冬空に想う

ごんべい

冬空に想う

 マンションのベランダで煙草を吹かしながら、雪色に染まる街を見ていた。それはきっと感傷に浸りたかったからだと思う。

 高校生の頃、私はあなたに恋をした。

 いや、その感情を恋と呼んでいいものか、正直今でも分かってない。

 ただ、それは私の中で初めて芽生えた感情だから、仮に恋と名付けているだけだ。

 とにかく私はあなたを独り占めしたかった。他の女の子とおしゃべりして欲しくなかったし、あなたの笑顔が私以外の人間に向けられるのは不愉快だった。

 昔から、あなたは私に優しくしてくれた。無愛想で、不器用な私に笑いかけてくれた。その笑顔は別に私だけの特別な物じゃなかった。だから、私はそれを特別な物にしたかったんだと思う。

 自分の気持ちをあなたに伝えるのは、気が引けた、もしもそのまま伝えれば、あなたに嫌われるかもしれないと思うと、怖くて言い出せなかった。

 だから、自分の想いを隠したまま、あなたとあの娘が仲良くなっていくのを黙ってみていることしかできなかった。

 ある日、あなたは私と一緒にお昼ごはんを食べてくれなくなった。 

 ある日、あなたは私と一緒に学校に行ってくれなくなった。

 ある日、あなたは私と一緒に学校から帰ってくれなくなった。

 ある日、あなたは私と一緒に出かけてくれなくなった。

 ある日、あなたは私と一緒に居ることを拒絶した。

 ある日、あなたは私に笑いかけてくれなくなった。


 私からあなたの笑顔を奪ったのあの娘が許せなかった。あなたが私と一緒にいてくれないのが不満だった。

 ああ、この感情の名前は知っている。この感情の名前は怒り、っていうのよね。

 だけど、あなたが私の特別になって欲しいっていう想いは変わらなかった。だから、あなたを殺すことであの娘に復讐して、あなたを永遠に私だけの物にした。

 この想いは、愛情と認められるかしら。恋慕だと言ってくれるかしら。それとも、これはただの復讐心なのかしら。

 冷たくなったあなたの頭を抱きしめても、何も分からない。何も答えてくれない。

 私は狂っているのかしら? あなたの笑顔が欲しかったから私、頑張ったのよ。あなたがあの娘と結婚してから、ずっと死体を綺麗に保存する勉強をしていたの。

 だから、ほら、今あなたは私に見せてくれた笑顔をずっと私に向けてくれる。

 その笑顔を見ていると安心するの。ああ、あなたは永遠に私の物なんだなって。これって、世の中の恋人同士ではあり得ないことよね。 

 あなたの笑顔が本当に好きなの。もう「あなた」が好きなのか「あなたの笑顔」が好きなのかもよく分からないわ。

 だから、この想いの名前が未だによくわからないの。昔から抱いているこの想いの名前が。

「それはね、僕がキミを好きだって感情と一緒の名前なんじゃないか」

 ただ、私はあなたにそう言ってもらいたかっただけなのかもしれない――。

 

 

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冬空に想う ごんべい @gonnbei

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