往々にして「特権持ち」と称され、一目置かれる。人間には付与されないが、案内人アーミラリによって貸与された分に関しては自由に行使できる。

 非常に独自性の高い経験や長期間似たような経験を積んだ物に付与され、権利の種類はその物が積んできた経験に最も沿うものが適用される。即ち、戦闘ばかりしていれば暴力的な“案内人特権”を、癒しを与えることが多ければ他者を癒す特権を得る。これらの特権にはそれぞれ識別名があるようだが、大体使用者を見れば分かってしまうので使わないことの方が多い。

 尚、多くの特権は使える状況や範囲が限定され、汎用性の面で言うと大したことのないものが多い。有用な特権であっても代償が重く迂闊に使えないことがほとんど。

 “案内人特権”を使えない物であっても、現在の自身の正常さを代償とすることで、未来の己が得るであろう特権を強引に前借りすることが可能。ただし、その後無事に生きていられるかの保障はない。


・“起こす”(お-/Awake)

 命を得られるほどの意志や経験を持たない物に対し、別の物が能動的に経験を補填して命を持たせること。人が命を与える通常の生誕と異なり、“起こす”ことは物にのみ可能な行為である。

 不足しているところに継ぎ足す関係上、相応に長く生きた物、または短期間のうちに強烈な体験をし続けた物にしか出来ない。そっくりそのまま移譲しているわけではないため、“起こす”際に用いられた経験や記憶は“起こした”物にもそのまま残る。それでも負担は大きいようで、一人の物につき三人程度までが“起こす”ことの出来る限界とされる。

 “起こされた”物の服装や性格は概ね“起こした”物のそれに類似する。ただし、元々の所有者から由来する経験や知識も混在するため、性格や行動はより複雑になることが多い。


・人物共同墓地(じんぶつきょうどうぼち、ビーイングセメタリー/Being cemetery)

 人間および物のどちらの遺体・位牌も受け入れることを確約する墓地。本編では月の原にあるゾンネ墓地が該当する。

 往々にして“粗悪品”の遺骸を引き受けることになり、人間または物のみを専門に受け入れる墓地と比較して非常に多忙。ほぼ毎晩にわたって死体を見る羽目になるため、数自体も墓地の管理者も極端に数が少ない。ほとんどの場合管理者は物である。

 大量の遺体を受け容れる関係からか、葬送の形態は最終的な遺体の容積が小さな火葬が主。


・“粗悪品”(そあくひん/inferior)

 意志が足りないまま命を得た物。または‟廃物”を含めた理性知性のない物の総称。

 辛うじて動く身体と身体を動かすために必要な最低限の本能行動を持つが、それ以上の知性や理性には極端に乏しく、人や物を見ると足りない意志を補填しようとして襲いかかってくる。とは言え、まともに動かない身体を無理に動かしているだけの存在である為、単体であれば一般人でも排除可能な程度。

 彼らを救うには還すしか手段がなく、彼らに関しては物や人も殺しに躊躇いを持たない。


・inferinone(インフェリノン)

 アンフェタミンを母体骨格とする向精神薬の一種。物を“廃物”に変えるほどの強い精神汚染を引き起こすことから、inferior(粗悪品)から意味を取りinferinoneと名付けられた。『-none』と付いているがキノンではないらしい。

 AとBの二種があり、それぞれ物と人、精神と肉体に強く作用する。Bの方は強力なドーパミンの再取り込み阻害剤であることが分かっているが、Aの作用機序は不明。

 使用すると『神経が灼けつくよう』とも形容されるほどの強い陶酔感と多幸感を与え、不眠や緊張、不安感を一時的に解消する。一方で異常に強い精神・身体双方への禁断症状と極めて悪質な依存性を持ち、作用が切れた途端強い不安感や幻覚・幻聴に襲われる。その苛烈さは、苦痛のあまり床を這い、爪を剥がしながらのた打ち回るほど。物によってはそれに加えて知覚障害を得ることもあり、使用者によっては掻痒感に苛まれて全身を掻き毟り、肉までも毟り取ると言う。

 ちなみに、上記のような効果は物に対してAを、または人に対してBを使用した場合。物にBを使ったり人にAを使ったりした場合の効果は、通常の麻薬指定薬物と比較してもはるかに穏便なものである。


・“廃物”(はいぶつ/Refused)

 何らかの理由で理知性をほぼ失い、“粗悪品”に近い状態に陥った、元は普通の物。行動の仕方はほとんど“粗悪品”と変わらないので、多くの物や人の間では“廃物”も“粗悪品”も一緒くたに“粗悪品”と呼び、これと同じ扱いを受ける。即ち、積極的な排除対象。葬儀者トートはこれを良しとしていない。

 理知性が欠落しており、普通の人や物を見ると襲ってくる辺りは“粗悪品”と同じ。しかしながら、“廃物”の場合は元の理知性を残していることがあり、人の強い敵意や殺意に対して怯えたり逃げ出したりするような行動を取る。また、元が“案内人特権”の持ち主であった場合はこれを行使するか暴走させていることも。中には知性を保ったまま狂気に陥るケースもあり、その場合は“廃物”となる以前の行動パターンを偏執的に模倣する。

 何より“粗悪品”と違うのは、彼等が元に戻る可能性を秘めていること。すなわち、どうにかして喪われた理知性を補填することが出来たならば、“廃物”は“廃物”でなくなる。

 クロッカーは普通の物を“廃物”に変えうる薬物『inferinone』を所持している。


・『ペンテシレイアの瞳』(-ひとみ/Penthesilea's eye)

 セイヨウノコギリソウの、この世界における非常に古い呼び名。モールディ曰く「戦士アキレスの負った傷をペンテシレイアがこの草を用いて癒した故事に基づく」とのこと。

 現在では文学表現としても用いられない別名であり、ハーブを専門に学んでいるものでも知らないことの方が多い。アーミラリですら、知ってはいるが咄嗟に思い出せるほどメジャーな知識ではない。


・名家(めいけ/The mays)

 物の街から人の街一帯を統治している一族。彼等の統治圏はまるごと名家の自治区として指定されており、自治区を内包する国家からの制約を受けつつも独自の政策を展開している。

 最低でも五百年の歴史を持つ由緒正しい家系であり、その発言力は国会と比しても引けを取らないほど。名家独自の公安組織『眼隠めかくし』を従え、裏組織にまつわる諸問題を一手に引き受ける等々、政治的にも大変影響力が高い。

 一方で先天性の難病を抱える家系でもあり、一家の男児は長くても五十代を終えぬ内に命を落とす。現在の当主も同じ病を得、そして息子を喪った。今の所は健勝であるものの、いつ倒れるかは誰にも分からず、そして誰にも治せない。

 家の起源はとある王国の王に仕えた、『王の舌』と呼ばれていた男。元々は正確な系譜も分からぬ奴隷の子であり、王によって召し抱えられた際『名千言めいせんげん』の名を下賜されたことが名家のはじまりである。


・裏組織(うらそしき/mafia)

 所謂『極道』や『ヤクザ』と呼ばれているものの集まり。物の街一帯を含めたある国の思想や行為に於いて対極を成し、これに叛逆・反対しているはぐれもの集団。基本的にどの団体も一般市民へ干渉することはなく、いささか後ろ暗い物流や娯楽を仕切っている。

 規模はどうあれ、どの街にも一つか二つくらいは裏組織の団体がある。中には名家よりも起源の古い団体や、その過激さ故に名家の勢力を完全に凌駕してしまう団体もあり、彼等との関係構築は名家の当主がまず頭を悩ませる問題。経済に深く根を張っている組織も多く、安易に潰したり追い払ったり出来ないので余計に厄介なものどもである。

 名家の勢力内では、人の街に本拠を持つ『華神楽はなかぐら』と、名臥なぶせのみを勢力圏とする『洞臥ほらぶせ』が二大裏組織として認知される。

 かつては『つぐみ』なる急進派の裏組織が日立を中心に活動していたが、組織内で薬物が蔓延した結果、組長以下組織構成員が同士討ちを開始。ほどなくして自壊した。


・連(れん/Ren)

 この世界の通貨単位。一連=一円。

 物価は概ね現代社会に準じる。

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